節分に咲く花 【掌編小説】
「節分にだけ咲く花ってのを知っているか?」
これは行方不明の父さんが言っていた言葉だ。
まだ幼かったぼくは ふーん と聞き流す。
男の子が花に興味を抱くなんて恥ずかしいと思っていた。
でもその花が行方不明の父さんに会うためのアイテムだとしたら?
「その花はな。常世の国へ行くためのチケットになるらしい。父さんは母さんにどうしても会いたいんだ」
父さんはそう言い残して昨年の節分の日に姿を消した。
きっと節分にだけ咲く花を見つけて母さんに会いに行ったんだ。
そして帰り方がわからなくなったのか、帰りたくなくなったのか。
とにかく ぼくが助けにいかないと。
「大阪の南の方にある大きな古墳近くに伝承が残っているらしい」
父さんが残した言葉と手記を頼りにぼくは新幹線に乗り大阪を目指した。
父さんが残した手記には「ノ」という記号が何度も出てくる。
「ノノノノノ」と連続で書かれていることもあった。
どうやら重要な記号のようだ。
ぼくは、手記を道しるべに 常世の国について色々と調べた。
黄泉比良坂という場所から地下に降りていくと、常世の国に着くという。
そういう神話が残っているらしい。
その黄泉比良坂は節分の日に黄泉の国から現世に向かって開かれるのだそう。
そして鬼が現世にやってくる。
節分はその鬼を常世の国へ追い返す為の儀式ではないかという説が有力だが、節分に咲く花というのは謎に包まれている。
常世の国へ行くには花と言葉が必要らしい。
謎は深まるばかりだ。
父さんはどこでこの話を聞いたのだろうか。
ノノノノノという記号はどうやら神の名前のようだ。
ノノノノノノミコト。
謎に包まれたこの神が節分の花を咲かせるのだろうか。
手記にはノノノノノノミコトは納豆が苦手とある。
節分の豆ではないらしい。
一応準備しておいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えている内に眠ってしまったらしい。
夢の中で父さんが「助けてくれ」と叫んでいる。
「ノノノノノノミコトには近づくな」と繰り返すが顔は見えない。
ぼくは必死に手を伸ばすが届かない。
「花はに…!」
「新大阪〜」というアナウンスで目を覚ましたぼくは 嫌な汗を拭いながら新幹線をおりた。
新大阪から列車を乗り継ぎ、大阪の南にある大きな古墳の前に来ていた。
時刻は昼を少し回ったころだ。
広場では子どもたちが節分の豆まきをしている。
鬼に扮した大人が追いかけられていた。
福は内 鬼は外というかけ声がなんとも微笑ましい。
古墳の周囲にはそれらしい花も、黄泉比良坂のような場所も見つけることはできなかった。
父さん、どこにいるんだよ。
ノノノノノノミコトなんてどこにも書いてないよ。
ぼくがベンチに座り 途方に暮れているといつの間にか目の前に人が立っていた。
「あの、お花でもお探しですか?」
ぼくは驚いて顔を上げるとそこには、この世のものとは思えない程の 清楚で可憐な奥様 としか形容できない人が微笑んでいた。
いつの間に。
ぼくは、おカメを彷彿とさせる白く透き通った肌に一瞬見惚れていた。
何を話せばいいのか逡巡した後、ダメ元で節分の花について聞いてみた。
「あらあら、まだお若いのに節分の花だなんて穏やかじゃないのね」
清楚で可憐な奥様はホホホと笑いつつ答える。
ぼくは昨年の節分に父さんが行方不明になったこと、それには節分の花が関係していることを説明した。
「そういえば昨年の節分に花にしてあげた殿方にどこか似ているわね」
ドクンと心臓が跳ねる。
この人は父さんを知っている。
ぼくは父さんのその後と、節分の花について詳しく尋ねた。
「あれは常世の国への片道チケット。もし現世と往復するのなら お花はふたつ必要なのよ」
この人は一体何者なんだ。
人間離れしたこの清楚さと可憐さが怖い。
こんなに綺麗なのに目は鬼を思わせる鋭さと冷たさがあった。
でも父さんを助けるにはこの人に頼るしかない。
ぼくは花が咲いている場所を尋ねた。
父さんを常世の国から助けるためにどうしても必要なのだと説明した。
「ウフフ、健気なのね。奥さんを追って常世の国へ行った身勝手な父親なんて放っておきなさい」
ゾッとするほど冷たい表情で言う。
ぼくは勇気を振り絞って、諦められない 父さんは助けを求めていると食い下がった。
「ならば古のしきたりに従い、節分の花を咲かせましょう」
「材料となる人間をここへ連れてきなさい」
その手にはいつの間にか身の丈ほどもある金棒が握られていた。
ぼくは混乱した。
材料?
人間?
花は植物の花ではなかったのか。
あの金棒はいったいなんだ。
「あなたのお父様は材料を連れてくることができなかった」
「誰かを犠牲にするくらいなら自分が材料になるって言っていたわ。素敵なお父様ね」
「だからお望み通りお父様を節分の花にしてあげたわ」
「この金棒で脳天をかち割ってね」
「人間の柔らかい脳天から溢れ出る真っ赤な血。それが黄泉比良坂へのチケットなのよ」
「さぁあなたも節分の花になってお父様のところへいきなさい」
いつの間にか鬼のような形相になり金棒を持つ腕は筋骨隆々で清楚で可憐な面影はどこになかった。
その電柱のような腕でぼくの脳天をかち割ろうとする。
ブォン!
ぼくは金棒をすんでのところで躱す。
神であるノノノノノノミコトがそんなことをしてもいいのか!と呼びかける。
「ウフフ。神だなんて設定は撒き餌よ。あなたたちみたいに死んだ人に執着する人間への撒き餌」
「ワタシはノノノノノという清楚で可憐なただの鬼」
ノノノノノ鬼はニタリと笑い金棒を振り上げた。
ビュン!
金棒がぼくの頭上から振り下ろされる。
ぼくは咄嗟にもっていたバッグでガードした。
ダメだ死ぬ。
父さんごめん!
ガキンッ!
「な、なんだ!金棒が弾かれただと!?」
鬼の手から金棒が離れぼくの横に転がる。
ぼくのバッグが淡い光を放っている。
「おまえぇぇぇ!まさかアレを持っているのかぁ!!!」
鬼が後ずさる。
ぼくはバッグから淡く光るものを取り出した。
もしもの時の為に新大阪で買った納豆だ。
納豆は空中に浮き上がり強く光った。
一粒一粒が光り輝き混ざりあう。
納豆は金色の糸をひきながらノノノノノ鬼へと向かっていく。
「や、やめろ、くるな、くるなぁ!」
ノノノノノ鬼の身体は金色の糸でぐるぐる巻にされていく。
全身を輝く糸が覆っていく。
まるでおカメのように真っ白になった。
そしてぼくの目の前には金色の糸に包まれた金棒があった。
ぼくはその金棒を握り ノノノノノ鬼へと歩む。
金色の糸のおかげか まったく重さを感じない。
鬼は完全に身動きが取れずに全身が金色に輝いている。
ぼくは全身全霊で金棒をノノノノノ鬼の脳天へと振り下ろした。
ぐちゃ。
嫌な音をたてて鬼の脳天はかち割られていた。
金色の茎に真っ赤な花びらが咲いている。
これが節分の花か。
節分の花となったノノノノノ鬼の身体は徐々に薄くなり消滅した。
常世の国に帰ったようだ。
父さんがぼくをここに導き、おまえを倒させたんだ。
ぼくは父さんの手記を手に持ち涙を流した。
ガキンッ!
ぐちゃ!
あ…れ、目の前が真っ赤に…
「ウフフ。だめよ『ノノは外』ってかけ声がないとワタシは殺せないのよ」
「今年の節分の花もキレイに咲いたわね」
「フフフ。来年も楽しみだわ」
終。
noteで鬼キャラを演じている友達に捧ぐ。
