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せりふ三題噺 『アップグレードしたら名札が変わってて、夜桜に酔いしれる』

「ねえ、見て見て」
携帯ショップで働く彼女が、手のひらに乗せた名札を見せてくる。
そこには、見慣れた僕の名字が書かれてあった。
「籍入れたからね。もう私もこの名前。わざわざ新しい名札を作ってくれたの」
「へぇー、きっちりしてるんだな。名札なんてそのままのところも多いと思うけど」
「そうだよねー、今日は常連のお客さんがさ、スマホOSのアップグレードして欲しいって持ってきて、私の名札見て凄い複雑な顔してんの。ちゃんとその後、説明したけど、なんだか笑っちゃった。おめでとうって言われたよ」
「まあ確かに、そのお客さんにしてみたら、君と名札の名前はリンクしてたはずなのに、それを急に外されたら驚くよな」
「でもさ、ちょうどこの季節は新人さんも何人か配属されてね、その人達にとっては私は最初からこの名前だからね。戸惑うこともなさそう」
「そっか。そーゆー季節か。そーいえば今年はまだ、桜をちゃんと見てなかったな。今夜、夜桜見に行く?」
「夜桜かぁ。なんか大人な感じだねぇ。私達も夫婦だしねぇ」
「それは関係ないけど。まあ、賑やかじゃない花見も悪くないと思うよ」
「そうだね。じゃあ、ちょっと待っててね。大人っぽくて夫婦っぽい服に着替えてくるね」
「どんなんだよ、それ」

二人歩く夜の道。
今までにも何度も歩いた道だけど、なんか今夜は違う。
名字を同じにして、一人力が二人力にアップグレードした気分だ。
バラバラに生きていた今までとは違う。

夜桜が見えてきた。
確かに大人びた景色かもな。
昼に見る桜とはまた違って、なんだか艶めかしい。
隣を見たら、なんだかいつもより艶めかしい「妻」がいたりして、なんだか胸熱な夜になりそうだ。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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