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シロクマ文芸部 『風が吹く』

風が吹く野原に、大の字に寝転がって空を見上げる。
自分一人。
他には誰もいない。
風の音だけがそよぎ、緑の大地を駆け抜けてゆく。
「この世界のイイところってさ、たとえ観客が一人でも、この素晴らしい景色を惜しみもなく見せてくれるところだよな」
独り言。
誰にも届くことのない独り言。
「それに皆は気付いてたのかな。中には、そんな景色を黒く塗りつぶすことに必死になってた奴らもいたけど、あいつらはどうなったろう。今もどこかで鳴りを潜めてるのかな」
白い雲がゆっくりと流れてゆく。
爆撃された小学校の校舎が、白い煙を上げて崩れてゆく、あの光景を思い出す。
あの校舎の中には、12歳になる私の息子がいた。
あの日から永遠に会えなくなった、私の息子が。

「自分の子供や家族を守るために戦うんだろ。そのために、誰かの子供や家族を殺すんだろ。それは正しいのか?人間は、正しい道を選んだのか?その結果が……これだ」
野原の向こう、遠く霞む街には、炎と煙が立ち込める。
どこかでトンビが鳴いている。
夢の中にいるようでいて、微かに届く焼け焦げたような匂いは本物だった。
ゆっくりと身を起こし、数ヶ月前まで家族と暮らしていた街を眺める。
我が家があり、子供達の学校があり、私の職場があり、街の皆の病院やデパートや公園があった。
そのすべてを打ち壊す権利など、いったい誰が持っていたのか。
それどころか、それらを利用する人々の命まで。

戦争という悪魔が生み出されるのは、いつだって人の心の中だ。
ならば、この世界から人が死に絶えれば、悪魔の存在は消え去るのだろうか。
違う。
そもそも悪魔など存在しないのに、まるで悪魔を滅ぼすかのように争いを正当化する、権力を身に付けた者達のイデオロギーの産物だ。
消え去る以前に存在すらしていない。

「明後日は俺の誕生日だったな」
野原の真ん中で、誰にも聞かれない告白をする。
「俺、新しいスマホが欲しかったな」
もはや、連絡を取れる者など誰一人としていないが。
「それでもさ、希望の持てるガジェットだろ、あれ」
希望なんてものが、果たして残されているのだろうか。
だが、風が吹くこの野原には、希望が満ちあふれているような錯覚すら起こさせる。
どれだけの兵器を使っても、この青空を黒く塗り替えることは出来なかった。
ならば自分も、失った家族と右腕の痛みを背負って、もう一度立ち上がってみようか。

きっと世界は素晴らしい景色を見せてくれる。
たとえ観客が一人でも。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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