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アマノ文筆クラブ 『ショートどうだ!?』

「撮影、間に合うんすか?」
助監督兼音声の林田が聞いてくる。
「あと数カット撮れば終わりなんだ。今日で何とかクランクアップするよ」
監督である僕は、少し自信無さげに答える。

高校生の自主制作映画。
撮ろうと言い出したのは僕だ。
もともとの映画好きが高じて、廃部寸前の映画同好会を復活させた。
そして、スタッフからキャストまで、僕が一人でかき集めた。

ストーリーは陳腐な青春モノだ。
僕がシナリオを書いた。
主演のヒロインは、僕と今絶賛交際中の遥香にお願いした。
意外にも、乗り気で承諾してくれた。
だが、撮影最終日予定の今日、遥香が現場にやって来ない。
ちなみに、今日の現場は地元を流れる河原の土手。
ここで、主人公の女の子が手を振って去ってゆくシーンを撮る予定だった。

「来ませんねえ、遥香ちゃん。監督、喧嘩なんかしてませんよね?」
「してないよ。撮影が忙しくて、しばらく二人で会ってもいなかったし」
「あらら、それが原因なんじゃないんすか?」
「ん?どーゆーこと?」

「お待たせ」
背後から遥香の声がして、一同安堵のため息をもらす。
「遅かったじゃん。何やって……」
と言いながら振り返った僕の目に、見慣れていたのとは違う姿の遥香が飛び込んでくる。 
え……なんで?
彼女のトレードマークでもあったさらさらロングヘアがバッサリと切られ、肩上のショートカットへと変貌している。
「遥香……お前」
「ショートどうだ!?」
「えっ?」
何故か仁王立ちの笑顔で、そう言い放つ。
「いや、どうもこうも、なんで今日、髪型変えんの?撮影最終日だよ?」
「別にいいじゃん。可愛いだろ?」
「いや、そーゆー問題じゃなくて……」

もともと、男勝りでサバサバ系の遥香だったが、そこに磨きをかける感じでボーイッシュになった。
もちろん、映画のヒロインとしては、女の子らしい演技をお願いしていたが、この髪型に突然変わってしまったら、話もつながらないしキャラも変わってしまう。
「どーします、監督。撮影始めますか?」
林田に聞かれ、
「もう、やるしかないだろ。あと数カットなんだ」
半ばヤケクソで答えた。

夕暮れの河原で、自転車を押しながら下校するヒロイン。
彼女を追って、親友の美咲が追いかけてくる。
「ねえ待って!転校するってどういうこと?何も聞いてないよ、私」
「親が勝手に決めちゃったんだからしょーがないよ。家の事情が急転直下でさ。突然のお引っ越し。ホント、子供の都合なんかお構いなしだよね」
ん……?セリフが違くないか?
「一緒に卒業して旅行しようって言ったじゃん。そのためにバイトしてお金貯めてるんでしょ」
「海外だからさ。会いに行くだけで旅行になっちゃうし、そう簡単に会えないよね。もう、私達これで終わりかも」
いやいやいや、ここは、必ずまた会おうねで微笑むんじゃなかったか?
しかも、海外って何?隣町に転校するだけのはずだろ?
「私達の友情は……続くよね?」
「だから、もう終わりなんだってば。ごめんなさいの気持ちで、頭も丸めました。この程度だけど。これで惚れ直されても困るんだよね。もう遠くなるだけだから」

「監督、これ……」
林田が寄ってくる。
「いや、ごめん。僕も何が何だか……」
「違うって。これ、お前へのメッセージだろ」
「えっ?」

「会ってちゃんと事情を説明したかったんだけど、この映画の撮影で忙しくてなかなか二人で会えなかったしさ。この映画だけは完成させたかったけど、最後まで他人みたいな顔で演技なんかしたくなかった。髪切ったら、少しは生まれ変わった気持ちで挑めるかとも思ったんだけど、やっぱり私は私だからさ。こんなに自分の気持ちが暴れまくってる時に、誰かの用意したセリフなんか言えないんだよね」

「ちょ、ちょっと、カット!」
僕は慌ててメガホンを振り、撮影を止める。
横で林田が、「皆、ちょっと休憩!」と声を上げる。

それから、河原の土手の途中で、遥香と二人腰を下ろした。
「海外って……遠いの?」
「まあ、往復の飛行機代で私の二年分のお小遣いが飛ぶね」
「お前の小遣い額知らないけど……遠いんだね」
「だからさ、ゴメンだけどこの作品、無かったことにしてくんないかな。イイ感じで出来上がっちゃって、観るたびに切なくなるようなもの、残したくないの」
「そんな……」
「あなたの才能は信じてるから。きっとイイもの作っちゃうでしょ。私、そこに憧れてたりもしたからさ、それをまざまざと見せつけられるの、ツライんだよね。もう会えないのに」
「会えなくたって、LINE とかさ、どこにいたって繋がれるじゃん」
「友達だったらね、それで続くかもしれないけど、帰ってくるかどうかも分からないんだよ。ホントに続けられると思う?私達、高校生だよ?」

撮影は、そこで終わりにした。
気持ちが沈んで何にも出来ない僕の代わりに、林田が四方八方に手を尽くしてくれた。
要は、撮影続行不可に対する平謝りだ。
「悪かったな。いろいろやらせちゃって」
そう言う僕に、
「俺は音声兼助監督だからな。その名の通り、監督を助けないと」
そう言って苦笑いしていた。

一週間後、遥香が空へ飛び立った。
空港で会った遥香は、当然ながら未だに見慣れることが出来ないショートカットで、どこか別人のような雰囲気を醸し出していて、それがほんの少しだけ、お別れの寂しさを癒してくれているような気がした。

空港のロビーで飛び立った飛行機を見つめながら、隣に立った林田が言う。
「遥香ちゃん、お前にサヨナラって言わなかったな。てことはさ、これからも、お前達の物語は………」
「もういいって。作品はクランクアップだよ。あとは僕が何とか編集する。遥香はああ言ってたけど、この作品は完成させたいんだ。そこで一旦終わらせて、ひとつの区切りをつけるよ。あいつにも送りつけてやる。たとえ迷惑がられても」
「そりゃ、ひでえ監督だな。……まあ、俺も完成版観たいしな。是非頑張ってくれ」

突然のショートカットは、心機一転、新しい生活への思いの表れとした。
セリフもまあ、引っ越し先の設定を隣町から海外に変えて、あとは切り貼りして編集。
何とか流れ的に繋げることが出来て、その上、遥香の迫真の演技で、ラストシーンは個人的に満足のいくものになった。

きっと、あいつも気に入ってくれると思うんだよな。
遠い空の向こうで、あの日より少し髪の伸びた遥香が、少し呆れながらこの作品を観てくれている姿を想像して、何だか嬉しくなった。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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