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『沈黙のクリーニング店』
『沈黙のクリーニング店』
沈黙にはクリーニング店がある。
男がそのことを知ったのは、会話を終えた帰り道だった。
特に嫌な会話ではなかった。
むしろ良い時間だった。
それなのに、沈黙が少し汚れている気がした。
言いそびれた言葉。
余計だった一言。
ちょうど良かったはずの間。
そういうものが少しだけ付着している。
駅前の路地に、小さな店を見つけた。
看板にはこう書かれている。
『沈黙専門クリーニング』
即日仕上げ可。
男は入ってみた。
店主は古い雪景色だった。
長く静かな仕事をしてきた顔をしている。
「お預かりします」
店主はそう言った。
男はポケットから沈黙を取り出した。
思ったより皺が多い。
午後。
作業場では様々な沈黙が洗われていた。
仲直りの後の沈黙。
病院の待合室の沈黙。
満員電車の沈黙。
夕焼けを見る沈黙。
用途によって洗い方が違うらしい。
特に夕焼け用は繊細だった。
色落ちしやすい。
夕方。
店主が説明してくれた。
「最近は言葉の使いすぎで持ち込まれる方が多いですね」
男は少しうなずいた。
沈黙も消耗品なのかもしれない。
夜。
仕上がった沈黙を受け取る。
見た目は変わらない。
だが少し軽い。
余分な解釈が落ちている。
風通しも良い。
帰り道。
男はその沈黙を持って歩いた。
特に使う予定はない。
それでも持っていると安心した。
翌朝。
喫茶店でコーヒーを飲む。
窓の外を眺める。
言葉はない。
急ぐ必要もない。
クリーニングされた沈黙は、とても座り心地が良かった。
この町では、話すことと同じくらい、沈黙の手入れも大切にされていた。
