アマノ文筆クラブ 『丸刈りーだ』
「どう……した?」
仕事が忙しく、二ヶ月ぶりに会う彼女が目の前に現れた瞬間、俺は絶句した。
丸刈りだ。彼女の頭が丸刈りーだった。
黒髪ロングヘアだったのに。
そこが魅力のひとつだったのに。
「サッパリしたでしょ?いっぺんやってみたかったんだ」
……嘘だろ?
単なる興味でやるか、フツー。
「あの……何か職場でやらかした?失恋は……してないよな、俺がここにいるんだから」
「どっちもないよ。やってみたかっただけだってば」
えぇー、逆に清々しいけど、無謀すぎる。
とはいえ、似合ってないこともない……か?
なんだか、「エイリアン3」のシガニー・ウィーバーみたいな……これは褒め言葉になるだろうか。
世界的に認められた女優だが……。
されはさておき、これから二人でお台場デートのはずが、どこか少し、ウキウキした気分が削られたような、なんだかちょっと帰りたくなるような、複雑な気分。
「まずは……どこ行く?」
「んーとね、私、服買いたいな。付き合ってくれる?」
なんだか、シュールな光景だった。
白く清楚なワンピースが似合うような女性だったはずの彼女が、ガテン系、着る?って聞きたくなるほど、男勝りな雰囲気を醸し出している。
何故か分からないが、彼女が店員に相談しながら服を選ぶのを、俺はハラハラした気持ちで見つめていた。
「可愛い服が買えたよ。次はどこ行く?」
膨らんだ紙袋を抱きしめるように持って、笑顔で俺に寄り添ってくる。
なんだか、彼女が別人な気がしてドキドキする。
だって、見下ろした先に坊主頭があるんだよ。
これは……俺の彼女じゃない……なんて思いが消えてくれない。
昼食は、テラス席でピザ。
目の前の席で、丸刈り……もとい、マルガリータを美味しそうに食べる彼女が眩しい。
いや……頭がじゃなくて、笑顔が。
ツルツルなわけじゃないし。
でも、外は暑いと言ってタンクトップになった彼女は、さながらイガグリ頭の少年みたいだ。
美味しそうに食べてるとなおさら。
俺の……彼女だよな?
その疑念が、どうしても払拭できない。
「ねえ、ホントにただの興味なの?その頭」
「しつこいな……私にだっていろいろあるんだよ」
「分かってるよ。だからこそ話が聞きたいんだよ」
「……んーまあ、職場にね、敵を何人か作っちゃってね」
「敵?……そんで、どうしてその頭なの?」
「分かんないかな。女であることが、たまらなく嫌になる時があるってこと」
「その頭で……その敵に立ち向かうの?」
「そこまで勇敢じゃないよ。だけど、これが私の意思の表れなの」
詳しいことはよく分からないけど、彼女は本当にシガニー・ウィーバーになろうとしているようだ。
敵であるエイリアンを打ち倒して、またいつもの彼女に戻って欲しい。
二人で海辺を歩いた。
オレンジ色の夕焼けに照らされて、いつもと雰囲気の違う彼女が隣にいる。
思い返したら、今日は一日、ハラハラしたりドキドキしたりホレボレしたり、ウキウキは削られたけど楽しかったな。
君の心の内もちゃんと聞けたし。
お台場の海は人工的で、本当の海に比べたらスケールもちっちゃいし、開放感もない。
だけど、こんな時間に海辺を歩くと、今日という賑やかな一日とは対照的に、なんだかセンチメンタルな気分にしてくれる。
きっと、対岸に見える夜景や屋形船の灯り、それらを含めた都会的な風景がそうさせるのだろう。
「どう?今日は楽しかった?」
じっと、海の向こうのレインボーブリッジを見つめている彼女に問いかける。
「そりゃもちろん。あなたといて楽しくないわけがない」
「……ずいぶん無理してるね。」
「なんでそう思うの?……この頭?」
「いや、それにはもう慣れた。一日一緒に過ごせば分かるよ、作り笑顔かどうかぐらい」
「そうなんだ。さすが私の彼氏。でもね、ホントに今日は楽しかったの。この頭もね、凄く開放感あったし、悪くないかも」
「おいおい、勘弁してくれよ。ずっとそれでいくの?」
「……嫌?」
「んー、ウェディングドレスは……似合わないんじゃ……」
「なんだそれ。さりげなく二人の未来を語らないでよ。私のベストドレッサーぶりを知らないの?何だって似合っちゃうんだから」
「……その頭で?」
「頭、頭ってうるさいな。あなたも丸刈りにすれば何の違和感もないよ」
「……あるって」
ゆりかもめに乗って一緒に帰路を辿る。
駅のホームでも、たくさんの人が俺達を見ていた。
でも君はまるで意に介さず、今日買ったワンピースの可愛さを熱弁している。
結局、ワンピース買ったんだ……近く着るのかな。
俺は見られるのかな。
分からないけど、会えない間、彼女がエイリアンに立ち向かって、無事に地球に帰還することを祈る。
いつもの彼女に戻って、今日買ったワンピースを着た君に会えることを。
お別れの駅で、彼女が言った。
「今日は楽しかった。やっぱり、あなたと一緒にいると、嫌なこと忘れられるね。ホント、救われてるよ」
心から嬉しそうに、俺を見て微笑んだ。
それは、いつもの彼女だった。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
