子界巫浄神話 皆の書 六の門
周波数の叛逆(レジスタンス)
「死界」の澱みが現実を侵食し、空と地の境界が溶け始めた。
発狂した兵士たちが放つ銃弾は、カイの数センチ手前で、まるで水中に投げ込まれた石のように速度を失い、緑の光の粒子となって霧散する。
「無駄ですよ。今の僕にとって、あなたの殺意はただの『波』でしかない」
カイが静かに呟くと、彼の指先から放たれた周波数が、兵士たちの脳内に渦巻く恐怖を無理やり「静寂」へと書き換えていく。
それは救済という名の、個の意志の剥奪だった。
しかし、その瞬間、カイの脳裏に「孤独な神」の震えるような声が直接響いた。
『……寂しい。もっと近くへ……。殻を脱ぎ捨てて、私の待つ神界へ昇ってきなさい。』
神界からの周波数が一段と強まり、巫浄「ぬうま」の身体が膨張し始める。
彼女の纏う花魁の衣装が、幾何学的な光の線へと分解され、富士の山頂を貫く巨大な「三角形の門」を形成し始めた。
神は焦っていた。子界人たちが死界の周波数に適応しすぎて自滅する前に、無理やり引き上げようとしているのだ。
だが、それは3次元という物質世界そのものを「消去」することに等しい。
「神様……あなたは寂しさのあまり、僕たちを『自分の一部』に戻そうとしている。
でも、それはもう成長じゃない。
ただの逆行だ」
カイは、ぬうまの掲げた提灯――神の左目の端末――に手をかけた。
神の力を受け入れる「受肉の装置」であるはずのカイが、初めて神の意図に抗った瞬間だった。
カイの全身のクリスタル化した皮膚が、強烈な摩擦でひび割れ、そこから赤く濁った「人間の血」が流れ出す。
「僕は……僕たちは、あなたの寂しさを埋めるためのパーツじゃない!」
カイが叫ぶと、ぬうまの第三の目が激しく明滅し、神界と子界を繋ぐ周波数のラインが火花を散らした。神の「覗き穴」の向こう側で、巨大な意志が驚きに目を見開くのを感じる。
死界から溢れ出す黒い影と、神界から降り注ぐ暴力的なまでの光。
その中心で、
カイは自分の中に眠る「すべてを許す」という、
聖人たちが到達した次元の欠片を必死に探り当てようとしていた。
