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風まかせ文芸部 『白紙』

静かな夢を見た。
真っ白な部屋。窓もない。
部屋の真ん中に置かれたベッドに横たわり、天井の蛍光灯を見つめている。
いつからこうしているんだろう。
ここへ来るまでの過程が記憶から失われている。

ふと、右手に何かを握っていることに気付いた。
横になったまま右手を上げて目の前に持ってくると、それは小さなノートだった。
ベージをめくってみたが、白紙。
何も書かれていない。
筆記用具は見当たらない。

体を起こしてみる。
誰もいない。目の前の壁に、ドアがひとつ。
ふとノートを見ると、白紙だったページに、いつのまにか「起きる」と書かれている。
両足をベッドから降ろし、床に立ってみる。
ノートには、「立つ」という文字が現れた。
ドアに向かって歩き出す。
きっとノートには、「歩く」と書き込まれているのだろう。

ドアを開けると同時に、目が覚めた。
ドアの向こうには、見覚えのある景色が広がっていたような気がするが、覚えてはいない。
目を覚ましたそこは、見慣れた自分の部屋。
昨夜飲んだビールの空き缶がテーブルの上で転がっている。
夢の中の真っ白な部屋とはまるで違う。

あのノートが私の人生に存在するのならば、どれだけのページを埋め尽くしているのだろうか。
そんなことを考えた。
私が生きる上で行ってきた様々が、すべてあそこに記録されてきたのだとしたら。
あの真っ白な部屋が、この乱雑な場所へと変化する過程。
それは、人としての成長であり、腐敗でもある。

思い出した。
ドアの向こうには、真っ暗な宇宙が広がっていた。
果てしない宇宙。 
そこは、生命の源。
そして、人生の帰結点。
無より生まれ、いくつもの記録と記憶を残し、暗闇に還ってゆく。
その後、あのノートは誰のもとへゆくのだろう。
最後のページに、「逝く」と書かれたあのノートは。

時計の針は、すでに仕事に間に合わない時間を示している。
私は一旦頭の中を白紙に戻して、洗面所で顔を洗った。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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