霊的シンギュラリティと質量保存則 【ショートショート】
地球の質量の総量が減っている。
科学者たちの試算によれば、46億年前に地球が誕生してから現代までに実に20%もの質量が減っているとの結果だった。
質量保存の法則が破られた。
人々はこのままでは地球の資源が枯渇してしまうと恐怖した。
質量の減退を防ぎ生き残る為、様々な調査が行われた。
その結果、原因は幽霊にあると科学者たちは結論付けた。
生き物が死んだ時、一部が幽霊となることで完全には質量が循環しないことが指摘された。
そこで、幽霊を改めて物質化し 質量を確保する方法が提案された。
そして長い時間を掛け、発明されたのが幽霊を物質化する装置であった。
人々の焦りが技術を大きく飛躍させた。
この偉業を人々は「霊的シンギュラリティ」だと称えた。
問題は幽霊は一箇所には留まっておらず絶えず流動的に移動している為、位置を捕捉することが困難なことだった。
資源の枯渇が目前に迫り、焦った人類は止むなく地球全域を対象とし幽霊を物質化することに決めた。
「物質化した幽霊が暴れ出したらどうするんだ」
と不安を訴える人も当然いたが、このままでは社会が成り立たないことも理解していた。
少数の意見は無視され、議論が熟す前に なし崩し的に装置の使用が決定され、それは速やかに実行された。
ブゥン。
装置が稼働したその瞬間、世界中に散らばっていた幽霊たちは一斉に、そして瞬時に物質化した。
物質化した幽霊に意思はなくただの物言わぬ物質だった。
人々の心配は杞憂に終わった。
しかし、物質化した幽霊の質量は科学者たちの想像をはるかに超えるものであった。
過去に死んだ様々な生き物の幽霊は、地球上を隙間なく埋めた。
結果、地球上の生き物はすべて押しつぶされ 息絶えた。
幽霊は物質化し、生き物は幽霊となったのだ。
そして装置を作動させるまえと質量に変化はなかった。
質量保存の法則が働いたのだ。
