ウイルスにご注意を
「最近、患者が多いな」
世界中の歯科医が悲鳴を上げていた。
虫歯が全世界で爆発的に増加していたのだ。
WHOはすぐに調査を開始し、すでにパンデミックに陥っていると発表した。
僕はアイスを食べながらニュースを見ている。
「WHOはそんな発表はいいから きちんとした歯磨きのやり方でもレクチャーすりゃいいのに」
「パンデミックなんてコロナでみんな慣れっこだろ」
と家族の前で悪態をつく。
妹は洗面所で「またニキビ増えてる!」と叫んでいるし、新聞を読んでいる父親は虫歯が痛むとメソメソしている。
台所にいる母親はどこかボーっとしている。
世界は混乱しているかもしれなが、うちの家族ほどじゃないな。
僕はそんなことを考えならが、ニュースを何気なく見ていると速報を伝えるキャスターの焦った声が聞こえてきた。
「速報です。先程、WHOから虫歯急増の原因は『虫歯ウイルス』であると発表がありました。繰り返します……」
虫歯菌って細菌じゃなかったっけ。
「痛ッ」
僕は持っていたアイスを床に落としてしまった。
突然、歯にしみて驚いてしまった。
虫歯になんてなったことなんてないのに。
ニュースは続いている。
「虫歯ウイルスは強力な感染力を有しており、空気感染する可能性が高いとのことです。近くに虫歯ウイルス罹患者がいる際は、1.5m以上の距離を取り、マスクの着用が推奨されています」
おいおい。
またマスク生活かよ。
無くなる前に買いにいかないとな。
「父さん、今のニュース聞いてた?虫歯ウイルスだって。父さんもそれにやられたんじゃない?」
僕が笑いながら言うと。
父さんは新聞から顔を上げて苦々しい顔で「なにか治療法のことは言っていたか?」と質問をしてきた。
ふたりでニュースに目線を移す。
「一度感染してしまうと完治は困難であり、虫歯が残っている状態では常にウイルスを放出しているとのこと、すぐに最寄の歯科医に相談してください」
「結局は歯医者か…」
父さんはボソリと呟く。
そんな父さんの顔にはニキビがたくさんできている。
僕も無意識に顔を掻いているとガリッとニキビを掻きむしってしまった。
「痛ッ!ニキビなんて久しぶりだな…」
母さんは相変わらず台所でボーっとしている。
母さんの顔にもニキビを見つけた。
「ねぇ父さん、母さん なんか変じゃない?」
「んー?そうかな。いつも ぼんやりとしているじゃないか」
ドタドタと大きな音が聞こえたと思ったらリビングの扉が勢いよく開いた。
「ねぇ!私虫歯になってる!毎日ちゃんと歯磨きしてたのに!」
妹は泣きながら訴えている。
僕らはそのあまりの剣幕に何も言えずに妹を眺める。
一瞬リビングはシーンとなりニュースの声が聞こえてくる。
「虫歯ウイルス意外にも様々な細菌がウイルスへと変異しているとの見解も見られています。現在、確認されているのは…虫歯ウイルスとアクネウイルスに…認知症ウイルスとのことです」
「そうかこのニキビはアクネウイルスの仕業か」
僕は正解を見つけた喜びでテンションが上がってしまい、認知症ウイルスというあり得ない事実に疑問を持たなかった。
いや、既にもてなかったのかもしれない。
妹は手鏡を見て「やだっこんなにニキビできてる!」と叫んでいる。
父さんはテレビの画面を見ながらボーっとしている。
僕は何か異変が起こっていると感じているがどうしたらいいのかわからないでいる。
ついさっきまで騒いでいた妹も、焦点の合っていない目線で空中を眺めつつ顔のニキビを掻きむしっている。
「父さん!しっかりして!」
「これはきっと認知症ウイルスだ!」
「すぐに病院にいこう!!」
僕が叫びながら体を揺すると、ゆっくりとした動作で僕の方を向き言った。
「認知症…ウイルス…?」
「あう…なんの…はなしですか…」
