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せりふ三題噺 『エビフライ食べながら三輪車の話したら、つららが刺さってきた』

深夜にさ、病院の廊下を歩いてたら、薄暗い廊下の向こうから三輪車が走ってくるわけよ。
誰も乗ってない黄色い三輪車。
でも、ペダルはキコキコ漕がれてる。
まっすぐこっちに向かってくるんだ。
よーく耳を澄ますと、どこからともなく、「お兄ちゃん……あそぼ」って子供の声が聞こえてくる。
そんで気付いたらさ、黄色かった三輪車が、まるで血のように真っ赤に染まってるんだよ。
どうこれ、シャレになんないだろ?

箸でつかんだエビフライの尻尾を俺に向けて、彼はさも楽しそうにこんな話をする。
楽しそうに話す内容とは思えないが、彼にとっては単なるネタエピソードなんだろう。

「……で、その三輪車はどうなったんだ?」
「どうなったって……まあ、途中で跡形もなく消えたって感じかな」
「消える三輪車ね……幽霊の姿が見えないのは分かるけど、物体が消えるのは怪談話として成立しないよね」
「えっ……ああ、まあ、そうだよね」
「あと、エビフライで人を指し示すのやめてくれる?なんだか不愉快だわ」
「ああ、ごめん……いやー美味いね、ここのエビフライ」
「……で?話があるって言ってたけど、何?まさか三輪車の話じゃないよね」
「う、うん。……なんか怒ってる?」
「そう見えるんならそうかもな」
「いやー態度がめっちゃ冷たいって。そんでもって、突き刺してくるような鋭さ。まるでつららみたいだよ」
「悪かったね。じゃあ言うけど、お前さ、退院する時は連絡くれって言わなかったっけ、俺。なんでいつのまにか退院してて、当たり前のようにエビフライ食ってんだよ。もう美味いもんしばらく食えないなって落ち込んでたのは何だったんだよ」
「……あーいや、だから、退院報告しようと思ってさ。今日会ってもらったわけだけど」
「もう三週間も経ってんじゃんよ。こっちだって心配してたんだぞ。なんで退院後すぐに連絡くれないんだよ」
「そっか……ごめん。お前も忙しいかなとか思ってさ。余計な気遣いだったな。でも、決して忘れてたわけじゃないんだよ」

彼は箸を置いて、傍らのリュックから一冊の単行本を取り出す。
見覚えのある表紙。

「はい、忘れ物。病室に置いてっただろ、お前のデビュー作だって言って。何も言わなかったから、プレゼントしてくれたのか単に忘れていったのか分かんなくてさ、でもすごく気になったから読ませてもらった。めっちゃ面白かったよ。まあ、ホラーに面白いってのが褒め言葉かどうか微妙だけど」
「もちろんプレゼントしたんだよ。読んで欲しくて」
「そっか、なら良かった。結構な長編だったし、退院後もリハビリが忙しくて、なかなか読む時間作れなくてさ。でも、読み終えて感想を伝えたかったから、こんなに時間が経っちゃった」
「……だけど、退院の連絡くらいは出来ただろ」
「だよな。……ほら、お前のデビュー作、すごい人気じゃん。本屋で平積みされてるの見たよ。作者の紹介もされてた。なんか……俺が入院してる間に、ずいぶん遠くに行っちゃったなって。俺も病院の怪談話で対抗しようかと思ったけど、足元にも及ばないね」
「三輪車?あれは無理があるだろ。……それで、忙しいと思って気を遣ってくれたのか?」
「気を遣ったというか、気後れしたというか。今やお前、時の人じゃん。この本読んで分かったよ。お前には才能がある。現場で落下事故起こして入院してる俺とは違うんだなって。なんてゆーか、人間のレベルっての?お前は人から称賛される存在なんだよ」
「あのさ……こんな小説ひとつで何言ってんだよ。そんなんが認められたって、こうやってお前にエビフライ奢ってやれるくらいだよ。それに、俺はただ書きたいから書いてるだけなんだ。称賛なんて、お前に褒められるだけで十分なんだよ」
「このエビフライ、奢ってくれるの?さすが売れっ子作家。次の作品にはさ、俺の三輪車の話、どっかで使ってくれよ。アイデア料はいらないからさ」
「使えるか!オチが弱すぎる。作家をなめんなよ。俺だって、ここまで来るのにどれだけ努力して……あー、もういいや、なんかお前のペースにやられた。それこそ、つららみたいに尖ってやろうと思ったけど、お前と話してたら、さ」
「なんだよ、それ。人をマヌケみたいに言いやがって。とにかくさ、この本は最高に面白かった。んで、次作を待ってるから。まあ、三輪車の話は入れなくてもいいよ」
「だから入れないって。……んじゃ、これが退院祝いだ。俺の第二作目。製本されたばっかで、まだ店頭にも置いてない。編集に頼んで送ってもらったんだ。お前に、一番最初に読んでもらいたくてさ」
「……なんで、俺に?」
「読んでみたら分かるけど、事故にあって入院してる男が主人公だから。そう、お前がモデルだよ。三輪車は出てこないけどな」
「えっ……合作?コラボ?」
「違うって。作家なめんな」

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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