愛を運ぶ旅人であれ(リセット)
香港で仲間たちと熱く語り合い、
湯気の立つ飲茶を囲んで未来を語ったあの日々。
でも胸の奥には、まだ過去の傷と莫大な借金の影が静かに居座っていた。
だから私は、一度すべてをリセットするために日本へ戻ることを選んだ。
山の上の鄙びた温泉、心がほどけていく音がした。
日本に帰ってまず向かったのは、山の上にある静かな温泉宿だった。
湯船に身を沈めると、周りは湯気と静寂。
遠くから鳥の声が聞こえ、風が木々を揺らす音だけが響く。
香港で張りつめていた心が、湯に溶けて少しずつ軽くなる。
「必死にならなくてもいいんだ…」
「立ち止まることも、前に進むための一歩なんだ。」
湯の温かさが、そんなことを優しく教えてくれた。
名物の“卵の朝ごはん”が教えてくれた、失っていた感覚
翌朝に出てきた宿の名物、素朴な卵の朝食。
派手さはないけれど、ひと口食べた瞬間に胸がじんわり温まった。
「こんな当たり前の幸せを、いつから忘れてしまったんだろう。」
私はかつて、成功した頃の勢いで金さえあれば何でもできると勘違いし、
人の言葉をすべて信じ、気がつけば責任を押し付けられ、
残ったのは莫大な借金だけだった。
失ったものばかり数えていた日々。
でも、この卵ひとつで、私は“大事な感覚”を取り戻し始めていた。
クリームが溢れるシュークリーム、思わず笑ってしまった
帰り道、地元で有名な洋菓子店に寄った。
そこで目にしたのは、クリームがはち切れそうなほど詰まったシュークリーム。
ひと口かじった瞬間、私は思わず笑った。
「こういう小さな幸せこそ、ずっと欲しかったんだ。」
香港の刺激、日本の静けさ。
その両方を感じたことで、私の中に新しい軸が芽生えていく。
日本で得た癒しが、私の決断を変えた。
温泉の湯気、素朴な朝食、甘いシュークリーム。
その一つひとつが、私に“本当に大切なもの”を思い出させてくれた。
当たり前の生活、家族団欒、平凡な幸福。
多くの人がそれを願い、守りながら暮らしている。
私はそれを知らずに、失ったまま走っていた。
だから決めた。
借金に追われる人生じゃなく、
借金を逆手に取り、生き方そのものを変えていく。
背負ったものが大きいほど、人は強くなれる。
香港で灯った挑戦の火、日本で取り戻した癒しの水。
その二つが混ざり合い、私は新たな視点で未来を見つめ始めた。色々な人達の意見を聞き、真の友達励まされ、何も言わずに側に居てくれる妻。
さあ、58歳の新しい出発を!
