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『そういえばの発電所』

『そういえばの発電所』

「そういえば」には発電所がある。
男がそのことを知ったのは、歯を磨いている朝だった。
鏡を見ている。
泡だらけだ。
すると突然、思い出す。
そういえば、昨日の洗濯物を取り込んでいない。
その瞬間、洗面所の電気が一瞬だけ明るくなった。
少しだけ。
確かに明るくなった。
午前中。
男は市の案内センターへ向かう。
受付係は古い付箋だった。
何かを思い出させる仕事を長くしてきた顔をしている。
「発電ですね」
「今、光りました」
「正常です」
当然のような返事だった。
午後。
町外れの施設へ案内される。
巨大な建物だった。
煙突はない。
代わりに、無数の豆電球が並んでいる。
看板にはこう書かれている。
『そういえば第一発電所』
稼働率:季節により変動。
中へ入る。
発電機がゆっくり回っている。
その燃料は、
忘れかけていたこと。
返し忘れた本。
冷蔵庫のプリン。
昔の約束。
急に思い出した歌。
職員が説明する。
「人は『そういえば』を発生させるたび、微量の電力を生みます」
「どのくらいですか」
「廊下一本くらいなら照らせます」
ちょうどいい量だった。
夕方。
警報が鳴る。
『大規模そういえば発生』
どこかで誰かが、
十年前の出来事を急に思い出したらしい。
発電量が一気に上がる。
町の街灯が少し明るくなる。
噴水も元気になる。
職員たちは慌てない。
慣れている。
夜。
男は帰宅する。
ベランダの洗濯物は無事だった。
少し冷えている。
取り込みながら思う。
そういえば、
子どもの頃もよく忘れていた。
その瞬間、どこかで小さな電球がまた一つ灯る。
翌朝。
ニュースの片隅に小さく載っている。
『昨夜のそういえば発電量、平年比+12%』
理由は分からない。
たぶん、誰かが何かを思い出したのだろう。

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