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せりふ三題噺 『新幹線に乗って、花びら舞い散るレモンスカッシュの都へ』

新幹線の車窓から富士山が見えた。
もうそれだけで、旅行をしてる気分になれた。
いや、仕事で出張なのだが。
駅弁買った時点で旅行気分なのだが。
まあ、富士山はやっぱり日本一の山だ。

名古屋駅に到着して、約束の時間にはまだ余裕があったので、駅前のロータリーを歩いて、時間潰しの喫茶店を探す。
店構えがどう見ても昭和な店を発見し、入ってみる。
ドアベルがカランコロンと鳴り、カウンターの奥にいたマスターらしき老人が、こちらを見て軽く会釈する。
「お好きな席へどうぞ」
一番奥の窓際の席。落ち着けそうだ。
水とおしぼりが運ばれ、注文を聞かれる。
「アイスコーヒーを……あ、待って、レスカがあるんだ。これにします」
久しく飲んでいなかったレモンスカッシュ。
若い頃はやたらと飲んでたのに。
レモンの酸味。炭酸の刺激。
それよりも、ブラックコーヒーの苦味を好むようになったのはいつからだろう。
大人になろうとイキがっていた頃……だったりするのかな。
今では当たり前の日常が、憧れの対象だったあの頃。

レモンスカッシュが運ばれてきて、ストローから一口飲んだ。
「すっぱっ!」
言うだろうと思ってたことを言ってみた。
きっとあの頃も言ってたよな。
これがレスカの醍醐味だし。
窓の外では、桜の花びらが舞っている。
この桜吹雪とともに富士山が見たかったな。
それが日本の醍醐味だし。
そして、名古屋といえば、ひつまぶし。
今日の夕飯は決まり。

「お仕事ですか?」
マスターが話しかけてきた。
客は私一人で、暇な時間帯らしい。
「ええ、出張で、つい先ほど名古屋駅に」
「東京から?」
「そうです、東京から。マスターも、東京に来られることはありますか?」
「いや、もう何十年も行ってませんね。若い頃には何度か。あの頃は楽しかったけど、この歳になるとね、自分の町がやっぱり一番落ち着きますよ」
「名古屋はイイとこですもんね。……って、私、初めてですけど」
「そうなんですか。でもホント、名古屋はイイとこですよ。楽しんでいってください」

店を出て、桜の花びらが舞い散る通りを歩いた。
考えてみれば、桜の美しさはどこに行っても変わらない。
レモンスカッシュだって、あの頃好きだった味をこの街で味わうことが出来た。
富士山はいつだって日本の真ん中に鎮座していて、新幹線の車窓からでも、その勇姿を拝ませてくれる。
惜しみなく、限りなく、曇りなく。
この町に、この国に、この世界に、この星に、自分が生きていることの奇跡を思った。
今夜はひつまぶしが食える。
これも愛すべき奇跡。

今回の仕事はうまくいくぞ。
根拠もなくそんな風に思った。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。


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