3つのお題に空想のひらめきを
🎈お題①:「風船を配る巨人」
その王国は、悪政のもとにあった。
国王たる男が目論む恐怖政治は、次第に国民の生活を蝕んでゆく。
そんな中で、唯一と言っていいほどの癒しの輝きは、国の北に住む巨人の存在。
優しい心を持ったその巨人は、一族に伝わる色鮮やかな風船の作り方を心得ており、それをいくつも作っては青い空に浮かべ、町の子供達にも配って歩いた。
それは、貧しさの中で日々を生きる子供達の、かけがえのない希望の礎となっていた。
ある日、町の大人達が、巨人の住む家を訪ねる。
「あんたのその巨体を見込んで、頼みがある」
大人達が言う。
「我々の町は、風前の灯だ。すべてを搾り取られ、明日を生きる糧すらもない」
「私に……どうしろと?」
巨人は眉根を寄せて聞く。
「あんたの怪力で、国王をこの町から放り出してくれないか?もう、戻ってこれないような遠くの場所へ」
「そんなことしたら、国王が死んでしまう。私にそんなことは出来ないよ」
巨人は、困惑した面持ちで訴えるが、
「あんたも、町の子供達は好きだろう。その子供達が、国王のせいでまともにご飯も食べられないんだ。分かるか?このままでは、飢え死にしてしまう子供だっているだろう」
「なんだって?そんなにひどいのか?国王の政治は」
「ひどいなんてもんじゃない。我々を家畜のように扱ってるんだよ」
巨人は心を決めた。
この国から、国王を追い出そう。
だが、心優しい巨人には、町の大人達が言うように、国王を放り投げるような真似は出来なかった。
確かに、私の力をもってすれば、隣の、そのまた隣の国まで投げ飛ばすことも可能だが……。
そこで思いついた。
今まで以上に巨大な風船を作ろう。
それを、国王の城に結びつける。
そうすれば、国王は城もろとも飛んでゆくだろう。
城の中にいれば安全だし、風船の中のガスが抜ければ、ゆっくりとどこかの地上に着地するはずだ。
国王不在のこの国の行く末は分からないが、悪政を繰り広げる国王がいなくなれば、きっと子供達のお腹も満たされるだろう。
夜のうちに巨人は城に近付き、目を見張るほどの巨大な風船を城に結び付けた。
これで城が浮かび上がるはず、と思った矢先、城外から打ち上げられた大砲が、つんざく音を立てて風船を割る。
そして、巨人に対しても攻撃をしかけてきた。
数発の大砲が巨人の胸に撃ち込まれ、巨人はそのまま谷底へと倒れ込む。
彼の胸に赤い染みが広がってゆく。
それでも彼は、最後の気力を振り絞って立ち上がり、渾身の力を込めて大砲を潰してゆく。
その手が血に染まる。
「こんなものがあるから、この国は……」
巨人は、今までに見せたことのないような、憎悪に満ちた表情でつぶやいた。
「子供達に、こんなものを見せてはいけない」
両手で城を抱え込む。
塔の先端が、巨人の体に突き刺さる。
それでも巨人は倒れずに、城ごと地上から引き剥がした。
その光景を、城下町の大人達が見上げている。
すべての者が、両手を合わせ、祈るような姿勢で。
子供達は皆、幸せな眠りの中にいた。
次の日の朝、子供達は目覚め、青空に色とりどりの風船が浮かんでいるのを見た。
「巨人さんが来たんだね。会いたかったな」
口々にそう言っている。
だが、彼らはもう、あの巨人の笑顔を見ることはない。
そして、空腹に苦しむことも。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
