風まかせ文芸部 『錯覚』
ほら、この道。
なんか歪んでないか?
いや、路面状況がどうとかじゃなくて、なんかグニャって……空間が歪んでるみたいな。
気のせいかな?
ここ、車で通るたびに、なんか引き込まれそうな気がしてさ。
え、どこへって……まあ、異次元かな。
目の錯覚じゃないか?
俺には、何の変哲もない道路に見えるけど。
最近、疲れてんじゃないの?
何かたまにおかしなこと言うもんな。
マクドナルドにチーズバーガーがない、とか、クジャクが空を飛んでいる、とか。
興奮して大騒ぎしてたろ。
当たり前のことなのに……すごく驚いてさ。
当たり前じゃないんだって。
マックはチーズバーガーありきだし、クジャクだって飛べないことはないけど、あんな風にスズメみたいに何羽も飛び交うなんておかしいって。
空が豪華すぎる。
きっとここはさ、俺の住む世界じゃないんだよ。
数日前に、この道を車で通った時にさ、あの歪みが気になって車を降りたんだ。
結局何なのか分からなかったけど、あの時からなんだよな、世界がおかしくなったのは。
いや、別におかしくないけど……じゃあさ、お前の言うその歪みんところに、歩いて行ってみれば?
車に乗ってたら起きないことが、もしかしたら起きるかも。
まあ、俺はあの道、何度も歩いて通ってるけどな。
ずっとクジャクは空を飛んでるよ。
鳥なんだから当たり前だろ。
マックのチーズバーガーだって、チーズレタスバーガーの間違いだろ?
それならずっとあるよ。
なんでレタスを抜くんだよ。
もういいよ。分かった。
行ってみる。
確かに、あの歪みは異次元への扉なのかもしれない。
もしかしたら、俺は向こう側から来たのかもしれない。
そうだとしたら、こっち側の俺は向こうにいるのかな。
お前が知ってる、こっちの世界の俺は。
考えてみたら、俺、お前のこと全然知らないんだよ。
向こう側の世界にはいなかった。
なんかやけに親しげに話しかけてくるから、友達なのかって錯覚しちゃったけど、
……マジか。かなりショック。
早いとこ、こっちの世界のお前を戻してくれよ。
俺達、親友なんだぜ。
突然おかしなこと言い出したお前をホントに心配してたけど、そういうことか。
お前は……俺の知ってるお前じゃないんだな。
別次元から来たってことか。
クジャクが空を飛ばない世界から。
うん。向こうの世界に戻ったら、なんとかこっちの世界の俺を探して入れ替わるよ。
……でも、お前ホントにイイ奴だよな。
俺のこと本気で心配してくれてさ。
あっちの世界にお前がいないことが……まあ、仕方ないか。
それじゃ、行ってみるわ。
お前も、元気でな。
俺のこと、知らないから戸惑ってたみたいだけど、お前はやっぱりお前で、何にも違いなんかなかったよ。
きっと向こうの世界にも俺はいるはずだから、探してやってくれ。
お前に会いたがってると思うんだ。
だって、俺の唯一無二の親友だから。
巡り会えさえすれば、必ずそうなれる。
見慣れた道路の上で、眩しい光が瞬いた。
次の瞬間、あいつの姿は消えていた。
……そっか、あっちの世界ではクジャクが飛んでないのか。
朝日を受けて飛ぶクジャクの群れ、めっちゃ綺麗なんだけどな。
あいつにも教えてあげれば良かったな。
向こうじゃ見られない光景なんだろうな。
……なんか、大事な親友を失ったような気分だ。
数日前に会ったばかりなのに。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
