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風の仏音、無限の階層

風の仏音、無限の階層

教室の窓枠が、低く震えている。
渡良瀬の谷を、青い風が吹き抜けていく。
この土地の底で常に鳴っている、
読経に似た音だ。
君という存在を、言葉の点で捉えようとしていた。
けれど、君の中の感情は流体で、
私の用意した語彙を容易に追い越していく。
カントールが夢見た無限の階層。
0と1のあいだに、
決して数え上げられない実数が輝いている。
いま、君の瞳の奥にあるのも、そういうものだと思った。

「……ねえ、聞こえる?」

風の音が、一段と深く鳴った。
指先が触れる。
温度が、ゆっくり移動する。
数ミリメートルの隙間にあった無限の距離が、
君の体温によって静かに塗りつぶされる。
言葉を諦めたとき、
鼻腔を塞いでいた冷気が消えた。
代わりに、
滑らかな響きが満ちてきた。
仏音か。
それとも、
君と私のあいだで初めて解かれた何かか。
私はただ、数え上げることをやめた。
白い連続体の中に、溶けていった。

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