あれ?「半分以上アメリカ」のオルカンは、新興国の成長と連動していない?
はじめに
新NISAが始まり、まわりでも投資の話をする人が増えた。たいてい、行き着く先は同じだ。
結局、オルカンかS&P500でしょ
自分はオルカン派だ。理由は、自分でもけっこうはっきりしている。
S&P500は、アメリカがこの先もずっと勝ち続ける前提に立っている。でも、アメリカ以外の国が強くなる可能性を、最初から捨ててしまっていいんだろうか。それに、もう一つあった。NISAは、20年も30年も預けるものだ。そんなに長い時間を、一つの国の運命だけに委ねてしまっていいのか。どうせ長く持つなら、国も分散させておいたほうが、心穏やかでいられる気がした。そう思うと、どうしても全世界に広げておきたくなった。これが、自分のスタートラインだ。
そんなとき、オルカンの説明でよく見る、一枚のグラフに出会った。次のような説明付きのグラフだ。
新興国のGDPが、これからぐんぐん伸びていく。世界経済はまだまだ成長する。だから全世界に投資しておけば、その成長をまるごと取りにいける。
なるほど、と思った。自分がオルカンを選びたい気持ちに、ぴったり寄り添ってくれる絵だった。見たことのある人も多いだろう。
ところが、納得しかけたところで、小さな引っかかりが残った。その引っかかりを放っておけなくて、いくつか自分で調べてみた。この記事は、その記録だ。
先に断っておくと、
自分はオルカンを良い商品だと思っている。
NISAについて相談されたら、オルカンの話をする。人に何かをおすすめできる立場ではないので、言い方には気をつけるけれど。
これは「オルカンはダメだ」という話ではない。むしろ逆だ。ただ、調べていくうちに、オルカンが良い理由は、あのグラフが約束しているものとは、少し違うところにあるらしいと気づいた、そういう話だ。
数字の出てくる部分は、いいかげんなことを書きたくないので、出典をつけて言い切る。そのうえで「ここから先は自分の見立てだ」という部分は、はっきりそう断る。そのつもりで読んでほしい。
1. あのグラフに、確かに説得された
最初に、フェアにいきたい。自分の見た一枚のグラフ(以降、「あのグラフ」と呼ぶ)は、嘘をついているわけではない。
あのグラフにピンときていない人は、次の図を見て欲しい。これが、あのグラフ相当のものだ(筆者作成)。

株式=MSCI ACWI Index, Net, USD
このグラフは、世界全体の名目GDPを国・地域別に積み上げ、同時に、全世界株式(オルカンが連動するMSCI ACWI)の値動きを赤い線で重ねたものだ。
世界経済は、これまで実際に伸びてきたし、これからも伸びると見込まれている。そして、その中で新興国の存在感も、たしかに大きくなってきた。
世界の名目GDP(面・積み上げ)と全世界株式(赤線)が、ともに右肩上がりに伸びてきた。新興国(緑)の層も、年々厚みを増している。
(あのグラフは運用会社のサイト等でよく使われている。実例として、アモーヴァ・アセットマネジメントのサイトでは、GDPと全世界株式指数を重ねて、「拡大する世界経済の中で、新興国の存在感は徐々に高まってきた」と紹介している。)
たしかに、伸びている。世界全体も、新興国も、そして株価も。このグラフを見せられて「世界経済の成長に乗ろう」と言われたら、納得しないほうが難しい。
理屈もよく分かる。世界が豊かになる。企業が儲かる。株が上がる。だから世界全体の株を持っておけば、その恩恵にあずかれる。直感に、すんなり馴染む。「世界経済の成長に賭ける」という言葉は、力強くて、前向きで、買う理由として申し分ない。
だからここまでは、グラフの勝ちだ。
2. あれ?連動していない?
ただ、あのグラフを眺めているうちに、ひとつ引っかかった。
新興国のGDPは、こんなに伸びている。だったら、オルカン(の連動するMSCI ACWIという指数)の中身も、新興国の割合がどんどん増えているはずじゃないか。そう思って、ACWIの中身を調べてみたら、そうでもなかった。

国別で見ると、米国がおよそ66%。日本が約5%。
「全世界株式」と名乗ってはいるが、実態は米国に大きく偏った指数だ。自分も含めて、これはもう、知っている人も多いと思う。SNSでも「オルカンの中身、半分以上アメリカじゃん」とよく言われる。
問題は、新興国は、中国も台湾もインドも韓国も全部あわせて、ようやく1割ほどしかない、ということだ。新興国の経済があれだけ伸びているのに、指数の中では1割で頭打ちになっている。つまり、
新興国の成長と、指数の中身が、
思っていたほど連動していない
のだ。
なぜズレるのか。理由は、指数の作られ方にあった。ACWIは「時価総額加重」でできている。株式市場で評価額の大きい企業ほど、たくさん組み入れられる仕組みだ。GDPの大きさで決まるのではない。市場でついている値段で決まる。新興国は、経済規模のわりに、株式市場で投資できる時価総額がまだ小さい。だから、GDPほどには指数に反映されない。
「投資できる時価総額」の、もう一段奥
水瀬ケンイチさんから、ここにもう一段、大事な仕組みがあると教えていただいた。「浮動株調整」だ。
ACWIの時価総額は、「発行済み株式×株価」で測っているわけではない。実際に市場で売買できる株(=浮動株)だけを数えている。政府が握る国有企業の株や、創業家・グループが持ち合っている株は、市場に出てこないので最初から除かれる。
これが新興国でとくに効く。新興国は国有企業や同族経営の比率が高く、「動かない株」が多いからだ。だから浮動株で測り直すと、時価総額は見かけよりさらに小さく出る。新興国の構成比が低いのは、「GDPのわりに時価総額が小さい」だけでなく、「その時価総額を、買えない株のぶん、さらに削っている」からでもある。
ただし、これを「新興国が不当に低く扱われている」と読むのは誤解だ。もし買えない株まで組み入れたら、インデックスファンドは「指数どおり買おうにも、市場に株がない」状態に陥る。少ない浮動株に世界中の指数マネーが殺到し、買うときは株価をつり上げ、売るときは値崩れさせてしまう。浮動株調整は、これを防ぐ。実際に買える分だけを組み入れるから、ファンドは指数を無理なく再現でき、結果としてインデックス投資家を守る仕組みになっている。
そもそも「新興国」って、どこの国?
ひとつ、ややこしい話。この記事には新興国という言葉が何度も出てくるが、実はその中身は、誰が決めるかで少し変わる。
経済統計を出すIMFは、韓国や台湾を先進国に数える。一人当たりの豊かさで見れば、もう新興国とは言えない、という判断だ。ところが、株価指数を作るMSCIは、同じ韓国・台湾を新興国に分類している。株式市場としての成熟度や、外国人投資家の入りやすさといった、経済の豊かさとは別のものさしで線を引いているからだ。
だから、この記事のGDPグラフの新興国(IMF基準)と、オルカンの構成比の新興国(MSCI基準)は、厳密には少し違う顔ぶれになる。とはいえ、中国やインドが新興国であることは両者で共通だし、「新興国の経済での存在感と、株式での存在感がズレている」という話の大筋は、どちらで見ても変わらない。
この「経済では先進国、指数では新興国」というねじれは、あとでもう一度、もっと意外な形で顔を出す。
3. 相関、低いの?
正直、ここまでで自分は「GDPの伸びと指数の構成は、別物なんだな」くらいで納得して、終わるつもりだった。ところが、もう少し調べると、もっと根本的な事実にぶつかった。
そもそも「ある国のGDPが伸びること」と「その国の株が上がること」は、データ上ほとんど関係がない。
これは投資の世界では昔から知られた、有名な逆説だ。各国の長期データで、経済成長率と株式リターンの相関を調べた研究が、いくつもある。結論はだいたい同じで、相関はゼロ近辺、長期ではマイナスにすらなる。

「速く成長した国の株が、よく上がったわけではない」が、100年規模のデータで、繰り返し確認されている。
なぜ、つながっていないのか。理由は、意外とあっけない。
GDPは、国全体がどれだけ豊かになったかを測る数字だ。一方、株価が映すのは、「いまある上場企業の株主に、どれだけ利益が返ってくるか」だ。この二つは、似ているようで違う。国が豊かになっても、その果実が、そっくり株主の懐に入るとはかぎらない。
実際、経済が成長するとき、その果実は主に三つの場所へ流れていく。ひとつは、まだ上場していない新しい会社。これから生まれるスタートアップや、非上場の企業だ。ふたつめは、新しく発行される株式。成長する企業は、お金を集めるために株を増やして発行する。だが株が増えれば、一株あたりの取り分は薄まる。既存の株主のパイは、その分だけ希釈される。みっつめは、働く人や、消費者だ。賃金が上がり、暮らしが豊かになる。これは社会にとって良いことだが、いま株を持っている人の口座が増えるわけではない。

つまり成長の多くは、「いまこの指数を持っている株主」の手前で、別の方向へ分岐していく。経済の成長そのものは、株主のリターンを約束してくれない。
4. じゃあ、あのグラフは何を言っていたんだ
ここまで分かって、最初のあのグラフに戻った。
ひとつ、はっきりさせておきたい。「GDPの成長と株のリターンは関係がない」というのは、「新興国が成長してもオルカンには一円も入らない」という意味ではない。そうではなくて、「ある国のGDPが何%伸びたか」と「その国の株が何%上がったか」が、直接は比例しない、という意味だ。成長率の高い国の株を買えば、そのぶんよく儲かる――そういう素直な関係が、データ上は見当たらない、ということだ。
でも、世界経済が伸びたぶんの富が、どこにも行かずに消えるわけはない。成長は、確かにどこかに流れている。だとすれば、新興国の成長も、何かの経路を通って、巡り巡ってオルカンに効いている可能性は、まだ残っている。
ここで一瞬、あのグラフはミスリードなんじゃないか、と思った。GDPが伸びる絵を見せて「だからオルカンは上がる」と言うのは、直接はつながっていない二つを、つなげて見せているように感じたからだ。
ただ、結論を急ぐ前に、確かめたいことがあった。直接の橋が架かっていないのなら、新興国の成長は、いったいどんな経路でオルカンにつながっているのか。それとも、本当にどこにもつながっていないのか。そこを見てからにしたい。
5. 待てよ、米国企業が拾ってるんじゃないか
その経路を考えていて、ひとつ思い当たった。
新興国でモノが売れて経済が伸びるとき、そこで儲けているのは現地の企業だけじゃない。スマホを売っているのはアップルだし、ソフトを売っているのはマイクロソフトだ。飲み物も、ネットのサービスも、世界中で売っているのは米国企業だったりする。だとすれば、新興国の成長は、現地企業の株を通さなくても、米国企業の利益として、オルカンの中に入ってくるんじゃないか。これが、4章で探していた「経路」の正体かもしれない。
調べてみたら、新興国の成長がオルカンに届く道は、大きく二つあった。

ひとつは、まっすぐな道だ。新興国の企業でも、ACWIに採用されている上場企業であれば、その利益は、オルカンの「新興国枠」に直接効く。3章で「株主に届かない」と書いたのは、未上場企業や、増資で薄まるぶんや、消費者に流れるぶんの話で、すでに上場している企業の利益は、ちゃんと株主に届く。ただ、この道は細い。なにしろ新興国枠は、ACWI全体の1割しかない。新興国がどれだけ伸びても、この直通路を通れるのは、ごくわずかだ。
もうひとつが、遠回りの道だ。この章の最初に思い当たったもの。新興国で稼いでいる米国企業の売上を通って、オルカンの「米国枠」に効く道。運用会社のサイトにも、同じことが書いてある。世界の時価総額上位の企業はグローバルに事業を展開しているから、全世界株を持てば、新興国市場の拡大の恩恵も間接的に受けられる、と。新興国の消費が伸びれば、その一部は、たしかに米国の多国籍企業の売上として吸い上げられていく。
補足
正確に言えば、新興国で稼いでいるのは米国企業だけではない。欧州や日本の多国籍企業も、同じように新興国で売って、それぞれオルカンの「欧州枠」や「日本枠」に効く。ただ、規模としていちばん大きいのは、やはり米国枠を通る道だ。
皮肉なのは、ここだ。新興国の成長を取りにいくはずの器の中で、その成長がより大きく効くのは、細い「新興国枠」の直通路ではなく、太い「米国枠」を通る遠回りのほうなのだ。新興国株という1割を通してではなく、米国企業という6割を通して。新興国の成長を一番うまく回収しているのは、たぶん米国企業だ。
ただし、どちらの道も、新興国の成長を「まるごと」運んでくるわけではない。3章で見たとおり、成長の多くは、上場企業の手前で、未上場の会社や消費者のところへ抜けていく。米国企業が取り込めるのも、その一部にすぎない。「新興国が伸びれば、その成長はまるごとオルカンに入ってくる」とまでは、言えない。
それでも、これらの細い道を通って、「一部は入ってくる」。これは確かだ。だとすれば、その「一部」は、指数の中身に、何かしら表れているはずだ。とくに、遠回りの「米国枠」のほうに。次に、それを確かめたくなった。
6. 実際、米国比率は増え続けてきた
調べると、表れていた。
MSCIの資料によれば、ACWIに占める米国の比率は、過去20年で約48%から約64%へ(足元ではさらに高く、66%前後まで)上がってきた。かつては半分以下だった米国が、いまや3分の2近くを占める。新興国のGDPがどれだけ伸びると言われ続けても、指数の中身は、米国へ米国へと寄っていった。
「なるほど、これだ」。4章からずっと追いかけてきた経路が、ようやく数字で裏づけられた気がした。新興国の成長が、米国企業という大通りを通って、オルカンに流れ込む。だから米国比率が上がってきたのだ、と。
ところが、話はそう単純ではなかった。米国比率の上昇を引っ張った主役は、新興国の成長の回収ではなく、アップルやマイクロソフト、エヌビディアといった米国テック企業そのものの、圧倒的な成功だった。新興国の成長を回収したことも一因ではあるだろう。でも、主役ではない。「米国企業が新興国の成長を回収する」という見立ては、半分は当たっていても、米国比率の上昇を説明する理由としては、的を外していた。
結局、ここでも仮説は、半分しか当たらなかった。ただ、理由が何であれ、結果ははっきりしている。全世界株を名乗る器は、年々ますます、米国の器になっていった。

さきほどの図に、もう一つの力を書き足すと、こうなる。オルカンの米国枠を一番大きく押し上げているのは、新興国の成長の回収(細い線)ではなく、右から太く伸びる、米国テック企業そのものの成功のほうだ。
【コラム】新興国枠も、結局は数社だった
ここまで読んで、こう思った人がいるかもしれない。「新興国の企業が成長して、新しくACWIに採用されていけば、新興国枠だって増えるんじゃないか」と。自分も書きながら、そう思った。
理屈はそのとおりで、実際、新興国の大企業はちゃんとACWIに入っている。韓国のサムスン電子も、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)も。むしろTSMCは、新興国枠の中で一番大きい銘柄だ。ところが中身をのぞくと、新興国枠は「いろんな新興国の詰め合わせ」ではなかった。約4分の1は台湾で、そのまた半分以上がTSMC一社。サムスンやSKハイニックスを足すと、韓国・台湾の半導体メーカーだけで、新興国枠のかなりを占める。
これは、6章で見た景色とそっくりだ。
アメリカ枠を押し上げていたのが米国のテック企業なら、新興国枠を占めているのも、TSMC・サムスン・SKハイニックスという、AIと半導体に沸く一握りの巨大企業だ。
名前が違うだけで、構図は同じ。しかも前のコラムのねじれ――韓国も台湾も経済では先進国級なのに、MSCIでは新興国――のせいで、世界有数のハイテク企業が「新興国枠」に座る、という妙なことになっている。
結局、ここでも同じだ。6章で米国枠について見たこと、つまり
「一握りの勝者が枠の大半を占める」
ということが、そっくりそのまま、新興国枠でも起きている。指数が映すのは、国の経済成長ではなく、その時々に勝っている、一握りの企業のほうなのだ。
7. これからはどうなる?
ここからは、未来の話だ。だから、どっちが来るかを当てにいくのは、やめる。代わりに、ありうる二つの場合を、ただ並べて眺めてみる。
「これからも新興国が伸びるぶん、米国企業が儲けて、米国比率は高いまま、あるいはもっと上がるんじゃないか」。そう考えたくなる。自分もそう思った。でも、本当にそうなるかは分からない。なら、当てにいかずに、両方の場合を並べてみればいい。
これからも米国が伸びる世界(ケースA)と
米国以外が伸びる世界(ケースB)
歴史を長く見れば、米国が優位だった時代と、そうでない時代は、交互に繰り返してきた。いまは米国が強い時代の只中にいるが、それが永遠に続く保証はない。
この二つの世界で、S&P500とオルカンがどうなるかを並べると、こうなる。

どちらの未来が来るかは、誰にも当てられない。米国比率が80%まで行くのか、それともどこかで腰折れして50%台まで戻るのか。正直に言って、分からない。
ここからは、自分の見立てだ。当てられないのなら、当てにいかないのが、いちばん理にかなっている。そういう目で表を見ると、はっきりする。S&P500は、Aでは大きく勝つが、Bでは勝った国を丸ごと取り逃す。オルカンは、AでもBでも、大きくは外さない。
もちろん、Bの場合、オルカンも無傷ではない。中身の66%は米国なのだから、米国が崩れる世界では、オルカンもそれなりに痛む。ただ、S&P500と決定的に違うのは、勝ち馬が米国以外へ移ったとき、その国の比率が指数の中で自動的に高まっていく仕組みを、はじめから持っていることだ。だからこそ、どっちに転んでも致命傷までは負わない。当てにいかずに、両にらみで構えている。
8. 本当に買っているものは何?
ここまで来て、最初のスタートラインに戻ってきた。ここから先は、数字の話ではなく、自分の見立てだ。
投資の世界では、よく「長期・積立・分散」が三つの基本として語られる。NISAもこれを推奨している。この「分散」を、リターンを大きくするための工夫だと思っている人が、いるかもしれない。でも、違う。リターンを最大にしたいなら、勝つ一国に全部賭けたほうがいい。分散は、その逆だ。当たりも外れも薄めて、振れ幅(=リスク)を小さくする。どの国が転んでも、致命傷にならないようにする。
つまり、分散は、当てにいく必要そのものを、なくすための装置なのだ。
アメリカ一国に集中するS&P500ではなく、オルカンを選ぶ。そのとき本当に買っているのは、「世界経済の成長」ではない。
ここまで調べてきたことが、それを裏づけている。GDPの成長と株のリターンは、直接つながっていなかった(3章)。新興国の成長に乗るはずの指数は、実際には米国に、それもテックに寄っていった(5・6章)。「世界経済の成長に乗る」という、あのグラフの前向きな理由は、データの上では危うい。リターンを取りにいくのが目的なら、本来はS&P500のような集中のほうが、筋が通る。事実、市場そのものがこの20年、米国へ米国へと寄ってきた(6章)。それも、集中という選択を後押しする。
では、降りた先で、何を手にしているのか。7章で見たとおり、これから先、どの国が勝つかは、誰にも当てられない。だとすれば、オルカンがくれているのは、その当てられなさに対する構えだ。世界がどう転んでも、勝ち馬を当てにいかなくていい、という安心のほう。当て続ける消耗戦から、降りていい。そう言ってくれる商品だと思う。
自分がスタートラインで感じた引っかかりは、二つあった。「アメリカ以外が強くなる可能性を、S&P500は捨てている」。そして、「20年も30年も、一国の運命に全部を委ねるのは怖い」。この二つは、まわり道をして、どちらもちゃんと裏付けられた。
どの国が勝つかを当てにいかなくていい。長い時間を、一つの国の浮き沈みに賭けなくていい。S&P500が悪いわけではない。米国がこの先も勝つと言い切れる人は、それでいい。言い切れない自分は、「当てにいかなくていい」という安心のために、米国集中なら得られたかもしれないリターンを、保険料として手放している。
うん。ここまで確かめてきて、控えめにだが、こう言える。
オルカンは、少なくともS&P500よりは、
安心を買っている。
9. まとめ
長くなったので、確かめられたことだけ、短く三つに。
ひとつ。世界経済は、これからも成長すると予測されている。でも、GDPの成長と株のリターンのあいだに、直接の橋は架かっていない。速く成長した国の株が、よく上がったわけではない。これは100年規模のデータが示す事実だ。
ふたつ。オルカンは「全世界株式」を名乗るが、中身は66%がアメリカで、その比率はこの20年で増え続けてきた。GDPの大きさで決まるのではなく、時価総額で決まる指数だからだ。
みっつ。新興国の成長は、現地の株ではなく、その一部が米国企業を通って入ってくる。そして、どの国がいつ強くなるかは、誰にも当てられない。
調べる前と、結論は変わらなかった。オルカンは、良い商品だと思う。ただ、惹かれている理由のほうが、すっかり入れ替わっていた。
「世界の成長に乗る」という物語で語られがちだけれど、 オルカンが本当にくれているのは、どの国が勝つかを当てにいかなくていい、という安心であり、自分がオルカンに惹かれている理由も、たぶん、そこなのだと思う。
◆注意◆
本記事は筆者の個人的な整理・読み物です。特定の投資行動や商品を推奨/否定するものではありません。投資の判断は、ご自身の責任でお願いします。
本文のうち、構成比・GDP・相関などの数値は出典に基づく事実です。一方で、「オルカンが本当に売っているのは安心だ」などの見立ては、データに基づく実証ではなく、筆者の解釈と推測です。事実と見立てを分けて読んでいただけると幸いです。
出典・参考文献
MSCI ACWIの構成比率:日興アセットマネジメント「株価指数から世界株式市場を知る」
米国比率の推移:三菱UFJアセットマネジメント「MSCI ACWI(全世界株式)とは?」
指数の仕組み(時価総額加重)・米国企業による新興国成長の間接的な取り込み:三菱UFJアセットマネジメント、野村アセットマネジメント、ちばぎんアセットマネジメント 各解説資料
世界・新興国の名目GDP(実績・概数):IMF, World Economic Outlook。新興国(EMDE)の名目GDPは2022年に約42.5兆ドル
指数の浮動株調整:MSCI Global Investable Market Indexes Methodology
GDP成長率と株式リターンの相関:Jay R. Ritter, "Economic Growth and Equity Returns," Pacific-Basin Finance Journal 13 (2005); Elroy Dimson, Paul Marsh, Mike Staunton, Triumph of the Optimists (2002) および Global Investment Returns Yearbook
新興国枠の集中:MSCI(2026年4月末時点)、Callan Institute "Emerging Market Concentration"、Lazard Asset Management 各レポート
韓国・台湾のMSCI上の分類:MSCI Emerging Markets Index 構成国一覧
※グラフ中のGDP数値は、IMF World Economic Outlookの概数(兆ドル)です。PPPベースとは数値が異なりますが、本記事は名目(米ドル)で統一しています。
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