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3つのお題に空想のひらめきを

🐾お題②:「月の階段が消える時」

「帰らないの?」
彼女の背中に問いかける。
玄関の手前で立ち止まったまま、何も答えずドアを開けようともしない。
「タイムリミットがあるんだろ?」
僕に背中を向けたまま、俯いていた顔を上げる。
「帰って欲しいの?」
冷たさを含んだ声。いつもの柔らかさが微塵もない。
「違うよ。君の事情を懸念してるんだよ。両親が心配してるんじゃないかって」
彼女はゆっくりと振り返る。
泣き腫らした目をしていた。

「卑怯だよね。私の両親のことなんか、今まで一度も話したことないのに」
「それは、話す必要がなかったからだろ。別に避けてたわけじゃない」
「結局さ、私とあなたは住む世界が違うんだよね。それを理由に、私と一緒にいることに不安を感じたんでしょ」
「だって、家に帰るって言い出したのは君の方じゃないか。ずっと一緒にいられるはずだったのに」
「私にだって家もあれば、親だっているんだよ。帰ろうと思っちゃいけないの?」
「だから、帰らないのか?って聞いたんじゃん。君が帰るのを止めようとなんてしてない。たださ……」
「ただ……何?」

「君が月に帰ったら、もう会える気がしないんだよ。人類が月に行ったのなんて、たったの6回だよ。しかも、選ばれた宇宙飛行士だけ。僕が君に会いたいと思っても、電車に乗って会いに行くことも出来ないんだ。どうしたらいい?こんなに好きなのに、会いにも行けないなんて」

一気にまくし立てて、君の困ったような顔を見て口をつぐんだ。
君のタイムリミットが近付いてくる。
もうすぐ、君が月へ帰るための階段が消えてしまうのだ。
いったい誰の気まぐれか、今この時だけ繋がった、君の故郷へのルート。
月へと続く、白い階段。
たぶんそれは、君の両親が、娘に会いたいが故にこの星と月を結んだ、親子の絆に他ならない。

「行きなよ。僕はあの階段を登ることは出来ない。両親のもとへ帰る君を止めることも出来ないよ。これは、最初から分かっていたことなんだ。どれだけ幸せな時を過ごしても、いつか終わりが来るって」
「最初から……出会わなければ良かったって思う?お互い知らないままでいたかったって」
「そうだね。そしたら、こんなに悲しむこともなかった。君を泣かせることもなかったからね」
「私のことはいいよ。あなたの気持ちだけ聞かせて」

竹取物語よろしく、嵐山の竹林の小径で出会った彼女。
自分の居場所が分からないほど道に迷っていた君と、成り行きのまま京都を散策した。
そして恋に落ちて、一緒に暮らし始めて、君の素性を伝えられて、そんな君を受け入れて、だけど些細なことで喧嘩するようになって、今、月へと続く階段の存在を知って。
終わりがすぐそこに、近付いてきていた。

「じゃあ、行くね。もうすぐ、階段が消えちゃうから」
「分かるんだ。……あとどれくらい?」
「そこまでは……でも、あんまり時間はないと思う」
「……分かった。じゃあ、さよなら。」
「うん。さよなら」

その時、彼女の背後の玄関のインターホンが鳴った。
彼女が驚いて玄関から離れ、僕の隣にやって来る。
「……誰?」
「……さあ?」
僕は静かに玄関のドアに近付き、ドアスコープを覗く。
そこには、見知らぬ男女が立っていた。
……いや、見覚えがあるような気がしなくもない。
「……あ!」
「どうしたの?」
僕はそっとドアを開けた。
そこには、やはり見知らぬ男女……だが、
「お父さん!お母さん!」
「おー、かぐや、元気でやってたか?」
……やっぱり。なんだか初対面な気がしなかった。

「いやー、こいつの支度が遅くてさ、月から伸びた階段が、消えるギリギリんところで降りてきたんだよ。いやー、間に合って良かった」
「あなたが最後の最後でトイレに行ってたからですよ、ギリギリになったのは。ところでかぐやちゃん、彼氏を紹介してくださいな。楽しみにしてたんだから」

月へと続く、白い階段は消えていった。
もう、かぐやも両親も月へは帰れない。
だが、この二人は月の住環境の厳しさに辟易して、この地球への移住を決意してきたらしい。
もちろん、娘に会えることも楽しみにして。

後日、両親はこのマンションのひとつ上の階に部屋を借りて、当たり前のように地球での生活を始めた。
僕達はといえば、相変わらず些細なことで喧嘩をしながらも、両親公認のもとで付き合いを続けている。
もう、かぐやが僕からの求婚を断って、月へと帰ってしまう心配もなさそうだ。
そろそろ……どうかな?

物語は書き換えられた。
さあ、新しい物語を紡いでいこう。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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