見出し画像

金利上昇と株式市場の関係が難しくなっている・・・

金利上昇はなぜ株価にマイナスなのか?

株式の価値を考えるうえで、まず押さえておく必要があるのは、金利上昇は原則としてすべての株式にとってマイナス要因であるということである。

株価とは、簡単に言えば、その会社が将来どれくらいお金を稼ぐことができるかを、現在の価値に置き換えたものである。こう考えるのが多数派の1つだ。
例えば、「10年後に100万円もらえる権利」と「今日100万円もらえる権利」なら、多くの人は今日100万円もらえる方を選ぶだろう。今日もらった100万円なら、銀行に預けたり投資したりして、10年間でさらに増やすことができるからである。つまり、将来の100万円は、現在の100万円より価値が低い。株式も同じである。企業が将来稼ぐ利益や現金を、現在の価値に置き直して株価を考える。このとき重要になるのが金利である。金利が高くなるほど、「将来もらえるお金」の現在価値は小さくなる。そのため、企業が将来稼ぐ金額がまったく変わらなかったとしても、金利が上昇するだけで、その企業の理論上の株価は低くなる。

したがって金利上昇は、グロース株だけに悪影響を与えるものではない。程度の違いはあるものの、バリュー株やディフェンシブ株を含め、基本的にはすべての株式に株価を押し下げる力が働くのである。したがって、金利が上昇して割引率が高くなれば、同じキャッシュフローを生み出す企業であっても、その現在価値は低下する。この意味では、金利上昇はグロース株だけの問題ではなく、バリュー株やディフェンシブ株を含め、理論上すべての株式の価値を押し下げる方向に働く。

ただし、その影響の大きさは企業によって異なる。特に大きな影響を受けやすいのが、現在の利益よりも遠い将来の利益に企業価値の多くを依存している企業である。将来の大きな成長を織り込んで高いPERが付いているグロース企業ほど、キャッシュフローの「デュレーション」が長いため、割引率上昇による現在価値の低下が大きくなる。これが一般に「金利上昇にグロース株は弱い」といわれる理由である。グロース株は、債券に例えればデュレーション期間の長い超長期債とイメージすることもできる。金利が上昇したときのインパクト(ダメージ)は、短期債は小さく、超長期債は非常に大きい。それと同じようにイメージすれば良いだろう。

成長という重要な要素

しかし、実際の株価を考える際には、割引率だけを見るのでは不十分である。株価は大きく言えば、「将来キャッシュフローの大きさ」と「それを現在価値に戻す割引率」の二つによって決まるからだ。金利上昇によって割引率が上昇しても、それ以上のスピードで企業利益やキャッシュフローが増加するのであれば、割引率上昇によるマイナスを利益成長が吸収することができる。しかし、実際の株価は、金利だけで決まるわけではない。

これを自転車にたとえると分かりやすい。企業の利益成長が「ペダルをこぐ力」だとすれば、金利上昇は「向かい風」である。向かい風が強くなれば、同じ力でペダルをこいでいても、自転車は前に進みにくくなる。これが、金利上昇によって株価が押し下げられるイメージである。

しかし、向かい風が強くなっても、それ以上に強くペダルをこぐことができれば、自転車は前に進み続けることができる。株価も同じで、金利が上昇しても、企業の利益やキャッシュフローがそれ以上の勢いで増えていれば、金利上昇によるマイナスを吸収することができる。

つまり重要なのは、「向かい風が強くなったか」だけではなく、「それ以上の力でペダルをこげているか」である。金利が上昇していても、利益成長が十分に強ければ、株価が上昇することは十分にあり得る。

極端に言えば、金利が上昇して適正PERが30倍から25倍へ低下したとしても、EPSが1年間で30%増加すれば、株価は必ずしも下落しない。株価を単純化して「EPS×PER」と考えれば、EPSの増加がPER低下を上回れば、株価は上昇することさえ可能である。したがって、本当に重要なのは「金利が上がったかどうか」ではなく、「金利上昇によるバリュエーション低下と、利益成長のどちらが大きいのか」という比較である。

金利上昇のスピードと要因も重要

さらに、金利については絶対的な水準だけでなく、上昇の理由とスピードも重要である。例えば、10年国債利回りが4%から4.5%へ半年から1年かけて緩やかに上昇する場合と、数週間で4%から5%へ急騰する場合では、同じ「金利上昇」でも株式市場への影響はまったく違う。緩やかな金利上昇であれば、企業利益の増加やアナリストのEPS予想引き上げによって市場が時間をかけて吸収できる。一方、急激な金利上昇では、投資家が企業利益を再評価するより先に、機械的なバリュエーション調整やポジション解消が発生するため、成長率の高い優良企業まで一時的に売られる可能性が高くなる。風速100メートルの暴風の中では、いかなる自転車も進むのは難しいのだ。金利が急上昇する局面では、いかなる優良企業の株価も上昇を維持するのは難しくなるということだ。

また、金利上昇の「理由」も決定的に重要である。景気拡大、生産性向上、設備投資増加などを背景とした「良い金利上昇」であれば、割引率は上昇する一方で企業利益も増加するため、株式市場は金利上昇を比較的吸収しやすい。これに対して、インフレ再燃、財政不安、国債需給悪化、タームプレミアム上昇などによる「悪い金利上昇」は、企業利益を押し上げないまま割引率だけを高めるため、株式市場にとってより危険である。

つまり、金利と株価の関係は「金利上昇=株安」という一本の線では捉えられない。正確には、①金利の水準、②金利上昇のスピード、③金利上昇の理由、④企業の利益成長率、⑤その株式に織り込まれているバリュエーションという五つの要素の組み合わせによって決まる。これが原則だ。

金利と株の関係の複雑化

現在の米国株式市場を考えるうえで、一つ興味深い変化が起きている。それは、AI関連企業の多くが依然として高い利益成長を続けているにもかかわらず、バリュエーションが以前ほど高くなくなっていることである。

特にマグニフィセント・セブン(M7)では、この傾向が鮮明である。AIという巨大な成長市場の中心に位置し、企業としての稼ぐ力そのものが衰えたわけではない。それでも、すでに時価総額が巨大になっていることに加え、データセンターやAIインフラへの巨額投資を加速させているため、フリーキャッシュフローへの懸念などから株価の上値は以前ほど軽くない。その間にも利益は増加しているため、結果としてPERは時間をかけて低下してきた。

ここで問題になるのが金利上昇である。一般論として、金利上昇は株式価値にとってマイナスである。将来キャッシュフローを現在価値へ戻す際の割引率が上昇するためであり、特に遠い将来の利益を高く評価されている高PERグロース株ほど影響を受けやすい。これは冒頭に述べた通りだ。そして、2022年に金利上昇によってハイテク株が大きく売られたのは、その典型であった。こういう株価の下落を「バリュエーション調整」という。

マグニフィセント・セブンのクオリティ株化

しかし、現在のM7を2022年当時と同じように考えてよいのだろうか。ここには重要な違いがある。現在のM7は、巨大な売上高、利益、キャッシュフローをすでに生み出しながら、さらにAIによる利益成長が期待されている企業群である。しかも利益の増加に対して株価上昇が抑えられてきた結果、PERは以前より低下している。つまり、金利でバリュエーション調整が起こる前に、利益でバリュエーション調整が起こってしまっている。

この状態では、金利上昇による追加的なPER圧縮余地も以前より小さくなる可能性があるだろう。その場合、興味深い現象が起こり得る。
金利上昇によって市場全体のバリュエーションが圧縮される局面では、投資家は単純に「ハイテクを売る」のではなく、「高いPERを正当化できない企業」を売るようになる。一方、M7のように巨大なキャッシュフローを生み出し、財務体質が強く、なおかつAIという構造的成長分野を握っている企業は、相対的に安全な投資先として選ばれる可能性がある。耐久性への評価である。つまり、金利上昇局面においてM7が「安全資産」になるというより、正確には株式市場内部の相対的な逃避先、あるいはクオリティ資産になる可能性があるということである。

これは債券や現金のような本当の安全資産とは違う。金利が急騰すればM7も当然売られる。しかし、株式を保有し続けなければならない投資家から見れば、金利上昇局面で「高PERで利益の乏しい企業」「借入依存度の高い企業」「利益成長のないディフェンシブ企業」を持つよりも、強固なバランスシートと巨大なキャッシュフロー、高い利益成長力を持つM7を保有した方がよいという判断は十分に成立する。

メモリ関連企業は?

ここでさらに興味深いのが、サンディスクやキオクシアなどメモリー企業である。これらの企業では、M7以上に極端な現象が起きている。AIデータセンター投資の急拡大によってメモリー需給が逼迫し、価格上昇と数量増加が同時に起きた結果、利益が短期間で急増した。株価も大幅に上昇しているが、それ以上の速度で予想EPSが増加しているため、予想PERは一般的なハイテク企業とは思えないほど低い水準まで低下している。

表面的には、これは金利上昇に非常に強い株式に見える。PERが5倍なら益回りは20%である。米国債利回りが数十bp、あるいは1%程度上昇したとしても、PER30倍、40倍、50倍のグロース企業と比較すれば、純粋な割引率上昇によるバリュエーション圧縮余地は小さい。その意味では、メモリー株についても「金利上昇=ハイテク株だから売り」という判断には違和感がある。

しかし、ここでM7とメモリー企業を同一視していいのかという問題が起こる。最大の違いは、現在の低PERが何を意味しているのかである。M7のPER低下は、長期間に渡り、利益成長が続く一方で株価上昇がそれに追いつかなかったことによる「時間をかけたバリュエーション調整」という側面が強い。したがって、現在のEPSが翌年、さらにその翌年にも拡大すると市場が考えている限り、低下したPERには一定の信頼性がある。

これに対してメモリー株の低PERには、まったく別の意味が含まれている可能性がある。市場は「今の利益が大きすぎる」と考えている可能性があるからだ。メモリー産業では歴史的に、好況期に価格が急騰すると利益が爆発的に増加し、PERが極端に低下する。しかし、その後に供給能力が増加すると価格が下落し、利益も急減する。このためPER5倍という数字は、「極端に割安」という市場の評価ではなく、「この利益は長続きしない」という市場からのメッセージである場合がある。
そして、このメモリー産業の特需が、通常の半導体サイクルによる好況ではなく、AIインフラ革命というメガトレンドによって引き起こされていることが、話を一段と複雑化させている。私には「極端に割安」と見えるが、「すぐに利益が爆下がりして、超割高となり、株価が急落する」と見る人には、全く割安には映らないだろう。

したがって、M7とメモリー株では金利上昇に対する耐性を決めるものが違う。M7の場合には、「現在の利益成長が金利上昇によるPER低下を上回れるか」が中心的な問題になる。一方、メモリー企業の場合には、それ以前に「現在のE、すなわちEPSそのものを市場がどこまで信用するか」が問題になる。

ここにM7とメモリー株の決定的な違いがある。M7では低下したPERそのものが金利上昇へのクッションになり得る。一方、メモリー株ではPER5倍という数字ではなく、そのPERを生み出しているEPSの持続性こそがクッションなのである。したがって、金利上昇局面で両者が同じように買われる可能性はあるが、その条件は異なる。このへんが、複雑ですね。

結局、これからの金利上昇局面では「ハイテクか、非ハイテクか」という分類だけでは不十分であるということだ。重要なのは、①現在のPERがどこまで低下しているか、②EPSがどれだけ成長しているか、③そのEPSを市場がどこまで持続可能だと考えているか、④金利上昇がどの程度速いか、⑤金利上昇の背景が成長なのかインフレ・財政不安なのかという五つの要素である。これが、今の時代の株価と金利を見える上での1つのポイントとなるだろう。

ここから先は

0字

投資歴3年以上の方向けに、プロが実際に行っている「市場の見方・考え方」を共有します。株式、債券、為替…

投資のポイント

¥500 / 月
1ヶ月無料

マスタープラン

¥1,500 / 月
1ヶ月無料

金融教育プラン

¥1,500 / 月
1ヶ月無料

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?