七色の扉〜虹の国アルステファン〜《掌編小説》

虹の国アルステファンの入口に立つ、
“七色の扉”。
私はここから外に出るために、独り歩いてきた。
…険しい道のりだった。
この国から出るためには、ガラス細工の森の木の葉や花びらが散らばり、宙空にダイアモンドダストが舞い狂う中を行かねばならない。
それらが私の素肌を容赦なく切り刻み、もう体中血塗れで、視界すら危うい。
それに加え、この国の天使の歌声には催眠の作用があった。眠らぬように気をつけなければならない。また、天使の射手らが私の心臓にいつ虜の矢を放ってくるか分からなかった。
だが、私は今、眠気と闘い、何度もガラスの欠片と氷の嵐に傷つき倒れながらも這って這って何とかここまでやってきたのだ。
私の罪は、アルステファンの女王レインに恋をしたことだ。
レインは、私の求愛に応え、婚礼の儀を整えた。
私は幸せの絶頂にあった。
しかし、彼女の一言で、私は現実に引き戻された。
「愛する方、わたくしの夫となるからには、生涯をこの国に捧げ…故郷のお国には決して帰らぬと、誓っていただけますね?」
美しい瞳が、七色に輝く。
「…も、勿論だ」
私は焦った。
私は、この国で生きるとなると、あと一年足らずで命が尽きる。環境が体に合わぬのだ。
力も上手く振えぬ。
ただ、レインのことは愛している。
私は、己れの命と愛を天秤に載せられていた。
私は、天使ではない。
私は…。
私は、ちょうど“七色の扉”の真上の境界に立っていた。
「魔王陛下」
“七色の扉”の向こうで、呼ぶ声がした。
私の配下、選りすぐった数百人の親衛隊が控えていた。隊長の上級魔人ゾルドが恭しく片膝をつき、私を出迎えていた。
「お急ぎください、陛下。我等はここには長く留まれませぬ。陛下よりも耐性が弱い我等は“虹”によって魔力も生命力もすぐに吸い尽くされてしまいますゆえ」
私は頷き、外へ一歩を踏み出すために“七色の扉”に寄りかかり掴んだ取手を支えに、傷ついて血だらけの片足を上げた。
「最愛の夫よ」
“七色の扉”の内側で、呼ぶ声がした。
「魔王…ヴェルガス。貴方は、わたくしのもの」
美しい、私の最愛の妻レインだ。
「陛下、振り返ってはなりませぬ!」
もう遅い。
私は、私の愛に勝てなかった…。
“七色の扉”は、レインの瞳なのだ。
私は彼女に囚われてしまった。
…けれども、後悔はない。
約一年後、私は病床にあった。
妻が片時も離れずに、私を慈愛の目で見つめ、身体を撫でて看病してくれた。
命を吸い取られているのだと分かっていても、私は満たされていた。
「愛しています、ヴェルガス。わたくしは貴方の力が欲しかったわけではありません…貴方の愛が欲しかったのです。分かっていただけますね?」
私は微笑みを捧げる。
分かっている。
あげるとも。
私のすべて…。
私は“七色の扉”と同じ、レインの虹色の瞳に見守られながら、遂に力尽きた。
我が命よりも、我が愛を選んだのは、私だ。
私なのだ。
彼女ではない。
虹の国アルステファン。
“七色の扉”に守られし美しき国…。
上記、募集に参加させていただきました。
片桐みかんさん、
よろしくお願いいたします🙇🏻♀️
