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【読了】資源を守るためには資本主義をやめるしかない『水の戦争』(橋本淳司/文春新書)


書籍情報

『水の戦争』

おすすめ度

★★★☆☆

一文引用

地政学リスクを専門とする米国の調査会社ユーラシア・グループの『Top Risks 2023』では、「逼迫する水問題」が10大リスクのひとつに挙げられ、「水不足は世界的かつシステミックな問題となる。一方で、各国政府はまだ一時的な危機としてとらえるだろう」と警告しています。

橋本 淳司. 水の戦争 (文春新書) (pp.71-72). 文藝春秋. Kindle 版.

感想

世界の水の消費量は1930年と比較すると2000年には約4倍となった。水の消費は技術の進歩と関係があり、半導体やAIの発達に伴いこれからもっと水の消費量が増えていくと予想される。

アメリカにおける水に関する紛争もここ数年増えていて、今後水の管理と保全が国家や地域社会の安定に直結していくことがわかる。

水を消費する最新テクノロジー

ITやデジタルに関する技術は水との関係性が見えにくいが、実は大量に水を消費している。

わかりやすいのがマイクロソフトの例で、2025年の「環境サステナビリティレポート(Environmental
Sustainability
Report 2025)」
によると、2024年には780万㎥の水を消費している。Googleはさらに多く消費していて、「環境報告書(2025 Environmental Report)」によると2024年の水の消費量は約2,650万㎥だったとのこと。ダムの貯水量にも匹敵する水を複数の企業が消費しているということだ。
(本書ではGoogleは2024年のレポートだったが最新版で確認した)

AIなどのテクノロジーで水を消費する場面は大きく2つある。電力と冷却だ。

AIは運用会社が巨大なデータセンターを所有している。データセンターはGPUといった高性能なPCの部品がいくつも使用されていて、高速な処理とネットワーク環境とが整えられている。

PCは性能が上がれば上がるほど多くの電力を必要とするため、データセンターは必然と大量の電力を消費することになる。間接的にだが、大量の電力を消費することは大量の水を消費することに繋がる。火力発電や原子力発電といった主流な発電方法では水を蒸発させてタービンを回して発電するからだ。

PCの部品であるGPUやCPUは稼働している間は高熱を発する。これも電力と同じように性能が上がれば上がるほど高温になっていく。そのままにしておくと80度など余裕で超えてしまうので、PCにもファンがついているように温度を下げるためなにかしらの方法で冷却しなければいけないのだ。

データセンターでは冷却のために水を利用しているため、冷却でも水を大量消費しているということだ。具体的にはAIとのやりとり20~50回でにつき、500mLの水が消費されるそう。

これだけであれば大した量ではないが、AIの利用者は世界中にいる。仮に23億人が一日に20~50回やりとりをした場合、月間では115万㎥の水の消費になる計算となり、莫大さがよくわかる。

AIなどの最新テクノロジーを支える半導体も製造の過程で大量の水を消費する。半導体は精密さが求められるため、「超純水」という純度の高い特殊な水を使って回路形成のたびに洗浄される。

普通の水を精製して超純水にし、多くの過程で頻繁に洗浄のために使用すると聞けばいかに大量の水が必要となるか想像できるだろう。

もはや最新技術を利用するためにはなにをするにしても大量の水を消費しなければいけないのだ。

もともとの水の用途

大河の付近で巨大な文明が発達したように水は人類にとって欠かせない物だった。当初の一番多く水を消費していたのは灌漑農業だっただろう。人々の食糧を賄うための農業で大量の水が必要であり、かつ川は氾濫などで牙をむくこともあるため、人類は水を管理する方法を探っていく。

人間の生存に直結する治水という技術は紀元前から重視されていて、国の成立にもつながっていたのだ。例えばローマ帝国の上下水道は有名だが、これも治水の1つだ。水が高いところから低いところへ流れる摂理を利用して整備したものだ。

基本的には長い間この高所から低所への流れを利用した治水が行われてきたが、18世紀に作業革命がおこるとそれが一変する。蒸気機関などの技術により低所から高所へ水を移動させることが可能になったのだ。

水を自由に移動させることができれば、都市や工場を展開する場所の自由度もあがる。技術の発展とあわせて水を操る技術も発展してきた。

日本は水資源が豊富なせいで感覚が鈍い

日本人はコメを食べる人が多いが、最近は小麦文化の地域にもコメ食が広がってきている。コメを育てるには水田が必要であり当然ながら大量の水が必要となる。

意外かもしれないが、アボカドも生産するのに大量の水が必要な植物だ。世界的には平均70Lの水が1個の生産に必要であり、チリなど感想の激しい地域では320Lに増えることもある。

飲料メーカーも水を利用している。地下水をくみ上げてそのまま商品化された水などが代表例だ。日本でも地下水のペットボトルが何種類も販売されているが、水のペットボトルが水資源に悪影響を与えているかもしれないのだ。

コメもアボカドもペットボトルの水も、多くの日本人にとっては大量に身近に存在することが当たり前のものとなっている。当然、ものが流通する過程でも大量の水が消費されているのだが、モノがどれだけの水を消費して自分の手元に届いているのか想像しにくい。

上下水道の整備も進んでいて安全な水が簡単にほぼ無料で手に入ることも水の重要性をわかりにくくする要因の1つだろう。

不便にはなるが、降雨量が減ったことで農作物が不作となり、コメやアボカドの値段が跳ね上がる、ということが起きるほうが水のありがたみ、水資源の重要さは理解できるのだろう。

インドは世界最大の地下水利用国で農業のため非常に多くの地下水が井戸により組み上げられ利用されている。その結果約半数の井戸で水位が低下している。地下水を大量に使ったから、といった単純な因果関係ではないが、インドでは2018年に約6億人が深刻な水不足に陥っていて毎年約20万人が安全な水を得られずに命を落としている、と計算されている。

水資源の確保は人間の生存に直結する最重要項目の1つともいえるのだ。

簡単に水資源を提供してしまう日本

目下、経済的な課題を抱えている以上、企業や工場の誘致が大切な施策であることは理解できるが、ほんとうにそれで問題ないのか考える必要がある。

本書にも書かれているが、2024年には台湾の半導体企業TSMCが熊本に工場を設立した。熊本が選ばれた理由の1つは豊富な水資源が使えるからだ。ほかの半導体企業の工場誘致も日本各地で行われていて、今後工場は増えていく予定だ。

これだけ水の重要性が声高に叫ばれている中、各企業もただ水を消費するのではなく、海水を利用する方法や蒸発させず循環して使用する方法など模索している。

だが企業の水の用途や消費量には不透明な部分も大きく、水の消費量を抑える技術も発展途上であるため基本的にはただ消費していると考えたほうがいいだろう。

つまり工場の設立をはじめ日本の水資源が大量に利用されつつあるということ。地下水の利用はインドのように多数の地域での水位低下、水不足、水質汚染を引き起こす可能性がある。

ただ黙って土地を提供することは内臓を担保にすること同じくらい将来のリスクをはらむのだ。

一言

本書を読み進めていくと、過去には農業、その後蒸気機関、電気が登場し、いまは半導体やAIと技術が進歩するたびに必要な水の量が増えていったことがわかる。

大昔は食糧生産のためであり必要最低限ともいえる水の用途だが、産業革命以降は資本主義的な影響が強くなっている印象がある。その結果、電気も半導体も日常に必要不可欠なものとなり、AIもはやくもインフラになりつつある。そしてまた新しい技術が登場し、さらに大量の水が必要になっていくのだろう。

この恐ろしいサイクルを止めるにはもはや資本主義をやめるしかないだろう。資本主義のままでいるのであれば、それこそ地球の外に新しい土地を見つけてそこで新しい資源を確保するしかない。

人類がいつ踵を返せるかによって地球が干からびる未来を防げるかが変わる。

余談

水不足といば、中東にあるアラル海が有名だろう。かつて世界4位をほこるほどの面積があったが、大規模な灌漑により水位が低下し、いまでは1/10以下になってしまっている。

大量の安全な水が身近な日本ではピンとこないが、水は簡単に消えてしまうということだ。

現状は水の大量消費に頼った生活になってしまっているので大きく変えることは難しいが、AIを多用しすぎない、電気を浪費しないなど個人のできる範囲でできることをしていくしかない。

ニュースにもなったがAIにお礼を言うことは電力の浪費なのだ。

※本記事はAmazonアソシエイト・プログラムに参加しています

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