水揚量日本一の銚子漁港
水揚量日本一に返り咲いた銚子漁港
銚子は,水揚量日本一の漁港です。
2011(平成23)年から2022(令和4)年まで12年連続で日本一で,その後2年間釧路に一位の座を明け渡していましたが,2025(令和7)年に銚子が日本一に返り咲きました(祝)。

2024年以前の数値は水産庁「水産物流調査」による
2025年の数値は公益社団法人全国漁港漁場協会ウェブサイト,釧路漁港は各種報道による
水揚量は,港に水揚げされた魚の物理的な重さのことです。
似た言葉に,水揚高があります。水揚高は,港で取引された魚の金額(売上高)のことです。
銚子はイワシ・サンマ・サバなどの大衆魚が中心なので,水揚量が1位でも,水揚高は1位にはなりません(銚子市史Ⅳ:821頁)。2025(令和7)年の水揚高1位は,静岡県の焼津です。
日本一の理由
どうして銚子が水揚量日本一の漁港になれるのでしょうか。
銚子は,地理的に恵まれています。北の寒流(親潮)と南からの暖流(黒潮)がぶつかり,海の栄養分が停滞してプランクトンが大量に発生します。そしてそれをエサとするイワシなどの小魚,さらに小魚を食べるサバやカツオなどが多く取れる,昔からの好漁場です。それに加えて,日本最大の消費地である東京から100キロ圏内ですので,魚を早く届けるという流通面でも非常に有利です。
そして,銚子には冷凍・冷蔵工場が多数あり,水揚げされた魚の鮮度を保つことができます。加工製品の原料の確保や出荷時までの保管など,様々な点で便利な漁港です。
こうした地理的条件と冷凍・冷蔵能力があることから,銚子漁港には,地元の船だけでなく,北は北海道から南は沖縄に至るまで,日本全国からたくさんの沖合漁船が集まってきます。銚子の水揚げの8割以上は,地元船以外の船である 廻船(かいせん)で占められています。2024(令和6)年の銚子漁港の廻船による水揚高の数量比率は,85%に及んでいます(銚子市水産課「銚子の水産」令和7年4月)。
全国には漁港が2700ヶ所以上もありますが,銚子漁港は,日本にとって重要な13ヶ所にしかない 特定第三種漁港 のうちの一つに指定されています。
先ほどの水揚量のグラフは,特定第三種漁港の13ヶ所に釧路漁港を加えて作成したものです(※1)。
漁港及び漁場の整備等に関する法律(漁港漁場整備法)
5条 漁港の種類は,次のとおりとする。
第一種漁港 その利用範囲が地元の漁業を主とするもの
第二種漁港 その利用範囲が第一種漁港よりも広く,第三種漁港に属しないもの
第三種漁港 その利用範囲が全国的なもの
第四種漁港 離島その他辺地にあって漁場の開発又は漁船の避難上特に必要なもの
19条の3第1項 特定第三種漁港(第三種漁港のうち水産業の振興上特に重要な漁港で政令で定めるものをいう。…)(以下略)
漁港及び漁場の整備等に関する法律施行令
2条の2 法第19条の3第1項の政令で定める漁港は,次の表のとおりとする。
(青森県)八戸,(宮城県)気仙沼,石巻,塩釜,(千葉県)銚子,(神奈川県)三崎,(静岡県)焼津,(鳥取県)境,(島根県)浜田,(山口県)下関,(福岡県)博多,(長崎県)長崎,(鹿児島県)枕崎

充実した受入施設
銚子漁港は,漁船の受入設備が充実しています。
卸売市場は,3つもあります。
利根川の内側にある第1市場では,主にマグロやカジキ類の水揚げが行われています。市場前の通り沿いには美味しいお店が並んでおり,市場内にある銚子漁港直営の食堂「万祝(まいわい)」も人気があります。

第2市場では,イワシ,アジ,サバなどが水揚げされます。建物の老朽化に伴い,2026(令和8)年5月,第3市場の近くに新築移転しました。


第3市場では,キンメダイ,タイ,ヒラメなどが水揚げされます。前日までに予約すれば,市場を見学することができます(平日のみ)。


第2・第3市場のすぐ近くにある ウオッセ21 の水産物即売センターでは,新鮮な魚をお買い上げいただけます。隣のポートタワーに上れば,銚子漁港を一望することができます。
卸売市場のほかにも,白と水色のダイヤ格子の外壁が目立つ巨大な製氷工場や,タンクに銚子市漁港と大書きされた給油所など,様々な市場関連施設が整っています。



戦後からの統計を見てみると…
銚子が水揚量日本一になったのは,1997(平成9)年が最初です。
戦後からの水揚量の推移が気になって調べてみたところ,水揚量が最大だったのは1984(昭和59)年の約82万トンで,しかもその年ですら日本一は銚子ではなく,釧路でした。

数値は銚子市漁業協同組合による
以前,入梅いわしの記事にも書いたように,マイワシには大量・不漁の波があります。マイワシの漁獲量は昭和50年代に急激に増大し,1984(昭和59)年には日本全体の漁業・養殖業の生産量がピークの1282万トンになっていました(水産庁「水産白書」)。
ところが,マイワシの漁獲量の減少の影響により,全国の生産量は1995(平成7)年頃にかけて急速に減少しています。
銚子が日本一に返り咲いた2025(令和7)年でも,その水揚量は約22万トンです。最大だった1984(昭和59)年当時の約82万トンと比べて,7割以上も減少していることがわかります。
豊かな漁港を未来に繋げるために
釧路に日本一の座を明け渡していた2024(令和6)年,銚子の水揚量は約14.6万トンと激減していました。
異常とも言われる黒潮(暖流)の北上と,それに伴う海水温の上昇が原因です。
水揚量の低迷は,銚子市の工業出荷額の3分の1を占める水産物加工業にとって大きな打撃になっています(読売新聞2024年12月30日記事「銚子漁港の年間水揚げ過去50年間で最少…イワシとサバが不振,黒潮の北上で『南下しきれず』」)。
水揚量日本一に返り咲いたとはいえ,銚子の漁業が直面しているのは単なる「魚が獲れる・獲れない」の問題ではありません。
「日本一」という言葉からは華やかな印象を受けますが,実際の銚子は,豊漁と不漁,価格変動,燃料や電気代の高騰,冷凍・物流コストの上昇,さらには世界的な気候変動や水産資源の変動と常に向き合い続けている現場でもあります。
その銚子の賑わいを未来に繋ぐには,地域の努力だけでなく,日本の漁業政策やエネルギー・物流政策,そして地球規模の海洋環境の問題とも向き合っていく必要があります(※2)。
もっとも,こうした大きな課題を前にして,私たち一人ひとりに何もできないわけではありません。地域の産業を支える第一歩は,その地域を知り,訪れ,味わうことです。
皆さんも,銚子を実際に訪れて地元の新鮮な魚を味わうというその素敵な一歩から,ぜひ踏み出してみていただきたいと思っています。

※1 銚子と競り合う釧路は,特定第三種漁港ではありません。釧路は漁港漁場整備法に基づく漁港指定すら受けておらず,港湾法に基づく重要港湾として指定されています。
※2 近年の漁業政策は,「たくさん獲る漁業」から「将来も獲れ続ける漁業」への転換を進めています。1996(平成8)年に日本が批准した国連海洋法条約は,最大持続生産量(MSY)に基づく資源管理を求めています(61条3項)。日本も2018(平成30)年,漁業法を70年ぶりに改正し,資源量がMSYを実現できる水準を保てるようにするため,国が漁獲可能量(TAC)を定め,このTACによる管理を資源管理の基本に据えました(8条1項)。銚子の主力であるマイワシ・サバ・サンマは,いずれもこのTACの対象です。つまり,銚子にどれだけ魚が水揚げされるかは,魚群の有無や漁業者の努力だけでなく,水産資源を持続的に利用するための政策とも深く結び付いています。
