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hanaemi_jewel
現代詩│金木犀を知らない
金木犀をまだ知らない、私はまだ知らない
金木犀の香りを、金木犀の色を
ファンシーショップの店先で見た香水
金木犀の匂いらしい
私にはまだ、つくりものの匂い
社会をまだ知らない、私はまだ知らない
竦む足、羽ばたけない足、取り残される足
私はまだ、社会を知らない
新聞の見出しで見た情勢
戦争は終わらないらしい
私にはまだ、解り切れない世界
知らなければ何もかもつくりもの
知らなければ未知であること
精神科のオルゴール
夭逝のミュージシャン
昼下がりの教室の汚れたカーテン
前の席にいる誰か
それぞれの秘めた旅路、知らなくて良い事
知らない、私は知らない
何も知らない、何も、何も、何も
私は何者?
カルキの抜かれた水槽の中で泳ぐ鮫みたいに
私はどうにも厄介な人になってしまった
可能性だけ残した言葉がひらひら舞って落ちた
私はどうにもやりきれなかった
笑って下校する中学生に嫉妬してしまった
私が14歳に挟んだ栞は、ボロボロだから
私の中の正しい憧憬は壊れてしまった
私のすべてに刻まれた傷は、異図で意図だから
私は歪んでしまったのだ
誰かにとって、私はつくりものなのだ
金木犀をまだ知らない、私はまだ知らない
金木犀の香りも、想像の中の幸せも
この先にあなたと見るはずだった未来でさえも
あなたはもういない
わたしの歪みを丁寧に正すあなたは
もういないと解っている
ファンシーショップの店先で見た香水
つくりものの匂い
無知を悔いる水槽の鮫は 今日も靴紐を結んだ
つくりものを壊すために生きるはずでした
先生、私の健全な感性は、死んでしまったのでしょうか
