仮想の世界を大冒険 【エッセイ】
この時がいつかは来るだろうと覚悟はしていた。
子どもは誰しもが通る道かもしれない。
しかし汚い大人の僕はある試練を思いついた。
この試練を乗り越えられないようでは その程度の覚悟だったということ。
まだまだ時期尚早だったのだと諦めもつくだろう。
そう、長男(5歳)のゲームデビューだ。
子どもたちは遅かれ早かれ終わりのないゲームやスマホなどのデジタルデビューを果たすのだ。
これは現代の自然摂理であり抗うことはできない。
しかしパパは少しでも抵抗したい。
ゲームやスマホというのは楽しい。
幼い子どもに その楽しい遊びのやめどきを見極められるとは到底思えない。
大人だって強く依存してしまうというのに。
そのゲームをしている時間に外で体を動かす事で得られた発見を逃してしまうかと思うと無性にゲームをしている時間がもったいなく感じてしまう。
そこでパパは考えた。
子どもの好奇心やチャレンジ精神を尊重しつつも、もしかするとゲームは難しく楽しくないのかもしれないと思い込ませる作戦を。
その作戦は「一人称仮想コントロール」と名付けられた。
フフフ。
まさかこんなにも卑怯な手を使う時がくるとは。
今だけは持ち前の爽やかさを封印しよう。
可愛い息子がゲーム廃人にならないために。
果ては人生を棒に振らないために。
さて 長男がやりたいと言い出したゲームは「マインクラフト」である。
世界でもっとも売れているゲームらしい。
サンドボックスというジャンルになるのかな。
世界の全てがブロックで構成されており、そのブロックを削りアイテムとしてゲットしそれらを駆使して冒険したり創造を楽しむゲームだ。
想像力を育む知育ゲームとしても人気らしい。
かくいう僕も数年前にドハマりして課金して友達とプレイしていたことがある。
なのでマインクラフトの基礎的な知識は持ち合わせているのだ。
この知識を有効に活用させてもらうとしよう。
クックック。
知識とは悪用するためにあるのだ。
このマインクラフトはプレイヤーの視点を選ぶことが出来る。
動かすキャラが画面内に見えている「三人称視点」と、動かすキャラの目線となる「一人称視点」だ。


テレビゲームをした事がない長男にはキャラクターを動かすという概念がない。
そんな長男がいきなり一人称視点でゲームをするとどうなるか。
そう、何が起こっているのか理解できないのだ。
しかも画面に映るのはブロックで構成されたテクスチャの粗い世界。
画面右側に映るキャラの手も、手とは認識できない。
そんな息子にパパはこう説明した「この無限に広がる世界で君はなんでも出来るんだよ」と。
これは底抜けにいじわるな言葉だ。
ゲームをした事がない人間を はっきりとした目的もない自由な世界に放り出すのは、初めてのお使いを数多くある電子決済でさせるような残酷さがあるのだ。
案の定長男は「何をしてよいのやら不明状態」に陥った。
さすがに可愛そうなので、チュートリアルとしてパパが操作し簡単に説明をする。
ここでも長男にはもうひとつの大きな壁が立ちはだかるのだ。
それは「仮想コントローラー」である。
長男はタブレットでマインクラフトをプレイしているのだ。
外付けのコントローラーはない。
画面に薄く表示されている仮想コントローラーでキャラクターを操作する必要がある。

ただでさえ一人称で今、自分がどういう状況にあるのかよくわかっていないのに、仮想コントローラーで動かすと言われてもチンプンカンプンなのだ。
動かしても景色が動くだけでなんのこっちゃわからない様子。
そして一人称視点で必要になるのがカメラワークだ。
キャラクターの視線を動かして進行方向を決める必要がある。
その視点を動かすには何もない空間を指でスワイプする。
仮想コントローラーですらない画面をスワイプしてコントロールする。
こんなにも酷い仕打ちをしたのは、初めてのゲームでやらせるこれはゲーム依存になって欲しくない一心で心を鬼にした結果なんだ。
ゲーム以外にも楽しいことなんてたくさんあるんだよ。
でもゲームをしたことがないのに批判するような人間にはなって欲しくない。
長男は無事にゲームに触れることができ、彼の世界ではゲームは全て一人称仮想コントロールなんだという認識になっていることだろう。
フフフ。
これで長男がゲーム廃人になることはない。
いい仕事をした。
この時、僕は大きな過ちを犯していたことに気が付いていなかった。
その後、長男は一人称仮想コントロールにもめげずに毎日少しづつプレイしていった。
はじめはプリプリと怒りながらプレイしていた彼は、いつの間にかひとりで広大な世界で創作活動を楽しんでいた。
「パパ見て!秘密基地!」
とブロックで構成された世界には一人しかいないのに秘密もへったくれもないが、そんな野暮なことは言わずにしこたま褒めるパパ。
作戦「一人称仮想コントロール」は見事に失敗した。
僕の唯一の過ちはマインクラフトが世界で一番売れているゲームだということを甘くみたことだった。
これだけ世界で愛されるゲームなんだからちょっとやそっとの試練など無意味。
長男はパパの試練を克服し、ゲーム廃人への道を一歩踏み出したのだ。
こうなればパパは一緒にゲームを楽しむ他ない。
こうして親子で一緒にマインクラフトの世界で一緒に遊ぶことになったとさ。
めでたしめでたし。
