【ショートショート】 アヒルタクシー
《作:ハミングバード / 原案:「モンキーマジック」さん》
あっ!来た来た、、、ちっ、また「回送」かよ。。。
、、、おっ!今度こそ、、、って、後ろにお客さん乗ってんのか。。。
普段あんま乗らないから意識しなかったけど、なかなか厳しいな。。。
あー、オレの名前はケイ。
年は29で、平凡なサラリーマン。
子どもの頃は地方で育ったんだけど、進学と同時に都会に出て来て、もう10年くらいになる。
今日もいつもと同じように出社して、午前いっぱいは、いつもと同じように平凡なデスクワークをこなしていた。
ところが、急に昼過ぎ頃から何だか熱っぽくなって、さっき上司に謝りながら、会社を早退してきたところだ。
あいにく会社の近くに病院がなく、いっそのこと、1時間くらいかかるけど家まで帰って、自宅の近所にある病院に行くことに決めた。
それにしても、体がすごく熱い。
頭も少しクラクラする。。。
そんなこんなで、会社から最寄りの駅まで歩くのもダルくて、タクシーを探してるところなんだが、、、なかなか捕まらないんだ、これが。
、、、このあたり、全然タクシー通んないじゃんか。。。
仕方ない、、、頭がボーッとするけど、駅まで歩くか。。。
「ハ~イ、ニーハオ! 乗ってく?」
、、、ん?!
、、、今、誰かオレに話しかけたか?
何か片言な日本語だったような。。。
オレはあたりをキョロキョロと見回した、、、が、近くには誰もいない。
気のせいか。。。熱のせいで幻聴まで聞こえ出したのか。。。
あー、タクシー通ってくれないかな。。。
「ハ~イ、ケイ。ニーハオ! 乗ってく?」
、、、ん?!オレの名前呼んだ?
オレは、もう1度あたりを見回した。
だが、やっぱり誰もいない。。。
昔から高熱出して寝てると、たまに頭の中でヘンな声が聞こえたりすることがある。
もう声は無視して、とりあえず駅まで急ごう。
「ちょっと、こっちこっち。上~!」
上?
オレは何も考えず、そのまま空を見上げた。
、、、ん? 何だアレ?
、、、アヒル??

「あー、やっと気付いてくれたー。ねえ、乗ってく?」
何と、電線のあたり、アヒルが空中にプカプカ浮いている。。。
OMG! ついに幻聴だけじゃなく、幻覚まで見え出したか。
それにしても、喋るアヒルとは。。。アルコール依存症がひどくなると、机の上を大名行列が横切るとか聞いたことがあるが。。。
いかんいかん、アリスとチェシャ猫じゃないんだから、あんな空飛ぶファンタジーな幻覚に構っているヒマはない。
オレは早く病院に行かないと、頭がどんどん熱くなって。。。
「ねえねえ、乗ってく? 乗ってきなよ!」
それでも、幻覚アヒルは執拗にオレに話しかけてくる。
もう無視しよう。
暫く無視していたオレだが、、、幻覚アヒルの「乗ってく?」は、その後も3回くらい続いた。
ついに面倒くさくなったオレは、投げやりに「あー、ホントに病院まで乗っけてくれたら楽だけどなー」と幻覚相手に返事をした。
これって、単なるオレの独り言じゃんか。周りに人がいなくてラッキーだけど、傍目から見たら、今のオレってだいぶ変人モード入ってるだろうな。
「乗ってくんだね! わかったよ!」
と幻覚アヒルの声がして、また何気なく上を見た、、、
うわ~っ!
、、、!
幻覚アヒルがオレに向かってパタパタ下りてきた!
、、、そして、そいつはチョコンとオレの肩にとまった。。。
「ねえ、乗ってくんだから、両手出してよ!」
「りょ、両手?」
「そうそう、水を掬うみたいに」
オレは、何だか訳が分からないまま、通勤カバンのストラップを肩に掛け、幻覚アヒルの言うとおり、水を掬うように両手を上に向けてくっつけた。
すると、幻覚アヒルはパタパタパタ~ッとオレの両手の上に移動し、またチョコンと座った。
「さあ、どこまで乗ってく?」
「いや、、、って言うか、お前が乗ってんじゃん!」
「ねえ、ケイ! 『お前』だなんて言わないでさ、ボクの名前、『ディディヤー』って言うんだ。そう呼んでよ、ボクのこと」
、、、何だって?
「でぃでぃ屋? 動物使った新手の商売か?」
「的的鴨 (DD Ya)」= 「ディーディーヤー」
「んとね、もともと的的(DD)は中国語でタクシー。そして、鴨(Ya)はアヒルっていう意味だよ!」
「ん?おま、、、ディディヤーは中国から来たのか? だから、ちょっと片言な、、、まあいいや」
「ねえ、それで、どこまで乗ってく?」
もう、こうなったら、とことんディディヤーの気が済むまで、つき合ってやるよ!
「じゃあ、オレの家の最寄り駅、『餃子の皮』駅の近くに『ニキ病院』ってあるだろ?そこまで乗っけてくれよ! 1時間くらいかかるけどな」
「ニキ病院だね! 分かったよ。じゃあ、ボクもちょっと乗り物っぽく変身するね!」
、、、そして、、、

乗り物っぽく、へんし~ん!
「お待たせ!」
「、、、何か、ちょっと『おまる』っぽいな、、、」
「じゃあ行くよ。しっかり掴まっててね!」
うわうわ、うわ~っ!
急に両手にディディヤーを乗せたオレの体が宙に浮き始めた。
そして、さっきディディヤーがプカプカ浮かんでた電線の上あたりまで行くと、ス~ッとオレの自宅の方角目掛けて、体が動き始めた。
「おっ、オイ! ディディヤー! オレたち、、、空飛んでるのか?いったい、どういう原理だよ、コレ」
「そう、一緒に空の旅を楽しもう! しっかり掴まってて! そして、ボクを落とさないでね、ケイ!」
両手の上で、ディディヤーが言った。
いやいや、オレのことも落とさないでくれよ!
「空飛ぶオレとディディヤー」は段々と高度を上げ、それにつれてスピードもどんどん加速してきた。
今や、オレらの体は高層ビル群を見下ろす高さまで上昇し、目的地の方角目指して、風を切ってグングン進む。
「オイ! ディディヤー! 飛ばし過ぎじゃないのか? ホントに車並みのスピードじゃんかよ!」
「タクシーだからね! ケイ、怖い? 大丈夫! ボクを信じて!」
「行くよ~、レッツ、ガーガー!!」
ビューン!
うわ~っ! ちょっと怖い、、、けど、、、何だか爽快だな。
人があんなに小さく見える。
そしてすごいスピードだ。
ビュンビュン風を切って、何か気持ちよくなってきたぞー。
よーし! いけいけ~ディディヤー!
レッツ、ガーガー!
オレも負けじと叫んだ。
オレの掛け声のせいか、ディディヤーのスピードはさらに少しだけ増した気がする。
それにしても、ディディヤーに触れるこの感じ、、、何だか懐かしい気がするな、、、なぜだろう。。。
それにしても、アヒルタクシーか。。。
アヒルって、こんなに早く飛ぶんだな~。
アヒルって、こんなに上手に飛ぶんだな~。
アヒルって、、、アレ? こんなに上手に飛ぶんだっけ?
うわ~!
急にオレとディディヤーの高度がガクン!と下がり、それと同時に急に失速し始めた。
、、、やばい、、、何かディディヤーが少しフラフラしてきたぞ。。。
「なあ、ディディヤー、オレたち、、、大丈夫だよな。。。」
「う~ん、頑張ったんだけど、、、アヒルって、、、やっぱり飛ぶのはあんまり上手じゃないみたい。。。因みに、ケイって、今何キロ?」
「えっ?65キロとか、それくらいだと思うけど。。。」
「そうか、、、そんなに、、、大きくなったんだね、、、」
ディディヤーの声がちょっと辛そうになり、スピードもますます遅くなる。
「なあ、、、ひょっとして、、、オイオイ! 墜落するのか?!」
「大丈夫! ボクがどうにかなっても、絶対にケイを守るから!」
その直後、ボクとディディヤーは凄い速さで落下していった。
うわ~っ!
、、、やばい! ビルの屋上が近付いてきた。
このままだとコンクリートに叩きつけられる!
ヒエ~ッ! お助け~っ!
「ケイ! しっかり掴まってて!」
「掴まるって、どこにだよ!」
「エイッ!」
グーン!
ディディヤーが力を振り絞り、オレたちはビルの屋上に叩きつけられる寸前で、また少し高度を上げた。
、、、そして、、、一瞬、体が宙にフワッと浮いた感じになり、、、そのまま再度、落下した。
、、、
バサッ!
オレの体はこんもりと茂った木々の葉っぱの上に落ちた。
幸運なことに、葉っぱがクッション代わりになり、全く痛くはなかった。
、、、だが、オレの体は葉っぱの上で大きくバウンドし、、、そして、またもや落下した、、、
ザッバーン!
、、、池の中に。。。
、、、
、、、ゴボゴボゴボ、、、く、、、苦しい。。。

「、、、ン、ブハァ~! ゴホッ!ゴホッ! うわ~水飲んだ!」
オレは池の中から何とか首を出した。
フゥー、何とか助かったか。
、、、ん? ディディヤーはどこだ?
「ディディヤー! ディディヤー!」
オレはディディヤーを探した。
しかし、どこにも見つからない。。。
、、、
えっ!
、、、
池の先、ちょうど草も生えておらず、硬い土が盛り上がった場所、、、そこに思いっきり叩き付けられたのか、ピクリとも動かなくなったディディヤーが横たわっていた。。。
、、、嘘だろ、オイ!
ここから見ても、ディディヤーが息をしていないことは明らかだった。。。
その真っ白な体はピクリとも動かない。。。
ディディヤー、、、最後にオレを見捨てて逃げていれば、身軽なあいつ1羽くらい、助かった筈だろ。。。
あいつ、最後までオレを離さなかったのか。。。
オレがビルの屋上に叩きつけられないように、最後の力を振り絞って、オレを木の上に投げてくれたんだな。
そして、、、自分はそのまま力尽きて、、、地面に叩きつけられ、、、
あいつ最後に言ってたな。
「ボクがどうにかなっても、絶対にケイを守るから!」って。。。
、、、オレはなぜだかよくわからないが、今日会ったばかりとは思えない「旧友」を失ったような、もの凄く悲しい気持ちになった。。。
「う、、、ううっ、、ううっ、、、、、、、、ディディヤー!」
オレはさめざめと泣いて、ディディヤーの名前を叫んだ。。。
、、、
「ケイ?大丈夫?」
「ううっ、大丈夫なもんか。ディディヤーが、、、オレを守って、、、ん?」
んっ?
、、、
目の前にはディディヤーが? えっ?
「ボクがどうしたの? それより、ケイの眼鏡、あっちの木の枝に引っ掛ってたよ! これがなきゃ、よく見えないんでしょ?」
おっ、そうだそうだ。
眼鏡を掛けてなかった。
ディディヤーの言うとおり、オレはこれがなきゃよく見えないのだ。
オレはディディヤーが口に咥えていた眼鏡を受け取り、それを掛けて、今一度、前を見た。
そこには、心配そうな表情でオレの顔を覗き込むディディヤーがいた。
「ねえ、ケイ? 大丈夫?」
「ディディヤー、、、か? お前、、、う、ううっ、、、ううっ、、、ディディヤー!」
オレは泣きながらディディヤーを抱きしめた。
なぜだろう。。。
ディディヤーにしがみつくオレは、やっぱり、何かちょっと懐かしい気持ちがするって思った。。。

「ねえ、ケイ? どうしたのさ?何で泣いてるの?」
「ううっ、、、オレはてっきり、、、お前が地面に叩きつけられて死んだとばっかり、、、あの硬い土の、、、硬い土の、、、?、、、ん? 硬い土の上に横たわる『白いあいつ』は何だ?」
オレはもう1度、さっきのディディヤーらしき何かが横たわる硬い土で覆われた一帯を見た。
、、、そこには、誰かが捨てていったのか、(アヒル大の)白い「ヤギのおまる」が転がっていた。
「ひょっとして、ケイ?あれとボクを見間違えたの?ボク、あんなにヘンな恰好してないよ。アハハハハ」
「アハハハハ、似たようなもんだろ? メェ~って鳴いてみろよ。アハハハハ」
オレとディディヤーは笑い合った。
すっかり「おまるのようなアヒルの乗り物」から「普通のアヒル」に戻ったディディヤーは、申し訳なさそうに言った。

「ケイ、ごめんね。怖い思いさせちゃって、、、ボク、、、ただ、、、ケイのことが、、、きっと、ボクのこと嫌いになったよね、、、?」
ディディヤーはションボリとして、小さな声でガーガー鳴いた。
「別にいいよ、無事だったし。ディディヤーこそ、最後までオレのこと離さないでいてくれて、ありがとな。嫌ってなんかいないから、そんなガーガー泣くなよ」
「えっ? ボクのこと嫌いになってない? それホント?ホントにホント?わ~、よかった~!ケイ、ありがとう!」
ディディヤーは、今度は嬉しそうにガーガー鳴いて、お尻をフリフリしながら、オレの周りを走り回った。
「、、、ねえ、ケイ? ところで、この場所、覚えてる?」
この場所?
オレは改めてあたりを見回した。
池のまわりは木が生い茂り、、、ただの公園だよな。。。
「 この場所って、 こんなところ、オレ来たことない、、、」
、、、ん?
、、、
、、、いや、、、来たことあるぞ。。。
、、、何か、、、懐かしい。。。
そういやオレ、ディディヤーと会ってから、何回も懐かしい、、、って気持ちになってるよな。
これって、何でだろう。。。
「ケイ! やっと思い出してくれたんだね! ボクもケイとケイのお父さんがボクにしてくれたこと、ずっと覚えてるよ! ケイ、、、こんなに大きくなって、、、ボクね、ずっとずっとケイに会いたかったんだよ!」
、、、オレとオレの親父、、、?
ん? おぉ~っ! 思い出した!
ここって、オレが小学校低学年の頃まで住んでた家の近く、よく遊びに行ってた近所の公園だ。。。
、、、コイツ、、、そうか、、、あのときの。。。

そう、オレが幼稚園児の頃だっただろうか、オレは親父に、近所にあったこの公園によく遊びに連れて来てもらったんだっけ。
オレの両親は早いうちに離婚して、兄弟のいないオレは、親父と2人で暮らしていた。
そして、週末に親父と、この公園に遊びに来るのが楽しみだった。
ある日、いつものように公園で遊んでいて、オレは池のそばで、群れからはぐれたのだろう1羽の子どものアヒルを見付けたんだった。
すでに黄色から白に変色してはいたが、まだ幼いそのアヒルは、猫だかカラスだかに虐められたのだろうか、傷付いて、うずくまっていた。
オレは慌てて親父を呼び、「お父さん!このままだと、この子死んじゃうよ!助けてあげようよ!ボクが面倒見るから!」と助けを求めた。
親父はアヒルを見て、「う~ん、、、これはだいぶ弱ってるな、、、」と唸ったが、オレたちは急いで、そのアヒルを獣医さんのところに連れて行った。
獣医さんは、アヒルの怪我の手当をしてくれて、このまま安静にしていれば、アヒルもやがて元気になると言ってくれた。
オレはそれを聞いて、すごく嬉しかったのを覚えている。
その後、親父とオレはアヒルを家に連れて帰り、餌をやり、そのまま面倒を見始めた。
最初の頃、アヒルはなかなか元気にならず、何だかそのまま死んじゃうんじゃないかと思い、オレは何日かメソメソしていた。
だが、手当ての甲斐もあって、アヒルはだんだんと元気を取り戻し、親父とオレに懐くようになった。
まだ小学校にも入学していないオレは、そのアヒルに名前も付けず、「アヒルちゃん、アヒルちゃん」と呼んで可愛がった。
兄弟も友達もいなかったオレとその「アヒルちゃん」は、すっかり仲良くなって、毎日のように遊んだ。
アヒルは元気になるにつれ、ガーガーと大きな声で鳴くようになっていった。
そして、ある日、アヒルは急に家からいなくなった。
寂しがって泣くオレに対し、親父はアヒルは元気になって逃げてしまったと言い聞かせた。
だが、今考えると、ガーガー鳴くアヒルに対し、ご近所さんから苦情を受けることを心配し、親父が新しい飼い主を見付けるなどしたのかもしれない。。。
、、、昔のことをまざまざと思い出すオレに対し、ディディヤーが言った。
「ケイ! やっぱりボクのこと覚えていてくれたんだね! あのとき、ケイとケイのお父さんがボクを助けてくれて、、、さっきは、あんな怖い思いさせちゃったけど、ボク、ケイに何かお礼したかっただけなんだ。。。ねえ、ケイ、会えてホントに嬉しかった。ボクのこと、忘れないでいてほしいんだ、、、あと、ボクができることと言ったら、、、」
「ディディヤー! あのとき、お前はどこに、、、」
、、、そのとき、聞き覚えのある声がした。
「ケイ! お~い、ケイ!」
オレは振り返った。
、、、ん?
「お~い、ケイ! そんなとこで何やってるんだ~? 飯の支度ができたから、早く来い!」
そこには、オレを呼ぶ親父の姿があった。
アレ?親父? いつの間にか、、、オレって実家に戻って来てたのか?
「早く入って来いよ!」
親父の呼ぶ声に従い、オレは家の方に歩いて行った。
「ケイ! 久しぶりだな! こんな突然帰って来てビックリしたぞ。さあさあ、まずは家に入って、とりあえず飯にしよう」
「親父、、、オレも実家に来る予定はなかったんだけど、あのときのアヒルが、、、」
とオレは池の方を振り返った、、、が、ディディヤーの姿は見当たらなかった。
「アヒル?どこにそんなのがいるんだ?それより、久しぶりにお前の好きなシーフードカレーだぞ!」
「えっ! マジで? 親父のシーフードカレーって、オレが世界で一番好きなやつじゃん!」
「おう、そしてニラ餃子もたっぷり入れて、お前の大好きな『シーフード餃子カレー』だ」
グ~ッ
急に腹が鳴った。
オレはいても立ってもいられなくなり、家の中にドタドタっと入って行った。
久しぶりに食う親父の『シーフード餃子カレー』、涙が出そうなくらい美味い。
そして、オレは親父と最近あった色んなことを話し合った。
久しぶりにこんなに話し込んだ気がして、何だか凄く楽しい。
「そして、お前、仕事の方はどうなんだ?」
「まあ、あんまりパッとしないよ。別にオレがいてもいなくても、会社は回るんだろうし、何か出世の見込みもないような気がするし、、、」
「ハッハッハ、そうかそうか、まあ腐らずにやってけよ。『人間万事塞翁が馬』とも言うし、腐らずにいる限り、また風向きも変わってくるべ。ケ・セラ~セラ~だ。ハッハッハ。そして、お前、もうすぐ可愛い嫁さんも来ることだし、、、」
「ん? 嫁さん? 親父、何言ってんだよ。オレ、結婚どころか、彼女もいないし、嫁さんなんて、嫁さんなんて、、、」
、、、ケイ!、、、ケイ!
、、、ねえ、ケイってば!
ケイ!
もう、入るわよ~
ガラガラガラ~
「ケイ! うわっ!なかなか出て来ないと思ったら、寝てたの?お風呂の中で寝たら、危ないよ~」
「ん~、ムニャムニャ、、、親父か?、、、ん~、アレ?ディディヤーか?」
「でぃでぃ屋? 何、それ? 寝惚けてる?」
、、、ん? アレ? ここどこだ? オレは公園に行って、その後、池の後ろに実家があって、親父と、、、
気付けば、オレはバスタブに浸かっていた。
そして、浴室のドアのあたりからオレを見下ろす妻の千里と目が合った。
「、、、あっ、千里? おはよう、、、」
「もう、おはようじゃないわよ。なかなか出て来ないから心配して見に来たら、やっぱり寝てたのね! 何か、ブツブツ寝言も言ってたみたいだけど、何か楽しい夢でも見てた?」
「あっ、あー、何か空飛ぶアヒルのタクシーがオレを昔住んでた家まで連れてってくれてさー。まだオレ、20代だったよ。お前とも結婚する前でさー。そして、死んだ親父とも久しぶりに色々と語り合って、楽しかったよ。オレの大好きな『親父特製 シーフード餃子カレー』も久々に食わしてもらって、あ~美味かったな~」
「20代? もう、何十年前の話してるの? それより、アヒル?! いい年して、いつまでもそんな玩具と一緒にお風呂に入ってるから、そんなヘンな夢見たんじゃないの?」
オレが浸かっているお湯の表面をアヒルの玩具がゆら~っと流れて来た。

「おーおー、愛しのアヒルちゃん! オレのお気に入りだ。子供の頃、親父と一緒に公園でアヒル見付けてさー、、、」
「ハイハイ、何百回も聞いたわよ、その話。アヒルちゃん、逃げちゃったんでしょ? あんまり長く入ってると体に悪いから、早く出て来なさいね!」
千里は呆れた表情で浴室のドアを閉め、居間に戻って行った。
、、、さて、妻の言うとおりだ。
そろそろ出ようか。
オレはバスタブから出て、シャワーで体を軽く流し、浴室から出ようとドアを開けた。
そして、、、本当に本当にバカバカしいのだが、パッ!とバスタブを振り返り、お湯にプカプカ浮かぶアヒルの玩具に向かってこう言ってみた。
「ディディヤー、ありがとな!」
お湯の上でゆらゆら揺れるアヒルが、オレに向かって軽くウィンクした。
でも、それはきっと、眼鏡を掛けていないオレの錯覚だろう。
(完)
~あとがきに代えて~
私の愛すべき中国人ソウルメイトの「モンキーマジック」さんが見た夢が元となった話である。
手の平にアヒルが舞い降りてきて、「あなた誰?」と聞いたら「ボクはDD鴨(ディーディーヤー = アヒルタクシー)」と言ったらしい。
なので、本作もアヒルが中国籍となっており、それ以上の深い意味はない。
