て、て、て なのか てぃ、てぃ、てぃ、なのか 【エッセイ】
とつぜん驚愕的なものを目の当たりにしたとする。
そんな時、あなたならどんな言動をとるだろうか。
そしてそれを文章で表現するとどんな風になるだろうか。
小説なんかでよく見るのは
「目を大きく見開いて…」とか
「後退りして…」とか
なんにも言わずに行動で示すパターンと
「そ、そんな…」とか
「ば、ばかな…」とかみたいに
言葉がすんなりでないぐらい驚いていることを表現したりするパターンがある。
今回はこの同じ言葉を繰り返す表現についての疑問を投げかけたい。
あなたの目の前に化け物が現れたとする。
この状況を同じ言葉を繰り返して表現すると
「ば、ば、ば、化け物〜ッ!」
みたいになるだろうか。
驚いて言葉が詰まっているので、きっと言葉を選ぶ余裕はなく 素の自分がでてしまうと想像する。
周囲に気を配る余裕はない。
この条件を理解する為に練習してみよう。
問題
「あなたの目の前にろくろ首が現れた」
はい。
言葉に詰まりながらも目の前の状況を説明してみよう。
「ろ、ろ、ろ、ろくろ首だ〜ッ!」
とっさにこの答えがでた人はよっぽどの妖怪通だろう。
凡人ならば
「よ、よ、よ、妖怪だ〜!」か
「お、お、お、オバケ〜!」となるだろう。
さて、ここからが本題だ。
先の問題と同じ要領で考えて欲しい。
問題
「あなたの目の前にティラノサウルスが現れた」
僕にはこの問題の正解がわからない。
たぶん正解なんてないんだと思う。
でもこれを読んでいるあなたにも この難解な問題を抱えて悶々としてほしい。
え?
話がよくわからないって?
では、あなたが考えた回答を声に出して言ってみて欲しい。
この問題の回答は大きく2パターンに分かれるだろう。
ティラノサウルスと表現するパターンと、恐竜と表現する2パターンだ。
では「て、て、て」だっただろうか?
それとも「てぃ、てぃ、てぃ」だろうか。
同じように「き、き、き」だっただろうか?
それとも「きょ、きょ、きょ」だろうか。
目の前にティラノサウルスがいるんだから、もちろん命の危機といえるだろう。
切羽詰まった絶体絶命のピンチ。
そんな状況で文字数の多い「てぃ」なんて使うだろうか。
でも良い慣れた「てぃ」や「きょ」を捨てて「て」や「き」に変換する余裕などあるだろうか。
あぁ…
考えれば考えるほどわからない…
ティラノサウルスが現代にいないことが悔やまれる。
これじゃ実際に試すこともできやしない。
このままじゃ小説「ろくろ首はティラノサウルスにくびったけ」が書けない。
ある時、ろくろ首は悟った。
この世界には私好みの首の長いヤツはいないと。
そんな失恋にも似た悲しみを打ち消すように 何気なく見ていた図鑑に首の長い恐竜がいた。
名をブラキオサウルスというらしい。
ろくろ首はブラキオサウルスの力強い太い首に憧れた。
しかし彼は太古の昔に滅んでしまった。
逢いたい…
日増しに力強い首への恋慕が高まる。
ろくろ首は決意した。
過去へいこうと。
幸い、彼女はリケジョだった。
かくしてタイムマシンは完成し、白亜紀後期へ向かった。
無事に白亜紀後期に降り立ったろくろ首は、しばらく鬱蒼と繁ったジャングルを歩き回った。
大きな木を右に曲がろうとしたとき、大きな恐竜と鉢合わせぶつかった。
そこには大きく太い二本足で立つ恐竜がいた。
ろくろ首は大きく目を見開き叫んだ。
「 、ティラノサウルス〜ッ!?」
ほら、この問題が解決しないと話が先に進まない。
「て、て、て」なのか「てぃ、てぃ、てぃ」なのか。
この後、ろくろ首とティラノサウルスがあんなことやこーんなことになるのに。
一本の太い首よりも太い二本の足に惹かれる乙女心の移ろいや、ティラノサウルスの無骨ながらも時折みせる優しさや。
そして途中ライバルなんかも現れて現代に連れていったり、すったもんだあった先にあんなにも残酷なバッドエンドが待っているというのに。
残念ながらこの小説はお蔵入りだ。
さぁあなたもこの一生解けない問題を抱えながら生きるがいい。
そしてこの未完の小説の続きを夢想して悶々とするがいい。
ではまた。
