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光と影の狭間


第七章

初冬の便り


美和は、ユズに高等学校卒業程度認定試験の受験を勧めた。
「そんな物どうするの?」
「もっと上の学校で勉強する為に必要なのよ」
「上って……勉強のための試験?」
「ユズ、あなたの人生は今から始まるのよ。色んな人と話す事が増えると思うわ」


「扉の外には様々な人がいて、お互いの意思を伝える事が必要な時もあるわ」
「それに働く時もね」
「……働く」
「ママもお仕事してるよね」
「うん」
「人はね、自分で生活を支えるために働くの。」
「私は働く為に生まれてきたの?」
「そうでは無いけど……生まれたら生きなくてはいけないの」
……
「難しい事は今すぐ分からなくて良いわ。少しずつママと一緒に手探りしていきましょうね」

……

「不安なら、オンラインで学ぶとかキャンパスに通う事もできるわ。でもいきなりは無理だと思うから」
「それに、ママもユズと一緒にもう一度お勉強してみるわ」

……

新たな不安が胸に溜まっていった。
高等学校卒業程度認定試験のことでは無い。
それ以前の話だ。ママや恵おばさん以外の人と言葉を交わす事は恐怖以外の何ものでも無かった。

手続きも、受験もきっと誰かとの会話や外出が必要だと思った。
それに、本当にそんな事をする必要が有るのかどうかも疑わしかった。

「恵おばさんに、聞いてみても良い?」
「そうね。急がなくて良いから恵に聞いたり、本やインターネットで調べるのもありかもね。でも、ネットには嘘や騙しもあるから鵜呑みにしちゃダメよ」

暫く経ったある日の午後。

「おめでとう! ユズちゃん戸籍出来たって聞いたわ」
恵おばさんが大きな花束を抱えて入ってきた。
「ありがとうございます……恵おばさん」
「何だか浮かない顔ね?」
「本当に喜ぶべきなのか、分からなくて」
「そりゃあそうよね。突然だもの」
「でもね、晴れてユズちゃんの未来を、自分の手で決められるお守りなのよ」

「そのためだけに、また勉強するの?」
「ああ、ママに何か言われたのね」
おばさんは優しく微笑んだ。「そうね。ユズちゃんはこれまでも、沢山一人で勉強してきたものね」
「ん……」
恵おばさんに縋って子どものように噦上げた。

私が落ち着くとおばさんは、平らな包みを私の手に置いた。
「大丈夫。ユズちゃんなら」

中身は、初めて見るノートパソコンだった。

「恵おばさんは、ママの友達だから、ユズに優しくしてくれるの?」
おばさんは目尻を下げて私の背中を撫でた。
「ユズちゃんが可愛いから」

十八歳の誕生祝いは断った。
降り頻る雨の音を聞きながら、ひたすらパソコンと教材を睨んで過ごした。

「ハナ、この質問分かりにくい。やる気無くなるわあ」
応える筈の無いハナの形の雲が空に浮かんでいた。
「分かったよ。頑張るから」
観たいテレビも雑誌も我慢して向き合った。

晩秋の風が頬を撫でる中、試験会場を後にした。

初冬の味覚が店先に並ぶ頃、合格通知が届いた。
十二月十三日だった。

「おめでとうユズ」
「ありがとう」
素直に喜べた。

暫くは余韻に浸った。

「ねえ、この服可愛いでしょ」
「本当だ、似合うね。ちょっと待ってて」
「ううん、見るだけでいいの」
母との買い物は心が弾んだ。

絵画展の入り口でパンフレットを受け取った。
「有難うございます」
「あら、ユズ偉いわ」
自分でも驚いた。

帰りは電車だった。
服の擦れる音。
人いきれ。
気が遠くなりそうだった。
「大丈夫?」
駅舎を出て咽せる私の背中を、母が摩る。
「有難うママ。……慣れなくちゃね」
「無理しなくていいわ」

その頃から私は『もっと上の学校』を意識し始めた。

これまで映像や活字の世界だった大学。
今、自分にとって現実的な選択肢として目の前に現れた。


















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