デミス・ハサビス氏、GoogleのAI開発のカギを握る天才
1.はじめに
今回は、GoogleのAI開発のキーパーソンであるデミス・ハサビス氏を取り上げます。その天才ぶりに驚かされますよ。
幼少期と家族背景
デミス・ハサビス氏は1976年にロンドン北部で生まれた。父親はキプロス出身のギリシャ系で母親はシンガポール出身の中国系という多文化な家庭で育ち、3人兄弟の長男。両親は教師をしており一時期は玩具店を営んでいたとのこと。妹は作曲家・ピアニスト、弟はクリエイティブ・ライティング専攻で、家族は芸術的な素養で溢れているようだ。逆に、一家はテクノロジーとは無縁で、「両親はテクノロジー嫌いでコンピュータも好みません。家族で数学や科学に進んだ者はおらず、自分だけが異端児でした」とハサビス氏本人も述懐している。
幼少期から卓越した頭脳を示し、特にボードゲームの才能が際立っていた。4歳でチェスを覚えると僅か2週間で大人を負かすほど上達し、5歳で早くも国内大会に出場、6歳でロンドンのU-8部門チャンピオンとなった。9歳ではイングランドU-11代表チームの主将を務め、13歳でチェスマスターの称号を得ている。やばいですね。チェスの賞金200ポンドで初めて自分のコンピュータを購入し、独学でプログラミングも始めたとのこと。幼少期に培ったチェスとコンピュータへの情熱が、後の人工知能研究の原点となったのかな?
学歴と専門分野
ハサビス氏は飛び級するほど優秀で、16歳でケンブリッジ大学の入学試験に合格した。17歳になると入学を許可され、ケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジでコンピューターサイエンスを専攻。1997年、20歳のときケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業した。
大学卒業後しばらくゲーム開発の道に進んだが、「人工知能を研究するためには、まず人間の脳を研究すべきだ」との考えから、再び学問の世界に戻る。2005年にロンドン大学UCLの博士課程に進み、認知神経科学の研究を開始した。当時ゲーム開発者としては異色の経歴だったが、「脳について知っていたのは頭蓋骨の中にあることくらい」と笑いながらも猛勉強し、2009年に博士号(Ph.D.)を取得。博士研究では海馬損傷患者は将来の出来事の想像も困難になることを示す画期的な論文を発表し、この成果は2007年の科学誌『Science』による「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」トップ10に選ばれた。天才ですね。博士課程修了後はハーバード大学やMITで研究員を務め、脳のメカニズムから着想を得た新しいAIアルゴリズムの探究に努めた。
職歴とキャリア
ゲーム開発者としてのキャリア
16-17歳でイギリスのゲーム会社にてキャリアをスタートさせ、伝説的ゲームデザイナーのピーター・モリニュー氏の下で働いた。17歳のときにはシミュレーションゲーム「テーマパーク」の開発で主任プログラマー兼共同デザイナーを務め、この1994年発売のゲームは数百万本の大ヒットした。
大学卒業後はモリニュー氏の新会社で人工知能を活用したゲーム開発(代表作「ブラック&ホワイト」)に携わった後、1998年に独立して自らのゲーム会社「Elixir Studios」を設立した。Elixir社ではAIシミュレーションゲームを手がけ、最盛期には60名規模に成長したようだ。しかし2005年、同社の知的財産や技術を売却してスタジオを閉鎖し、ゲーム業界から離れて研究分野に転身した。
DeepMindの創業とAI研究
2010年、ハサビス氏は幼馴染のムスタファ・スレイマン氏、研究仲間のシェーン・レグ氏と共に人工知能スタートアップ「DeepMind Technologies」を共同創業した。社是に「知能を解明し、その知能を使ってあらゆる問題を解決する」という壮大なビジョンを掲げ、ロンドンを拠点に人類初の汎用人工知能(AGI)を目指す研究に着手した。創業当初からDeepMindの技術力は際立ち、2013年には強化学習AIがクラシックゲーム(ブロック崩し等)のプレイを通じて自律的に上達するデモを発表し、業界を驚嘆させている。
Googleもこの潜在力に注目し、2014年にGoogle社はDeepMindを約4億ポンドで買収した。買収後もハサビス氏は引き続きCEOとして研究部門を率い、ロンドンの開発拠点を拡大しながら、Googleのリソースを得て研究を加速させていく。DeepMindは2023年にGoogle Brainチームと統合され「Google DeepMind」と改称されたが、現在もハサビス氏がそのトップとして指揮を執っている。さらに彼は医薬研究子会社Isomorphic LabsのCEOも兼任し、AlphaFoldの技術を新薬開発に応用するプロジェクトも推進している。
科学的・技術的な能力・専門分野
ハサビス氏は人工知能研究者であると同時に神経科学者でもあり、計算機科学と脳科学の双方に精通した希少な人物だ。幼少期に培ったボードゲーム戦略思考やプログラミング技能は、AIアルゴリズム開発にも活かされている。特に強化学習や深層学習(Deep Learning)の分野で先駆的な成果を挙げており、人間の学習能力を機械で再現することに情熱を注いできた。
博士号取得後に発表した海馬と想像力に関する研究などからも分かるように、人間の記憶・認知メカニズムへの深い理解をAIモデル設計に役立てている。
DeepMind社では物理学や数学オリンピック優勝者から各分野のトップPhDまで世界中の最高の頭脳を集めたチームを率いており、異なる分野の知見を結集して問題解決に当たる文化を築いた。こうした能力とビジョンが評価され、2018年には英国王立協会フェロー(FRS)に選出され、2017年には英国工学アカデミーのフェロー(FREng)にも就任している。こんな人物がGoogleのチームを率いているのだ。
信条・思想・価値観
ハサビス氏は一貫して「AIを人類の利益に役立てる」ことを信条としており、その究極の目標は「知能を解明し、その力であらゆる難問を解決する」ことだ。自ら立ち上げたDeepMindのミッションにも「人工知能を世界をより良くするために使う」と掲げ、AI技術を医療や気候変動など社会課題の解決に応用するビジョンを示している。
同時に、先端AIのリスクにも深い洞察を持っている。AIの暴走リスクは気候変動と同等に深刻だと警鐘を鳴らし、「AIの存在による人類絶滅のリスクをパンデミックや核戦争と並ぶ社会的リスクと考えるべきだ」という声明にも署名している。2023年にはイギリスで開催された初のグローバルAI安全サミットを前に、「AIのリスクも気候変動と同様に真剣に受け止めねばならない。気候対応が手遅れになった教訓をAIで繰り返してはならない」と発言し、各国の協調ある対策を訴えた。また「悲観的な見方はしていない。そうでなければAIに取り組んでいない」と述べる一方、安全性と倫理の確保には最大限の注意を払うべきだという立場だ。
ハサビス氏の価値観の根底には科学と人間性への強い信頼がある。幼少時にチェスやゲームに熱中した経験から「ゲームはAIへの入り口であり、子供たちがプログラミングに進むきっかけになる」と語っており、遊びや創造活動を通じた学びを重視。またオフィスの会議室にテスラやファインマン、アリストテレスといった歴史上の知的偉人の名を冠し、さらにはメアリー・シェリー(小説『フランケンシュタイン』著者)の名も掲げている。ハサビス氏自身「もちろん彼女のファンだ。『フランケンシュタイン』は何度も読んでおり、常に心に留めておくべき物語だ」と述べており、テクノロジーの可能性と危険性の両面に目を配る姿勢が伺える。総じて、人類に豊かさと「ラディカルな潤沢さ」をもたらすAIを信じつつも、その実現には慎重かつ責任あるアプローチが不可欠だというのが彼の思想と言えるだろう。
主な功績・実績
ゲーム業界での成功:17歳で開発に携わったシミュレーションゲーム「テーマパーク」は世界的なミリオンセラーとなり、若きゲームデザイナーとして名声を得た。また1998年から2003年にかけて、ボードゲームなどの複合大会「マインドスポーツ・オリンピアード」で5度の総合優勝を果たし、ゲーム分野で卓越した才能を示した。
DeepMindの創設とGoogle買収: 2010年にDeepMind社を創業し、強化学習を中心とする独自の研究開発で注目を集めた。特に2013年に発表したゲームAIの成果は衝撃を与え、翌2014年には同社がGoogleによって約4億ポンドで買収された。これは当時の欧州スタートアップ買収額として最大級で、ハサビス氏は一躍テック業界の注目人物となった。
AlphaGoによる囲碁制覇 (2016): DeepMindが開発したAI「AlphaGo」は、2016年に韓国のトップ棋士イ・セドル九段を4勝1敗で破り、コンピュータが初めて囲碁の世界チャンピオンに勝利する偉業を達成した。囲碁は極めて複雑なゲームで長年AIには攻略不可能とされてきたが、AlphaGoは人間の直観的手法を模倣したディープラーニングと自己対戦による学習でこれを克服した。この成果はAI研究の歴史的ブレークスルーとして世界に衝撃を与えた。皆さんも記憶に新しいところだろう。
AlphaZero・ゲームAIの汎用化: 囲碁での成功後、DeepMindはチェスや将棋も含めた汎用ゲームAI「AlphaZero」を開発し、人間の知識に頼らず自学自習で各ゲームの頂点に達することを実証した。さらにリアルタイム戦略ゲーム「StarCraft II」や3Dゲームなど複雑な領域でもAIが人間トップレベルに到達し、ゲームをベンチマークに汎用学習能力を示す成果を挙げている。
AlphaFoldによる科学的偉業 (2020): 2020年、DeepMindが開発したAI「AlphaFold 2」はタンパク質の立体構造予測で画期的な精度(約92%)を達成し、生物学上50年以上の難問だった「タンパク質折り畳み問題」を事実上解決した。AlphaFold2は既知の約2億ものタンパク質構造を予測しデータベースを無償公開するなど、生命科学研究に大きく貢献しているのだ。
ノーベル賞受賞 (2024): AlphaFoldの成果により、ハサビス氏と主要開発者ジョン・ジャンパー氏は2024年にノーベル化学賞を共同受賞した。計算機によるタンパク質構造予測の実現が「科学の突破口」と認められたもので、AI研究者がノーベル賞を受賞するのは史上初の快挙だ。この受賞に際しハサビス氏は「非常に光栄で信じられない気持ちです。しばらく実感が湧きません」と喜びを語り、今後もAIをツールとして科学者がより多くの発見をできるよう貢献したいと述べた。
その他の栄誉: ハサビス氏は2017年に大英帝国勲章CBEを授与され、さらに2024年にはナイトの爵位を拝受している(AIへの貢献に対して)。2018年には王立協会フェロー(FRS)、2022年に英国工学アカデミー・フェロー(FREng)に選出されるなど、学術界・産業界から幅広く功績を称えられている。
GEMINI 3開発のリーダーシップ
GEMINIシリーズは、GoogleがチャットGPTに代表される生成AI競争で巻き返す切り札として位置づけられ、マルチモーダル(テキスト・画像・音声など複数媒体対応)かつエージェント指向の強力なモデルとして設計されている。ハサビス氏はこのプロジェクトを通じて「汎用人工知能 (AGI) へのもう一つの大きな一歩」を踏み出したと述べ、GEMINI 3を「世界で最も高度なマルチモーダル理解能力とエージェント機能を備えたモデル」に育て上げたと胸を張っている。
GEMINI開発戦略におけるハサビスのビジョンと決断
「AlphaGoの強みと大規模言語モデルの驚異的な能力を組み合わせる」 これがGEMINIプロジェクト当初からのハサビス氏の構想だ。彼は2016年に人類のトップ棋士を破った囲碁AI AlphaGo で用いた強化学習や、近年飛躍的に発展したGPT系モデルの「言語理解」の力を融合し、新たな能力を持つAIを作ることを目指した。ハサビス氏は「GEMINIはアルファ碁タイプのシステムの強みと大規模言語モデルの素晴らしい言語能力を組み合わせるものだ」と述べている。
ハサビス氏のビジョンは、GEMINIをテキストだけでなく画像・音声など複数のモードを理解し、人間のように自律的にタスクをこなすエージェント的AIへと発展させることだった。例えばGEMINI 3は、ユーザーの入力意図を正確に汲み取り、必要に応じてツールを使いこなしながら問題を解決できる「エージェンティック(主体的)な能力」を備えたモデルとなっている。これはハサビス氏が掲げる汎用AI(AGI)への道にも沿うものだ。
GEMINIは一朝一夕に完成したわけではなく、ハサビス氏の指揮の下で段階的に高度化されてきた。GEMINI 1では「ネイティブなマルチモーダリティ対応」と「長いコンテキスト処理」のブレークスルーにより、扱える情報の種類と量を大幅に拡大し、GEMINI 2では「エージェント機能」の土台を築き、論理推論や思考力を強化することで複雑な課題にも取り組めるようにした。dそしてGEMINI 3でそれらすべての能力を結集し、あらゆるアイデアを具現化できる「最も知能の高いモデル」が実現されたのだ。
戦略的リソース配分:
Alphabetは2023年に社内AI研究組織の大再編を行い、Google BrainとDeepMindを統合してGoogle DeepMindを発足させた。この新組織のトップに据えられたハサビス氏は、両ラボの知見と人材を結集し、社運を賭けた大型プロジェクトであるGEMINIに集中投下したのだ。彼自身「現在のAI分野のイノベーションの8~9割はGoogle BrainかDeepMindのいずれかから生まれた」と述べ、統合による相乗効果に自信を見せている。
大胆な意思決定: ハサビス氏の経営判断は時に保守的と映ることもありますが、それは短期的な利益より長期的な成果を優先するポリシーによるものだ。例えば、2019年頃にOpenAIから持ちかけられた先端AI分野でのジョイントベンチャー提案をハサビス氏は断っている。当時それを受けていれば協力関係で利益を得られた可能性もあるが、彼は独自路線を維持することを選んだ。また、金融トレーディングへのAI応用プロジェクトにも社内の期待があり、ブラックロック社との協業の芽もあったが、彼はそれをDeepMindの優先事項には据えず最終的に中止した。こうした決断の背景には「一時的な収益よりも科学的ブレークスルーを追求する」信条がある。
研究者・エンジニアとの関係性
「多様な知の交差点」でチームを率いるのがハサビス流。DeepMind創設時から彼は、機械学習だけでなく神経科学、認知科学、数学、哲学など異分野のトップ人材を集め、難問に挑むスタイルを取ってきた。この学際的コラボレーションへのこだわりはGEMINI開発でも健在で、研究者たちは領域を超えて自由にアイデアを出し合い、技術を融合させている。ハサビス氏自身「我々は機械に知能を与える一方で、人間性を常に中心に据えたい」と語り、社内には専門分野を超えて知識共有する風土(社員曰く「知の大聖堂」)を築いた。その結果、生物学者が機械学習のヒントを与えたり、倫理研究者が技術設計に意見するなど、思いがけない科学的ブレークスルーが生まれる環境が整っているとのこと。
プライベート
仕事の顔とは別に、ハサビス氏は家庭人としての一面も持ち合わせている。妻はイタリア出身の分子生物学者でアルツハイマー病の研究者という科学一家であり、夫妻の間には2人の息子がいる。ロンドン市内の自宅で家族と過ごす時間を大切にしており、毎日夕食時には必ず帰宅して子供たちと過ごすよう努めているとのことだ。子供の宿題を見たり、一緒にゲームや読書をすることも日課にしているらしい。
趣味・嗜好の面では、少年時代からのゲーム・チェス好きに加えてスポーツ観戦好きとしても知られている。特にイングランド・プレミアリーグのリヴァプールFCの熱烈なファンであり、サッカーをはじめあらゆるスポーツを観ることを楽しみにしているとのこと。またDeepMind社内には社員によるランニングクラブやフットサルチーム、ボードゲーム部もあり、社内文化として競技やゲームを愛する気風を育んでいる。ハサビス氏自身、社内のボードゲーム対決に参加しては真剣に戦うなど、遊び心と競争心を持ち合わせた人物だ。
尊敬する人物について直接言及した場面は多くないが、前述の通り彼は科学史上の偉人たちに強い敬意を払っている。社の会議室名にニコラ・テスラ、シュリニヴァーサ・ラマヌジャン、リチャード・ファインマンといった偉人の名を冠したのもハサビス氏の発案であり、人類の知的遺産を自らの事業に刻み込む姿勢が見てとれる。
総じてデミス・ハサビス氏は、幼少期から発揮された天才的才能を研鑽によって開花させ、ゲーム開発者から世界的なAI研究リーダーへと飛躍した人物のようだ。科学的探究心と人類全体を見据えた高い志を持ち合わせ、私生活では家庭や趣味も大切にするバランス感覚もある。「知能を解明し尽くせば、残るあらゆる問題も解決できる」という彼の信念の下、ハサビス氏はこれからもAIの可能性を追求し続け、人類社会にもたらす恩恵と課題の双方に真摯に向き合っていくことだろう。
凄い人ですね~。
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