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【掌編小説】あなたと私とホワイトスノーマンラテ⑤

こちら、続編になります。
お時間があるかたは是非、前のお話からどうぞ ↓
あなたと私とホワイトスノーマンラテ④

初めての方はこちらからどうぞ ↓
あなたと私とホワイトスノーマンラテ①

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数時間前に来た道を駅へと向かって歩いていく。朝は一人で通った改札を今度は2人で通り抜けた。

ホームへと続くエスカレーターを登りきると丁度よいタイミングで電車が到着した。車内に足を踏み入れると田所が右手でちょいちょいとリンを手招きする。昼過ぎの少し混み合う時間帯だったがおかげでリンはドア付近の角に体をおさめることができた。

一息ついたリンは、今日一番、田所との距離が近いことに気づいた。黙っていると恥ずかしさが募っていく。急いで話題を探し、話し始めた。

「車内、混んでますね。みんな初詣かな? って言ってももう5日ですけどね」
「あれ、リンさん知らないの? 初詣は7日までだったらセーフなんだよ」
「7日? 何でですか?」
「松の内って聞いたことある?」
「松ってあの……松、竹、梅の松ですか?」
「そうそう。今はもう滅多に見なくなっちゃったけど、お正月の松飾り、あるでしょ。あれを立てておく期間の1月7日までに行けばOK。地域によっては1月15日までってところもあるらしいんだけど……オレは7日までだーって言われて育ったよ」

松の内、松飾りの期間……。リンにとって初めて知る情報ばかりだった。あまりにも無知だった自分と田所の間に少し距離を感じた。

「田所さん、こういう伝統文化? に詳しいんですね」
リンがそう言うと田所の顔が少し曇った。そして少し遠慮気味にリンに問いかける。
「リンさん、ちょっと引いた? 雑学っぽくて嫌だった?」
「いえ、全然。私、神様は信じてるんですけど知識ゼロなんでいつも神様に申し訳ないなと思ってたんです。だから……むしろ教えてほしいです」

曇っていた顔が一転。田所は胸を撫で下ろす。
「よかった。実はさ、詳しいのはオレじゃなくて姉貴なんだよね。姉貴が大の日本好きでさ。実家にも寺社仏閣に関する本、日本の神様に関する本、なんかよくわかんない置物とかがあんのよ。刷り込みって怖いよね。気づけばオレも人より詳しくなっちゃってさ。友人と参拝とか行ったら「あーっ作法が違う!」とか思っちゃうの。ちょっと嫌だよ?」

そう言い終えた田所はどこか懐かしそうに窓の外の風景に目をやった。
「礼儀を重んじる感じ、素敵ですね。今日は私の作法、おかしいと思ったら全部言ってくださいね」
すると田所は再びリンの方に顔を向け、いつもの笑顔をくれた。

他愛ない会話をしているうちに電車が神社の最寄り駅に到着した。駅のホームの掲示板を確認し、西口へ向かう。階段を登り切ると
「嘘……」
傘なしではしっとりと濡れてしまうであろう程の雨が降っていた。
「今日、雨なんて言ってたっけ?」
「ううん。私、傘持ってない……」

リンは空を見上げた。見渡す限りどこまでも曇り空が続いている。
「オレ一人なら傘無しで行くんだけどリンさん濡らすわけにいかないからなぁ」
田所はキョロキョロと周りを見回す。
「ちょっとマシになったら傘なしで行きましょう?」
「でも新年早々風邪引かせちゃったら嫌だからなぁ。オレ、そこのコンビニで傘買ってくるからさ、3分くらい待ってて!」
「いや、でも」
「いいからいいから」
そう言い残して田所はコンビニへ向かって駆けていった。


携帯電話で午後の天気予報を検索していると「お待たせしました」という聞き慣れた声がした。顔を上げるとそこに傘を挿した田所が立っている。
「早い!」
「そかな? じゃあ行こっか」
リンが田所の方を見ると傘は田所が挿している一本しかなかった。田所は少しかがんで傘でリンを迎え入れてくれる仕草を見せている。リンは小さく深呼吸をしてから一歩近づいた。
「お邪魔します」


歩道のすぐ横、塀を隔てた向こう側が目的地の神社なのだが、正門まではぐるっと半周ほど歩かなければならない。歩く度にリンの肩が田所に触れる。予想外の物理的接近は車内とは比べ物にならない。緊張が一気にぶり返してくる。

「リンさん、もしかして……緊張してる?」
リンは黙って田所を見上げた。
「あ、ごめんやっぱ今のなし」
答えを言いかけたリンを遮って田所は再び前を向いて歩き始めた。

――あの時と同じだ。

平静を装って歩いているのだろう。しかし、田所の耳は赤かった。リンは黙って下を向いて、田所にばれないように笑みを浮かべた。


ドキドキと共に歩くこと約5分。
想像以上に大きな正門の前に二人は立っていた。
「うわぁ……」
リンが感嘆の声を上げたその横で田所は空を見上げる。
「リンさん、残念だけど雨、止んじゃった」
「……残念?」
「残念じゃない?」
「……教えません」
傘をたたむ田所から少し距離をとりながらリンが言う。
「ごめんごめん。じゃ、お邪魔しましょっか。はい、まずは一礼」
二人揃って正門の大鳥居の前で一礼をし、砂利道に足を踏み入れた。

サクサクと心地よい音を立てながら歩いていくと右手に手水舎が見えた。
「はい。じゃあ手を洗います。……知ってる?」
「……すみません、いつも省略してました」
「じゃあ今日は省略せずにいきましょう。作法はちゃんと言うっていう約束だもんね」

「右手で柄杓を持って、水をくんで、左手にかけます」
リンは見様見真似で柄杓を操る。
「次は逆ね。そしたらまた持ち替えて、左手で水を受けて口をすすぐ」
リンとは対象的に田所は慣れた手付きで手水を使う。
「最後に左手をすすいで、残った水で柄杓の柄を洗って終―了―!」
「勉強になりました」
「それは、よかったです」

そして二人はまた、音を立てながら本殿へと続く道をゆっくりと歩き始めた。初めて手水舎で正式な作法を成し遂げたリンは、自分が神社にふさわしい来訪者になったような、心が清められたような気がした。本殿へ近づくにつれて気持ちも一層高まってきた。

「雨のせいかな、電車はいっぱいだったけど神社は思ったより空いてるね」

本殿の中央までたどり着いてから田所がリンに問う。
「ニ礼二拍手一礼は?」
「それは流石にわかります」
「OK。あとは、住所と名前を言うと唱えるといいらしいよ。どこの誰です……からのお願いごと。そうすることで神様が自分という“個”を認識してくれるんだって。ちなみにこれも姉貴から聞いたんだけどね」
田所は参拝方法を伝えながら鞄から賽銭を取り出した。リンも習って慌てて賽銭を取り出し、右手に握りしめる。

ニ礼二拍手。

一年の抱負を神様に伝え、一礼を終えたリンは田所の方を見ると、ばちっと目が合った。
「ごめんなさい! お待たせしました! つい色々お願いをしてしまいました」
「いいんじゃないでしょうか。新年だしね」
軽く笑みを浮かべ、階段を降りながら田所が言った。

「そういえばリンさんお守り買う人?」
社務所の前で田所がリンに問う。
「えっとね、交通安全のお守りだけ買う人。仕事で車に乗ることも多いので毎年買ってるの。ごめんね、可愛げがなくて」
「いやいや、交通安全、大事でしょ。事故あったらカフェにも来れなくなっちゃうからね。じゃあ雑学おじさんの知識としてもう一つ。お守りは人からもらったほうが効果があるんだよ」
「自分で選んだほうがいいんじゃなくて?」
「自分を想うのは誰だってできる、だけど人を想うっていうのは誰でもできることじゃない。だから効果が上がるんだって。……諸説あるけど」
「なんか田所さん、諸説あるって逃げ道作ってないですか?」
「それが、オレだよ。……ってことで、交通安全、贈らせて?」
「やだ」
何となく途中から流れが読めたリンは食い気味で答えた。
「……ここはさ、流れに乗るところじゃないの?」
「だって私、前もクリスマスプレゼントもらってるのに。何ていうのかな、うまくいえないけど……一緒にいて居心地が“いい”関係性が“申し訳ない”に変わるのは嫌なんです」
「そっか。じゃあお守りはやめとくね。ただ、人を想うっていうのは誰でもできることじゃないってのは覚えといてね?」
「……はい」


そしてリンは社務所で交通安全のお守りを購入した。ピンク、黄色、緑……。お守りの一つ一つが違う色の和紙で包まれている。何色かある中から迷った挙げ句、今日田所が着ているワインレッドに一番近い色を選んだ。

「よしっ。じゃあ帰ろっか」
「はい」

空を見上げると雨はすっかり止み、曇り空は消えてなくなっていた。透明感のある水色が空一面に広がっている。

「リンさん? いくよー?」
「はーい!」

リンは元気よく返事をすると田所の横へと駆けていった。

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あなたと私とホワイトスノーマンラテ⑥

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