35mmの記憶。X-Pro1と見た、光に包まれた田園
あの頃、僕はX-Pro1を持っていた。
フィルムカメラのような見た目と、ぎこちない操作感。
でもその不器用さが、むしろ愛おしかった。
シャッターを切るたびに「撮ったぞ」っていう実感があって、
何気ない風景も、一枚の作品になる気がした。
その日、僕は山の上にいた。
旅の途中でもなんでもない、ただなんとなく車を走らせて、
ふと見つけた展望台から眺めた風景だった。
見下ろすと、一面に広がる田んぼ。
まるで緑のパッチワークのようなその風景は、
ときどき雲の切れ間から差す光に照らされて、
場所によって色の濃淡がまったく違っていた。
光が動いていた。
雲の影が流れて、田んぼの緑がじわじわと変化していく。
まるで地球が静かに呼吸しているみたいだった。
僕はX-Pro1にXF35mm F1.4をつけて、
その風景にそっとレンズを向けた。
ファインダーを覗いた瞬間、もう言葉はいらなかった。
この景色を、
この光を、
この空気ごと残したい。

F1.4の世界は、ピントの合った部分だけがくっきりして、
その周りがやわらかく、とろけていく。
それがまるで、“思い出のなかの風景”みたいだった。
ただの田んぼの写真かもしれない。
でも僕にとっては、あの日X-Pro1が見せてくれた奇跡だった。
便利なカメラはいくらでもある。
今のスマホでも、簡単に美しい写真が撮れる。
でも、あのX-Pro1の鈍く黒いボディと、
あのシャッター音がなかったら、
僕はこの風景を見逃していたかもしれない。
X-Pro1と35mmで切り取った一枚は、
ただの風景じゃない。
あの日、僕がそこで呼吸していた証拠みたいなものだ。
またあのカメラを手に取りたくなる日が来るかもしれない。
今度はもっと、光を探しに行こう。
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