還暦から始める低山歩きの魅力
息があがる。汗が吹き出る。
「あそこまで行けば一息つける」
心の中でそうつぶやきながら、一歩ずつ足を前に出す。
ようやく休憩場所にたどり着く。
「一服しよう!」
息を整え、吹き出た汗をタオルでぬぐう。ペットボトルの水をひと口、ふた口。眼下には長岡の街並みが広がる。鳥のさえずりがあちこちから聞こえ、心地よい風が木々の香りを運んでくる。
この瞬間がたまらない。
再び歩き始めると、口数は自然と少なくなる。上り坂では自分の呼吸と足元に集中する。しかし、平坦な道や下り坂になると、不思議と会話が弾み始める。
山歩きは気持ちがいい。

人間が忙しく暮らしている街を見下ろせるからだろうか。鳥の声や風の音、木々の匂いは普段の生活の中にもあるはずなのに、山の中ではまったく違って感じられる。
山小屋で出会った人に声をかける。山道ですれ違う人にも自然にあいさつをする。日常生活では見知らぬ人に気軽に声をかけることは少ないのに、山ではそれが当たり前になる。
なぜだろう。
今回の目的はホタルブクロを見ることだった。
「6月のこの時期がちょうどいいんだ」

そう言って友人が誘ってくれたのは、我が家の近くにある三ノ峠山(468.6メートル、新潟県長岡市)である。
登ったのは今回で2回目。初めて登ったのは昨年の春だった。まだ残雪が残る時期で、カタクリなどの可憐な花々を楽しむことができた。
そもそも私は登山経験がほとんどない。思い出せるのは中学校までの遠足と、高校時代の学校行事くらいである。
そのため、「登山は危険なもの」という先入観がずっとあった。
ところが近年、「低山歩きの魅力」を紹介するテレビ番組や動画をよく見かけるようになった。遠くの名山ではなく、身近な里山を気軽に楽しむ人が増えているようだ。
私も昨年初めて地元の山を歩き、その魅力に気付いた。
今回案内してくれた友人は私より10歳年上。会社経営をしながら、仕事の合間を縫って山歩きを楽しんでいる。
午後1時に待ち合わせをして、午後3時半には下山。
登山口までは車で移動し、無理のない行程だった。
「こんな身近なところに、こんな素晴らしい場所があったのか」
それが率直な感想である。
還暦を迎えた今、私はよく考える。
一度しかない人生を、どうすればより豊かに過ごせるのだろうか。
その答えは人それぞれだろう。
しかし私にとって山歩きは、その答えの一つかもしれない。
美しい景色に出会える。
季節の花に出会える。

人との交流が生まれる。
そして何より、自分自身と向き合う時間が持てる。
山歩きは、決して特別な人だけの趣味ではない。
私のような登山初心者でも楽しめる。

近くの低山に足を運ぶだけで、いつもの景色が少し違って見えてくる。
そんな小さな発見を、これからも大切にしていきたいと思う。
