シロクマ文芸部 『眠れない』
眠れない。眠りたいのに眠れない。
不安が押し寄せる。
この不安を忘れるために眠りたいのに、この不安のせいで心が乱されて、眠れない。
そしてその不安は、言語化できないほど曖昧模糊としていて、不安があるという思いに不安になっている始末。
抜け出せる答えが見つかるはずもなく、ただただ夜の深みに沈んでゆく。
そして、眠れない。
ここが夜の底辺か、というところまで落ちたら、ゆっくりと浮上を試みる。
今日あった出来事を思い出して。
楽しいことや嬉しいことだってあった。
そんなことばかりじゃなかったけど、笑顔で仲間や家族と話した。
明日も同じような一日を過ごせるだろうか。
根拠のない自信を持ってしまえば、水面近くまでは浮かび上がれそうだが、完全に覚醒するわけにはいかない。
明日のことは分からないままの部分を残して、それでも何となくうまくいく未来を思い描く。
うまくいく根拠なんてないが、うまくいかない理由だってない。
それなら、今夜を穏やかな眠りへと誘うために、頭の中を「まあいっか。何とかなるさ」で満たそう。
今までも何とかなってきたから、自分はここにいる。
あながち嘘でもない。
それでもまだ眠れずに、暗闇の音を聞いている。
家族の寝息。通りをゆく車のエンジン音。犬の鳴き声。
突然、我が家の猫が走り出す。
じゃれ合いでも始めたか。
こんな時間に勘弁してくれ。
意識が少し覚醒する。
何かが床に落ちる音。
なかなかの重さを感じさせる音。
意識が完全に覚醒する。
明かりをつけてキッチンの床を見ると、電気ポットが床で横倒しになっていた。
猫はいいなあ。
時間なんか気にしない。
明日のことも気にしない。
誰かの迷惑なんて蚊帳の外。
だから遊び終わったら、いつだってぐっすり眠れる。
私は電気ポットを戻し、床にこぼれたお湯を拭き取って、ベッドに戻った。
そしたら、私の布団の上で丸くなる猫達。
この、自由奔放さ。身勝手さ。面の皮の厚さ。
……見習おう。明日のために。
今日も楽しかった。あとは寝るだけ。
猫達の思いが伝播したのか、その後はまもなく眠りに落ちた。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
