妖怪語り処「豆腐小僧」~屋敷杉~
「妖怪の店、豆腐小僧」を営んでいた時に聞いた話だ。 あの頃は、「妖怪の店をやっています」と言っただけで、「こんな体験がある」と色々聞かせてもらった。 やっぱり、みんな不思議話が大好きなんだろうなと思う。
岩手県は、平地の多い内陸部と、リアス式海岸に代表される崖だらけの沿岸部に分けられる。 わたしは山間部ではあるが、沿岸地域に住んでいた。 空を見上げても、必ず山の稜線が見える。 平地はほとんどない。 内陸部の土地の広さと、山の遠さにしばらく慣れなかった。
内陸に住む人から聞いた話である。 その方が小学生の頃だと言うから、今からだと40年ほど前のことなんだろうか。 内陸部の奥まったところ、山に近い所に家があったという。
妹と一緒に庭で遊んでいたそうだ。 お父さんは、庭仕事をしていた。 大きくなり過ぎた屋敷杉を幾つか切り倒す事にしたのだった。
屋敷杉は、家の西側に何本か植えられているものだった。 爺ちゃんやひい爺さんの代から植えられていて、「おめぇが家を建てる時は、この杉を使うんだぞ」と爺ちゃんによく言われていたそうだ。
冬になると、西側の大きな山脈からは、冷たい風や吹雪が吹き下ろす。 立派に育った屋敷杉が、家にあたる風や雪を和らげていた。
お父さんが、二本目の杉に手をかけた所――。
妹が突然、倒れた。
ぐったりしていた妹をお母さんが抱き起すと、熱があった。 慌てて座敷に寝かせ、すぐに お医者も呼んだが、妹の熱は下がらない。 翌日になっても、妹の具合は改善しなかった。
お母さんは近所の拝み屋さんに駆け込んで、事情を話した。急いで 拝み屋さんを連れて戻ったが、家には入らず庭の屋敷杉をじっと見つめだした。
拝み屋さんは、屋敷杉に向かって手を合わせ、数珠をすり合わせながら何かをブツブツと呟いた。そしてお父さんの方へ怖い顔をしたまま振り返ると、こう言った。
「ちゃんと拝んでがら、切ったのが?」
お父さんはバツの悪そうな顔をした。 拝み屋さんは言った。
「屋敷杉が怒ってら。長年、この家を守ってきたのにってな」
そして、拝み屋さんの言うとおりに供え物をして、しめ縄を貼り、きちんと拝むと、妹は嘘のように目を覚ましたという。
「見たことは無いけど、多分、家にも庭にも神様みたいなモンが居たんだべなって思うんだよね」
その人は、そう言っていた。
