【ゆっくり解説】ランスロット ── 円卓最強の騎士が王国を滅ぼすまで
この記事はYouTube動画『【ゆっくり解説】ランスロット ── 円卓最強の騎士が王国を滅ぼすまで』の台本です。
動画版はこちら→https://youtu.be/L4KA4pjNSOs
台本
めたん「ずんだもん、アーサー王の円卓の騎士で一番強い騎士って誰だと思う?」
ずんだもん「えっ、ガウェインとか? それともトリスタンなのだ?」
めたん「どっちも強いけど、伝説の中で「円卓最強」って呼ばれてるのはランスロットだよ」
ずんだもん「あー、ランスロット! ゲームとかでよく見る名前なのだ!」
めたん「そう、めちゃくちゃ有名。でもこのランスロット、最強の騎士であると同時に、アーサー王の王国を滅ぼす引き金を引いた人物でもあるの」
ずんだもん「最強なのに王国を滅ぼす……? 敵に負けたってことなのだ?」
めたん「違うの。ランスロットはアーサー王の親友で、誰より王に忠実な騎士だった。なのに結果的に、自分の手で円卓の騎士団をバラバラにしてしまった。今回はそんなランスロットの話をしていくね」
ずんだもん「味方なのに滅ぼすって、何がどうなったらそうなるのだ……」
めたん「その前にひとつ面白い事実があって。実はランスロットって、アーサー王伝説に最初からいたキャラクターじゃないの」
ずんだもん「え? あんなに有名なのに?」
めたん「アーサー王伝説の原型は5〜6世紀頃からブリテン島で語られていたんだけど、ランスロットが登場するのは12世紀になってから。フランスの詩人クレティアン・ド・トロワ(Chrétien de Troyes)が書いた物語で初めて本格的に登場するの」
ずんだもん「フランス生まれなのだ! ブリテンの伝説なのにフランスから来たキャラって、ちょっと意外だね」
めたん「クレティアンはシャンパーニュ伯夫人マリー(Marie de Champagne)に命じられて、「貴婦人に仕える騎士の恋」をテーマに物語を書いた。それが1177年頃の『荷車の騎士(にしゃのきし)』。ここでランスロットとアーサー王妃グィネヴィア(Guinevere)の禁断の恋が初めて描かれるの」
ずんだもん「つまりランスロットは「騎士の恋物語」のために作られたキャラってことなのだ?」
めたん「そういう面が強い。しかもクレティアン本人は不倫を扱うこのテーマが気に入らなかったみたいで、物語の途中で執筆をやめてる。別の書き手が引き継いで完成させたの」
ずんだもん「作者にすら見放されたのに、その後の伝説では主役級になるって、すごい出世なのだ」
めたん「さて、じゃあランスロットがどんな騎士なのか、出自から話していくね。ランスロットはフランスのベンウィック国の王、バン王(ばんおう)の息子として生まれた。洗礼名は「ガラハッド」」
ずんだもん「ガラハッド? それって聖杯を見つけた騎士と同じ名前なのだ」
めたん「そう、実は聖杯の騎士ガラハッドはランスロットの息子で、父の洗礼名を受け継いでるの。でもその話はまた別の機会にね。バン王はアーサー王のブリテン統一を支援していた同盟者だったんだけど、アーサーを助けるためにブリテンに渡っている間に、敵のクローダス王(King Claudas)に攻め込まれてしまう。裏切った家臣が城門を開けて、城は陥落。バン王は燃え落ちる自分の城を見て、悲しみのあまり命を落としてしまった」
ずんだもん「生まれてすぐ父親を亡くしたのだ……」
めたん「母のエレイン妃は幼いランスロットを連れて逃げるんだけど、湖のほとりで休んでいるときに、湖の乙女(みずうみのおとめ)と呼ばれる妖精にランスロットを攫われてしまう」
ずんだもん「攫われた!? でも殺されたわけじゃないのだ?」
めたん「むしろ逆。湖の乙女はランスロットを自分の世界で大切に育てた。妖精たちのもとで育ったランスロットは、常人を超えた武芸と知恵を身につけていく。「湖のランスロット」っていう異名はここから来てるの」
ずんだもん「戦乱で父を失って、妖精に育てられて最強の騎士になる……出自からしてもう波乱万丈なのだ」
めたん「成長したランスロットはブリテンに渡ってアーサー王の宮廷に加わり、円卓の騎士になる。そしてその武勇で「円卓最強」と呼ばれるようになるんだけど……ここで、さっき話した「禁断の恋」が始まる。ランスロットはアーサー王の妻グィネヴィアと恋に落ちてしまったの」
ずんだもん「主君の奥さんと……! それはまずいのだ」
めたん「ただ、これは当時のフランス文学で流行していた「宮廷風恋愛(きゅうていふうれんあい)」を体現する関係として描かれてる。騎士が主君の妻に仕え、その恋のために命がけの冒険をするっていう価値観ね」
ずんだもん「現代の感覚だと完全に不倫だけど、当時の物語ではそれが「理想の恋」だったのだ?」
めたん「少なくとも物語の中ではそう。ランスロットの恋がどれほど激しかったかを示す有名なエピソードがあるの。あるときグィネヴィアがメレアガン(Meleagant)という敵に誘拐されて、ランスロットが救出に向かう。ところが途中で馬を殺されて移動手段を失ってしまう」
ずんだもん「それは困ったのだ」
めたん「そこに小人が引く荷車が通りかかる。当時、荷車は罪人が乗せられるものだった。騎士が荷車に乗るなんて、名誉を捨てるのと同じ」
ずんだもん「でもグィネヴィアを助けるためなら……乗ったのだ?」
めたん「ほんの一瞬だけためらった。でも乗った。通りかかる人々から罵声を浴びながら、恥辱にまみれて敵の城に向かった。そして剣でできた橋を素手で渡り、メレアガンを倒してグィネヴィアを救い出す」
ずんだもん「すごい覚悟なのだ……でも助けたなら王妃も喜んだんだよね?」
めたん「ところがグィネヴィアは最初、ランスロットに冷たい態度を取った。理由は「荷車に乗る前に一瞬ためらったから」」
ずんだもん「一瞬でもダメなのだ!? 命がけで助けに来たのに!」
めたん「これが宮廷風恋愛の世界観。騎士は貴婦人のためなら、ためらうことすら許されない。ランスロットはその後、グィネヴィアに許される。でもこの恋が続く限り、ランスロットは「最も忠実な騎士」と「王を裏切る男」のふたつの顔を持ち続けることになる」
ずんだもん「忠誠と恋の板挟みなのだ……」
めたん「この矛盾が最悪の形で爆発するのが、円卓崩壊の場面。マロリー(Sir Thomas Malory)の『アーサー王の死(Le Morte d'Arthur)』で描かれる、伝説のクライマックスだよ」
ずんだもん「何が起きたのだ?」
めたん「ランスロットとグィネヴィアの関係は宮廷では公然の秘密だった。アーサー王自身も薄々気づいていたけど、見て見ぬふりをしていたとされている。でもそれを許せない騎士がいた。アグラヴェイン(Agravain)とモードレッド(Mordred)」
ずんだもん「モードレッドってアーサー王を最後に裏切るあの……」
めたん「そう、アーサーの息子にして最大の敵になる人物。アグラヴェインとモードレッドはランスロットとグィネヴィアの密会を暴こうとして、騎士たちを率いて王妃の部屋に踏み込んだ」
ずんだもん「それで捕まったのだ?」
めたん「ランスロットは武器もほとんどない状態で応戦して、アグラヴェインを含む騎士たちを倒して逃げ延びた。でもこれで不倫が公になってしまう。アーサー王は法に従い、グィネヴィアを反逆罪で火刑に処すと宣告するの」
ずんだもん「火刑!? そんなことになったら、ランスロットは黙ってないのだ……」
めたん「もちろん黙ってない。処刑の日、ランスロットは仲間の騎士を率いて処刑場に突入し、グィネヴィアを救い出す。でもこの救出の乱戦で、取り返しのつかないことが起きてしまう」
ずんだもん「えっ、まさか……」
めたん「処刑場にはガレス(Gareth)とガヘリス(Gaheris)という騎士が立ち会っていた。ふたりともガウェインの弟で、ランスロットを慕っていた。王妃の処刑に心を痛めて、鎧も武器も身につけずに立ち会っていたの」
ずんだもん「鎧も着ないって、戦う気がなかったのだ……」
めたん「ランスロットは乱戦の混乱の中で、非武装のガレスとガヘリスを誤って殺してしまった」
ずんだもん「自分を慕ってくれていた人を、自分の手で……」
めたん「しかもガレスはかつてランスロットに騎士として取り立てられた恩がある。ランスロット自身もガレスを弟のように大切にしていたの。恩人が、恩を受けた相手を乱戦の中で見分けられずに斬り殺してしまう」
ずんだもん「助けたかった側の人間を殺してるのだ……もう取り返しがつかない」
めたん「アーサー王はこの報せを聞いて嘆き崩れた。「たった二日で、キリスト教の王が率いた中で最も誇り高い騎士団が失われた」って。そしてガレスの兄ガウェインが、弟の死を絶対に許さなかった」
ずんだもん「ガウェインも円卓最強クラスの騎士なのだ……」
めたん「ガウェインはアーサー王に「ランスロットを討て」と迫る。アーサーは本心ではランスロットとの戦いを望んでいなかった。でもガウェインの怒りは収まらず、王は軍を率いてフランスに渡ったランスロットを追うことになる」
ずんだもん「親友同士が戦争することになったのだ……」
めたん「そしてアーサー王が国を留守にした隙を突いて、モードレッドが反乱を起こす。王位を奪い、グィネヴィアまで自分のものにしようとした。アーサーは急いで帰国するけど、モードレッドとの最終決戦で相討ちとなってしまう」
ずんだもん「ランスロットを追いかけたせいで、国を空けることになって……」
めたん「円卓の騎士団は崩壊し、アーサーの王国は滅びた。グィネヴィアは悔いて修道院に入り尼僧となった。ランスロットはアーサーの死後にグィネヴィアを訪ねるけど、彼女は「もう二度と会わないで」と告げて、ふたりはそこで永遠に別れる。ランスロットもまた修道院に入り、残りの生涯を悔い改めに捧げたとされている」
ずんだもん「結局、ランスロットがグィネヴィアを愛したことが全部の始まりだったのだ……」
めたん「最強の騎士だったからこそ、誰もランスロットを止められなかった。不倫を暴かれても戦って逃げ延びられたし、処刑場に突入して王妃を救い出すこともできた。でもその「最強」が、味方を殺し、親友と戦い、王国を滅ぼす結果になった」
ずんだもん「最強であることが一番の不幸だったなんて……皮肉すぎるのだ」
めたん「12世紀にフランスの詩人が作った恋する騎士が、アーサー王伝説そのものの結末を決定づけるキャラクターになった。後から来たのに、誰よりも伝説の中心にいる。それがランスロットっていう騎士なんだよね」
ずんだもん「後付けなのに物語の核になるって、ランスロット自身が伝説みたいな存在なのだ」
めたん「アーサー王伝説にはまだまだ面白い話があるから、気になったら高評価やチャンネル登録してもらえると嬉しいな」
ずんだもん「それじゃ、またねなのだ!」
めたん「じゃあね」
用語解説
・ランスロット(Lancelot)── アーサー王伝説の騎士。「湖のランスロット」の異名を持つ
・円卓の騎士(えんたくのきし)── アーサー王に仕える騎士団。円形のテーブルに上下の区別なく着席したことからこの名がある
・ガウェイン(Gawain)── 円卓の騎士の一人。アーサー王の甥で、ランスロットと並ぶ最強格の騎士
・トリスタン(Tristan)── 円卓の騎士の一人。王妃イゾルデとの悲恋で知られる
・クレティアン・ド・トロワ(Chrétien de Troyes)── 12世紀フランスの詩人。ランスロットを初めて主役として描いた
・シャンパーニュ伯夫人マリー(Marie de Champagne)── クレティアンのパトロン。『荷車の騎士』の執筆を命じた
・荷車の騎士(にしゃのきし)── クレティアンが1177年頃に書いた物語。原題は『ランスロまたは荷車の騎士』
・グィネヴィア(Guinevere)── アーサー王の王妃。ランスロットとの禁断の恋が円卓崩壊の一因となる
・宮廷風恋愛(きゅうていふうれんあい)── 中世ヨーロッパの文学で理想とされた恋愛観。騎士が高貴な貴婦人に献身的に仕える
・メレアガン(Meleagant)── 『荷車の騎士』に登場する敵役。グィネヴィアを誘拐する
・ガラハッド(Galahad)── ランスロットの息子。聖杯探索を成し遂げた騎士。ランスロットの洗礼名でもある
・ベンウィック(Benwick)── ランスロットの父バン王が治めていたフランスの国
・バン王(ばんおう)── ランスロットの父。アーサー王の同盟者
・クローダス王(King Claudas)── バン王の敵。留守中に侵攻し、ベンウィックを奪った
・湖の乙女(みずうみのおとめ)── 幼いランスロットを攫い、妖精の世界で育てた存在
・マロリー(Sir Thomas Malory)── 15世紀イングランドの作家。『アーサー王の死』の著者
・アーサー王の死(Le Morte d'Arthur)── マロリーが1469〜1470年頃に書いたアーサー王伝説の集大成的作品
・アグラヴェイン(Agravain)── ガウェインの弟。ランスロットとグィネヴィアの密会を暴こうとした
・モードレッド(Mordred)── アーサー王の息子。のちに反乱を起こす
・ガレス(Gareth)── ガウェインの弟。ランスロットに騎士として取り立てられた恩がある
・ガヘリス(Gaheris)── ガウェインの弟。ガレスとともに処刑場で命を落とした
台本こぼれ話
① 聖杯に手が届かなかった最強の騎士
ランスロットは円卓最強の騎士であるにもかかわらず、聖杯探索では目的を果たせなかった。
マロリーの『アーサー王の死』では、ランスロットは聖杯の前まで辿り着くものの、そこから先に進むことを許されない。理由はグィネヴィアとの姦通——つまり、騎士としての武勇は申し分ないのに、魂の清浄さが足りないと判定された。
代わりに聖杯を達成するのは、ランスロットの息子ガラハッドである。ガラハッドの洗礼名は父ランスロットの洗礼名と同じ「ガラハッド」。名前は継いだが、父が果たせなかった使命を息子が完遂するという構図になっている。
最強の武力を持ちながら、それだけでは到達できない領域があるということなのかもしれない。
② トリスタンとイゾルデ——先行する「禁断の恋」
ランスロットとグィネヴィアの恋愛構造は、実はそれより前から語られていた別の物語——トリスタンとイゾルデの悲恋に酷似している。
どちらも「騎士が主君の妻(または婚約者)と恋に落ちる」という三角関係で、忠誠と愛のあいだで引き裂かれる構造だ。トリスタン物語はクレティアン・ド・トロワより前の12世紀前半からフランスで流通しており、クレティアンがこの構造を意識していた可能性は高い。
ただし決定的に異なる点がある。トリスタンとイゾルデの恋は媚薬という「事故」がきっかけの1つだが、ランスロットとグィネヴィアは自らの意思で恋に落ちている。この違いが、ランスロットの罪をより重くし、同時に物語をより複雑にしている。
③ 作者に見捨てられた物語
動画でも触れたが、『荷車の騎士』を書き始めたクレティアン・ド・トロワは物語の途中で執筆を放棄している。
全7,134行のうち、約6,150行をクレティアンが書き、残りをゴドフロワ・ド・ラニーという書記(clerc)が引き継いで完成させた。クレティアンが書かなかった約1,000行は物語の結末部分にあたる。
なぜクレティアンは途中でやめたのか。通説では、騎士が恋愛に完全に服従するという宮廷風恋愛の極端な描写に抵抗があったとされる。荷車に乗る場面でランスロットが「一瞬ためらった」のをグィネヴィアが責めるくだりは、クレティアン自身が書いた部分だ。これは宮廷風恋愛への皮肉とも読める。
自分で書き始めた物語に自分で違和感を覚える。その物語が後世、伝説の核になるのだから、文学史というのは作者の意図どおりにいかないものである。
④ ランスロットの最期
動画では「修道院に入り悔い改めに捧げた」と締めたが、マロリーはランスロットの最期をもう少し詳しく描いている。
グィネヴィアに「二度と会わないで」と拒絶された後、ランスロットはグラストンベリーの修道院に入り、かつての仲間の騎士たちとともに修道士として暮らした。その生活は7年近く続いたとされる。
グィネヴィアが亡くなると、ランスロットはその知らせを受けて彼女の遺体をアーサー王の墓のそばに埋葬した。そして自身も間もなく息を引き取る。
⑤ 『黙示録の四騎士』のランスロット——伝説がそのまま生きている
※『黙示録の四騎士』(鈴木央)の序盤〜中盤の設定に触れています。未読の方はご注意ください。
鈴木央の漫画『黙示録の四騎士』(『七つの大罪』続編)には、ランスロットという名のキャラクターが登場する。父の名はバン、母の名はエレイン。伝説と同じ名前がそのまま使われている。
そして作中のランスロットは、人間と妖精族の血を引く「半妖半人」として常人離れした戦闘能力を持ち、〈七つの大罪〉に匹敵するとまで言われる。「特殊な出自ゆえに最強格の存在になる」という経緯も、妖精に育てられて常人を超えた力を得た伝説のランスロットと重なる。
さらに興味深いのが、アーサー王の未来の花嫁ギネヴィアとの恋が描かれている点だ。
アーサー王伝説におけるランスロットの物語の核が、そのまま作品の設定に織り込まれている。
もう一つ気になるのが、ランスロットの目付け役として登場するジェリコの存在である。アーサー王伝説には「エレイン」という名の女性が複数登場する。母のエレイン、魔法でグィネヴィアに化けてランスロットと関係を持ったコルブニックのエレイン、そしてランスロットへの叶わぬ恋に命を落としたアストラットのエレイン。
母以外の「エレイン」たちの役割が、ジェリコという別名のキャラクターに形を変えて反映されているのかもしれない——と想像すると、元の伝説との対比がさらに面白くなる。
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動画で触れたマロリーの原典。ランスロットとグィネヴィアの恋、円卓崩壊、そしてランスロットの最期まで、伝説の全容が読める。
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