青ブラ文学部 『黙っているのは嘘つきと同じよ』
とうとう妻がキレた。
休日の午後、部屋の掃除をする妻を尻目に、テレビの前でゴロゴロとゲーム三昧じゃ仕方ない。
「ナメてんのか、テメー」から始まった。
相当キレている。
「私はこの部屋のゴミを一掃しようとしてるわけ。あなたはそれを阻止しようとしてる。同じ家の住人なのに。これがどれだけ罪深いか分かる?」
……分からん。阻止しようとなんてしてない。
でもそんなこと言わない。言えない。
「だいたいさ、なんなの、そのゲーム。変なキャラ操作して変な世界うろつき回って。何が楽しいんだか分かんない」
クラッシュをバカにすんな。
プレイステーションの初代マスコットキャラクターだぞ。
どんだけ人気者だと思ってんだよ。
でもそんなこと言わない。言えない。
「あのね、私は、あなたの生活環境を整えるために結婚したわけじゃないの。あなたをゲーム王にするためでもない。ねえこの掃除機の使い方知ってる?使ったことある?」
あるって。君がいない時ちょこちょこ使ってるって。
だいたい、ゲーム王ってなんだよ。
そんなん目指してないって。
でも、言わない。言えない。
「さっきからさ、ずっと黙ってるけど、黙ってるのは嘘つきと同じよ。あなたは私に嘘ばっかりついてる」
嘘なんてまったくついてない。
ただ、妻の勢いが激しすぎて何も言えなくなっているだけだ。
それで嘘つき呼ばわりされるなんて、理不尽にもほどがある。
「あ、あのさ……」
思わず声が出る。
黙っていられなくなってしまった。
「なによ」
眼光鋭く、少しだけたじろぐが、言う。
「このゲームさ、実は君のために買ったんだよ。ほら、最近さ、暮らしに張り合いがないとか言ってたからさ、こんなアクションゲームはどうかなって」
もちろん、嘘八百だ。
でも、黙っていて嘘つき呼ばわりされるよりはマシだ。
「動物も飼いたいとか言ってたから、主役が動物のゲームにした。このクラッシュのモデルはね、オーストラリアに棲むバンディクーっていう、カンガルーを小さくしたような可愛い動物なんだよ。ゲームのグラフィックじゃあんまり表現できてないかもしんないけど」
もちろん嘘八千だ。
でも、これだけ喋ってるんだからお望み通りだろ?
黙っているのが嘘つきと同じなら、饒舌に喋ってたら嘘がホントになるんじゃないのかな。
「ま、まあ、あなたの思いやりは認めてあげるわ。……じゃあ、掃除が終わったらやり方を教えてよ。一緒にやりましょ」
……よっしゃ。こっちのゲームはクリアだ。
死にゲーかと思ったが、案外神ゲーだった。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
