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左官|調律から生まれた、94枚の景色


5月末のこと。

ある建設会社さんの正面玄関に飾る
アートパネルの創作壁のご依頼を
いただきました。

94枚の大小さまざまなパネルを
組み合わせ、緑青仕上げでひとつの
大きな壁に仕上げてほしい。

そんな内容でした。

気の遠くなるような、
手間のかかる仕事です。

けれど、
夫が引き受けたということは、
すでに頭の中に完成図がある
ということ。

左官という仕事は、
無から形を生み出し、
さまざまな表現ができる。

そんな美しくて、楽しい仕事だと
私はいつも隣で見ていて感じています。

とはいえ、私の中には小さな問いも
浮かびました。

納期に間に合う?
本当に大丈夫なん…?

そんな心配をよそに、
夫はどこ吹く風。

日々の仕事をこなしながら
夕方になると倉庫にこもり
制作に没頭する毎日。

寝ても覚めても、
頭の中は緑青のことばかり。

「この錆をどうすれば
もっと自然に表現できるか。」

「クライアントのイメージに
本当に届くのか。」

不安やプレッシャーで、
眠れない夜もあったようです。

一方の私は、
相変わらず能天気で(笑)

もしもイメージと違っていたら、
その時は、私たちの倉庫に飾ろうよ。

そう伝えました。

実は心のどこかで、この唯一無二の
作品を手放すのがもったいないと
感じはじめていたのです。

倉庫に飾るなら、自由でいい。
失敗してもかまわない。

その言葉を聞いた瞬間、
夫の肩から力が、ふっと抜けたのが
分かりました。

そこから作品づくりは、
「調律」の視点へと変わっていきました。

ただ仕上げるのではなく、
一枚一枚の音を聴くように。

錆のエッジが強すぎる部分は、
やわらかく包み込むように整えていく。

戦いのようだったエネルギーがほどけ、
作品の中に、あたたかな流れが生まれて
いきました。

それはもう、壁というより、
ひとつの「景色」でした。

夫の内側にある94のレイヤーが、
一枚一枚のパネルに映し出されていく。

そうして生まれたのは、
「生きたアート」でした。

あの夜、夫が眠れなかったのは、
94枚それぞれと対話していたから。
今では、そんなふうに思います。

この作品を通して私が感じたこと。

それは、

内側の波が整うとき、
作品もまた自然に整い、
調和していくということでした。

この壁がクライアントの方々や
訪れる人の心に、

ほんの少しでも、
「強さ」と「あたたかさ」を
届けてくれたなら。

それが、何よりの喜びです。

この壁に宿った想いが、
読んでくださるあなたの心にも、

静かな波紋となって
届きますように。


この壁から始まった「緑青」の物語は、
思いもよらない命との出会いへと
続いていきました。

続きはこちらです。

「左官|青い奇跡ー緑青仕上げとカワセミ」

神戸ヤマチカ
📍神戸市灘区灘南通4-3-3-102/
ショールーム兼事務所
窓口: 090-5900-6549 (平日9〜17時)
🏠詳細はヤマチカ左官公式HPより
https://yamachika-sakan.com/

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