アマノ文筆クラブ 『無茶ぶりはやめて』
深夜、ふと目を覚ますと、枕元に女性が立っていた。
白い服を着た、長い髪の女性。
僕を恨めしそうに見下ろしている。
目が合ったまま、30秒ほど。
「……で?この後どうするの?」
痺れを切らして僕が聞く。
「……この後?この後って?」
思いのほか甲高い声で女性が答える。
「いや、存在は認めたから、次の行動に出てくれないと。憑依するとか呪いの言葉を吐くとか、何かあるんじゃないの?」
「……えーと、憑依の仕方とか分からないし、別にあなたに恨みがあるわけじゃないから呪いの言葉なんて持ってないし……」
「じゃあなんで僕のところに出てきたの?」
「あの、私、このマンションの屋上から飛び降りたんです。もう5年前。それで、生前住んでたのがこの部屋で……」
「ああ、事故物件だってことは聞いた。おかげでかなり格安で借りられたよ、この部屋」
「そうなんですか。良かったですね。イイ部屋ですよね、ここ」
「うん、まあね。幽霊も一度見てみたいと思ってたし、ちょうど良かったんだ」
「幽霊が見たい……変わった方ですね」
「そんなことないだろ。最近はカメラ持って心霊スポットに行く人達がたくさんいるよ。そんなことよりさ、なんかもっとこう、幽霊らしい演出があった方がいいんじゃない?」
「幽霊らしい演出……たとえば?」
「たとえば……そうだな、テレビの中から四つん這いで現れるとか」
「それ、生前に見たことがあります。二番煎じですよね?」
「たとえばだよ、たとえば。じゃあさ、飛び降りた時の状況を再現して、窓の外に逆さまになって現れるとか」
「なんか……不謹慎じゃありません?もう、自殺のことは忘れたいんですよ」
「不謹慎って、自分でやっといて……まあいいや、それじゃ、こんなのどう?皆のスマホに一斉に君の顔が表示されてさ、何やっても消えないの。そのうちその顔に血が流れ出して、形が崩れ出して、呪いの言葉が表示される。『あなたを許さない』とかさ」
「無茶ぶりはやめてください。呪いの言葉なんて持ってないって言ってるでしょ」
「じゃあ、なんで現れたの?何か心残りがあるんじゃ……復讐とかじゃないの?」
「違います。だから言ったじゃないですか。生前この部屋に住んでたって。5年ぶりにこの部屋が見たくなって……ノスタルジックって言うんですか、こーゆーの」
「それだけ?僕の顔をずっと見下ろしてたのは?」
「ああ、ごめんなさい。今や事故物件のこの部屋に住んでるのはどんな人だろうと思って。やっぱり変わった方でした」
「失礼だろ、それは。まあ、あながち間違ってないか」
「幽霊が見たいって言ってましたよね。これから毎晩、いろんなあっちの世界の人連れてきますから、演出してあげてくださいよ。私と違って、喜んでくれる人がいるかも」
「無茶ぶりはやめて。毎晩枕元にいろんな人が立ってたら、寝られなくなる。それは、幽霊でも生きてても一緒だって。まあ、テレビから四つん這いよりはマシだけど……」
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
