アマノ文筆クラブ 『携帯電話を川に落としたよ』
やっちまったよ。スマホを出勤途中の川に落とした。
ちょうど橋を渡ってる時に友達から電話がかかってきて、立ち止まって橋の欄干に寄りかかって話してたら手が滑って……。
見下ろすと、川の水は深く底が見えない。
スマホの姿もまるで見えなかった。
諦めて職場へ向かう。
友達との電話も途中だったが、状況を伝える術もなく、まあ、のっぴきならない事情があったと思ってくれるだろう。
なんせ、会話が途中で途切れて、あとは水の中、だ。
川に落ちた後のスマホからは、いったいどんな音が届いていたのだろうか。
その夜、自宅の固定電話に友達から電話があった。
今朝は悪かったな。電話の途中でさ、という俺を遮って、
「で、何なんだよ。キュウリがどうしたっていうんだ?あれじゃよく分かんないよ」
「……キュウリ?」
「言ってたろ。キュウリ好きか?キュウリ持ってこいって。何聞いてもそればっかで……」
「えーと、それは……」
「あれか?地元の遠野市ギャグってやつか?笑えないよ、あれじゃ」
「違うんだって。スマホは川に落としたんだ。それは俺じゃないよ」
「……えっ?どーゆーこと?」
「だからそれは……河童、か?他には何か言ってなかったか?」
「キュウリくれたら、これを返すって」
「……マジ?」
次の日、当然俺はキュウリを用意して、河原へ。
草が生い茂る一角に、俺のスマホが置かれているのを見つけた。
橋を見上げたが、俺が落とした位置とはだいぶ離れている。
しかも、スマホは濡れていて、所々に泥がついている状態。
だが、防水性能の良さのおかげか、起動して問題なく動いてくれた。
俺は、スマホと引き換えに、途中の八百屋で買ったキュウリを一束そっと置いた。
その時、どこからともなく、「毎度あり!」という声が聞こえたような……気がした。
……いつもやってんのか。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
