3つのお題に空想のひらめきを
🍊第34回 3つのお題
🎈お題①:「名前を呼ぶと光る、古い街灯」
🐾お題②:「忘れ物を預かる小さな雲」
⏳お題③:「朝になると消えてしまうベンチ」
弟が死んだ。
長い闘病生活の末、家族に別れを告げた。
俺はなんだか実感が湧かないまま、夜の病院の屋上に忍び込んだ。
弟のいない世界に、街の夜景が広がっている。
すべてに意味がない、そんな風に感じてしまって、屋上の手すりを乗り越えた。
「弟さんが、本当に大切だったんですね」
気付けば、見知らぬ公園のベンチに座っていた。
隣に、紳士な風貌の老人が座っている。
「えっ、誰?」
「夜も更けてきました。街灯を灯しましょう。さあ、弟さんの名前を呼んであげてください」
「えっ?どーゆーこと?」
「この世界はね、弟さんの意識で作り上げられてるんですよ。だから、弟さんの名前が必要なんです。呼んでみてください」
「……タクト、灯りをつけてくれ」
公園の灯りが一斉に煌めいた。
古い街灯だが、心の憂いを吹き飛ばすほどの明るさを放つ。
「ほらね。どーです?あなたの弟さん、ここではこんなに輝いている。あなたのいる世界からは消えてしまいましたが、まだこうして息づいているんですよ。嬉しいことでしょ?」
「ここは…どこなんです?あなたは……誰?」
「ですから、ここは弟さんの意識で作られた世界です。具体的には、空を漂う天空の城ですね。ほら、見てください。たくさんの人達の意識がね、いくつも城になって空に浮いているでしょ」
「お城……ホントだ。それで、あなたは?」
「私は、この世界の案内人です。このたくさんの城を渡り歩いています」
「案内人、か……ところで、ここに弟はいるのか?」
「この世界そのものが弟さんの意識なんですよ。そういう意味ではここにいらっしゃいます。……あ、そーだ。弟さんからね、預かっているものがあるんです。あなたの、忘れものですね」
「俺の……忘れもの?」
「ほら、あそこに。見えますか?」
城と城の間の雲の狭間に、七色の虹がかかっていた。
まるで、この世界に渡された架け橋のように。
「どうして……夜なのに。なんで青空に虹が見えるんだ?」
「あの雲はね、我々の忘れものを預かって、時折こうして見せてくれます。……思い出せますか?」
「……ああ、思い出したよ。あの日、タクトと見た虹だよな。病室の窓から二人で見たんだ。あいつが、どうしても窓辺で見たいって言うから、俺が肩を貸してやって、二人で並んで遠い空にかかる虹を見た。あの日の虹だよな」
「そうです。弟さんはね、あの日の思い出を何よりも大切にしていました。兄貴の肩が頼もしくて、一緒に見た虹が色鮮やかで、絶対に忘れたくないって」
「虹なんて、いつだって……あいつは、いつかきっと外に出られるって信じてた。俺もいつか、あいつと空を飛んで海の向こうへ行こうって……」
「それなら、願いは叶ったじゃないですか。ここは空の上です。眼下には海が……この公園からは見えませんがね」
「あいつは、タクトは、喜んでくれてるのか?」
「それは、自分で聞いてみたらいい」
「……えっ?」
老人に言われるがままに目を閉じて耳を澄ますと、あいつの声が届いた。
泣き虫なあいつのままだった。
だけど、泣き笑いしながら俺にサヨナラを言った。
あいつらしく、強がってみせて。
そして最後に、ありがとう、と。
「この世界は、朝には消えて無くなります。この公園もベンチも。私は彼らと漂い続けます。またいつか、あなたに会える日が来るかもしれませんね」
老人はそう言って、軽く会釈をした。
そして次の瞬間には、宙空を落ちていく感覚。
浮遊感と、空気を切り加速する疾走感の後の、衝撃。
病院のベッドで目を覚ました。
タクトが入院していたのと同じ部屋。
……ああ、生きてた。
まだ、タクトにもあの老人にも会えないのか。
あの、美しい空や雲、そして虹を見ることも。
……いや、それはこの世界でも見ることは出来る。
俺はあいつの分も生きて、またいつか会える日に、こっちの世界の話をたくさんしてやらなきゃ。
あの公園の、あのベンチに座って、あいつの灯した街灯の下で、雲が映し出す思い出達を眺めながら。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
