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勘違いという名のパラレルワールド第二話:モンスターの覚醒

勘違いという名のパラレルワールド
第二話:モンスターの覚醒

​「高橋くんさあ……君はうちの部署の、本当の意味での『モンスター』だよ」
​打ち合わせの帰り際、部署のリーダーである村井が、どこか遠い目をして呟いた。
​モンスター。
高橋の背中に、電撃のような衝撃が走った。
規格外のスケール、既存の枠組みを破壊する圧巻のパワー、そして大衆を平伏させる圧倒的カリスマ。
マイク・タイソン、レディー・ガガ、あるいは映画のゴジラ。
天賦の才能と破壊力を兼ね備えた者だけに贈られる、究極の称讃。
​「……身にあまるお言葉です。ですが、自分はまだその覚醒の途上にすぎません」
高橋は深く首を垂れ、拳をギュッと握りしめた。
村井リーダーは一瞬「え?」という表情を浮かべたが、何かを諦めたように「あ、そう……頑張ってね」とだけ言って去っていった。
​その夜、高橋はいつもの居酒屋で、同期の佐藤を前に目をギラギラと輝かせていた。
​「佐藤、ついに来たよ。俺は目覚めてしまった」
「何がだよ。お通しの枝豆に目覚めたのか?」
「村井さんが認めたんだ。俺は『モンスター』だってさ」
「……は?」
「要するに、既存のルールやちまちました枠組みには収まりきらない、規格外の怪物ってことだろ。俺の秘められたポテンシャルが、ついに社内を揺るがすレベルに達したんだよ」
「高橋、お前それ絶対に――」
「見ていろよ佐藤。これからは社内モンスターとして、遠慮なく暴れ回ってやるから」
​高橋は生ビールの大ジョッキを豪快に煽り、野生味あふれる笑みを浮かべた。
その姿はまさに、解き放たれようとする怪獣そのものだった。
​翌日からの高橋は凄まじかった。
「村井さん! 従来のフォーマットなんて生ぬるい! 俺のソウルで書き換えた新案です!」と規格外のプレゼン資料を叩きつけ、打ち合わせでは「俺の破壊的なインスピレーションが唸りを上げています!」とデスクをドンと叩いた。周囲の社員たちは「高橋が急にモンスター化した」「関わるとヤバい」とざわつき、物理的に距離を置くようになったが、高橋はそれすら「強者の放つ威圧感に対する畏怖」と捉えていた。
​しかし、その規格外の暴走が功を奏したのか、高橋が強引に押し通した新規コンペの企画が、なんとクライアントに「今までにない尖り方をしている」と大刺さりし、大型契約を勝ち取ってしまったのである。
​一週間後。社内が歓喜に沸く中、給湯室で缶コーヒーを買おうとしていた高橋に、佐藤が呆れ顔で近づいてきた。
​「なあ高橋……コンペが通ったのは奇跡的だけどさ。お前『モンスター』の意味、本当に理解して使ってるか?」
「当たり前だろ。常識を破壊する天才、規格外の怪物だ」
「違うよ。ビジネスの現場で言われる『モンスター』ってのはな、身勝手な主張で周囲を振り回す『モンスター社員』、つまり単なる『激ヤバな厄介者』って意味だよ」
​高橋の手から、お釣りの百円玉がポロんと落ちて床を転がった。
​「……え?」
「村井さんが言ったのは『お前は扱いづらくて超迷惑な厄介者だ』っていう、悲鳴混じりの警告だよ」
​厄介者。
天才でも、破壊的なクリエイターでもなく、ただの「関わりたくない面倒な人」。
​高橋の頭の中で、ビル群をなぎ倒していたはずの巨大怪獣が、しゅん……と小さくなって消えていった。顔から火が出るほどの恥ずかしさと冷や汗が全身を駆け巡る。
​「……俺はここ一週間、ただの『迷惑な激ヤバ社員』として胸を張っていたのか……?」
「まあ、結果的にデカい案件獲ってきたから誰も責められないけどな」
​高橋が膝から崩れ落ちそうになったその時、給湯室のドアが勢いよく開いた。
村井リーダーが興奮した面持ちで飛び込んできた。
​「高橋くん! クライアントから連絡があったよ! 君のあの『暴走気味な勢い』が最高だったって! 扱いづらいと思っていたが……君は本当に、成果をかっさらう最高のモンスターだ!」
​高橋はゆっくりと立ち上がった。
足元のお釣りを拾い上げ、深く息を吸い込む。
厄介者だろうが、暴走だろうが、結果を出してねじ伏せればそれは「破壊的イノベーション」なのだ。
​「……村井さん」
​高橋の瞳に、再び獰猛で怪しい光が宿った。
​「自分はどこまでも、常識を食い散らかすモンスターとして暴れてみせます」
​佐藤は深く肩を落とし、冷ややかな視線を送った。
勘違いから覚醒した怪物は、もはや自らの暴走すらも「勝利の法則」に変えて突き進んでいた。

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