新婚旅行ビギンの話
〇〇さんの、昨日のスケジュールなるべく細かく教えてもらえますか?
はい、体調と濃厚接触者と、職場の感染対策と他の従業員さんの体調も。
聞こえづらい?いま、ちょっと電波悪いところ走ってて。
ここは沖縄。那覇空港でレンタカーを借り、宿泊するホテルとの中間にある有名なソーキそば店を目指していた。
ペラペラペーパードライバーの妻の運転で。
2022年3月。いまだコロナウイルス感染拡大の猛威が奮っていた。
我々夫婦は三度延期したハワイへの新婚旅行を諦め、行き先を沖縄へ変更。海外旅行のために貯蓄していた資金をもとに、沖縄で豪遊新婚旅行をするのだ!
会社のパソコンを持ち歩かずに宿泊するのは、今回が初めてだった。
社内外を問わず、土日を問わず、昼夜を問わず、仕事の連絡が入る日々。結婚式の日でもキャリーケースにパソコンを入れて有事に備えていた。
今回は大丈夫。上司にもちゃんと新婚旅行って言ってきたし、繁忙期でもない。パソコンは置いていこう。念のため、スマホだけは持っていこう。
沖縄は3月でも暖かかった。二人とも羽織っていった上着を脱いで、半袖でレンタカーに乗り込む。
カーナビにスマホをBluetoothでつなぎ、事前につくってきた「沖縄プレイリスト」を流す。沖縄にいるのに、沖縄にまつわる曲を聞く!
天気は曇り。
でも、これから最高の旅が始まる!

アンマーよ〜!
あなたは〜私のぉ!
ノリノリで歌う僕をよそに、助手席で妻に持ってもらっていた僕のショルダーバッグが、嫌なリズムで振動する。この嫌なリズムは紛れもなく、僕の仕事用スマホが生み出すバイブレーションだ。
〇〇店Aさん
表示された発信者を妻が読み上げてくれた。
どうすんの?出るんでしょ?
これ?出るんでしょ?
妻の顔が見れない。運転中だから。
真っ直ぐ前だけを見ろ、俺。
いや、出ない!
緊急だったらメールくるよ!
そう言って僕はアンマーを口ずさむ。
一度鳴り止んだ着信音は、僕のアンマーを掻き消すように再度鳴り始める。
どうすんのよ?急ぎなんじゃないの?
妻も営業職。こう言う時は話が早い。
が、今日は新婚旅行。顔が見れない。
あの、じゃあ、ワタクシノミミモトニスマホヲ...
アンマーの音量をゼロにし、最大限の申し訳なさを乗せた小さな声で妻にお願いする。
あぁ!ずっきーさん!やっと出た!
いやぁ実は、うちの従業員がコロナに感染しちゃって、熱はないんだけどさ〜
かくかく〜しかじか〜
当時、僕の会社では取引先でコロナ感染者が出ると逐一報告をしてもらい、それを社内に報告する、という流れが出来上がっていた。
その報告書がとにかく細かくて、感染してしまった方の家族構成に始まり、数日間の行動履歴、社員との接触状況などを聞き取り、まとめなければならなかった。
その煩わしさから、報告をしてこない取引先もいたし、報告を受けても社内にあげない社員もいた。
しかし、Aさんは真面目に律儀に報告をしてくれた。なんで今日なの。いま、沖縄だよ。新婚旅行だよ。
で、どうすんの?
妻は察しがいい。似たような事例が家にいる時も何回かあったので、この後僕が上司に報告することも分かっていた。
あの、じゃあ、電話帳から〇〇部長検索してもらって、ワタクシノミミモトニスマホヲ...
大丈夫。だって今日は新婚旅行だよ?
俺、いま沖縄だよ?これからソーキそばだよ?
報告書作れなんて言われな...
おう!そうか!
じゃあ、大変だけどいつも通り報告書まとめて送って!
いま新婚旅行中か!つくれる?
あ、スマホあるから大丈夫か!じゃ!
アンマーは涙そうそうに切り替わっていた。
アノ...
もちろん全て聞こえていた妻は、もちろん半ギレ状態で言った。
次のコンビニで停めて。運転代わるから。
ソーキそばまで30分。それまでに終わらせて。
君と言う人は...!
僕は自分の会社と境遇を呪い、約2年ぶりの運転となる妻にハンドルを握らせ、パソコンを置いてきてしまった後悔を感じながら、涙そうそうスマホを握りしめた。
電話で聞き取りを行い、スマホで報告書をポチポチしていく。妻は沖縄の林道を豪快に飛ばす。
(アノ...それじゃ早く着いちゃうよ...)
心の声は押しつぶし、
ありがとう、とつぶやいた。
そんな、新婚旅行のスタートだった。

ソーキそばも好きだけどじゅーしーも好きです!




あとはシュノーケリングしたり、美ら海水族館行ったり、サイクリングしたりと詰め込みすぎな三泊四日を過ごしました!
スタートこそ躓きましたが、懐の深い妻のおかげで忘れられない新婚旅行になりました!
