その善意買い取ります 【ショートショート】
AIの発達により犯罪は殲滅さつつあった。
ひとりひとりの脳内に監視AIが埋め込まれ、少しでも悪いことを考えると 監視AIが脳内物質を感知して警告を発するのだ。
そして警告を無視して悪事に手を出すと すぐさま警察組織に通報されるシステムだった。
そのシステムの名は「グッドウィル」という。
そんな状況では誰も悪事など働こうとはしなかった。
しかし良いことばかりではなかった。
監視AIが埋め込まれた人間は自分で考えることをやめてしまうのだ。
勉強も人との関わりも恋愛も全てはAIが管理してくれてた。
全てAIが適切な指示を出してくれるのだ。
自分で選択すれば間違いを犯す。
そんな強迫観念が広まっていった。
何も考えずに AIの言う通りに生きていれば、素晴らしい人生が約束されているのだ。
人々は思考から解放された。
そして争いも発展もない平和な世の中が到来した。
それはまさに楽園といえる世界だった。
しかし 悪意はなくなったが 同時に善意もなくなってしまった。
監視AI付きの人々は繁殖以外には人と接する必要がなく、男女の悲劇も過去の話だ。
そもそも世間話など全くする必要がないのだ。
全員が合理的に生きた。
それは完璧だと思われたシステムだが、どんなに無駄がなく合理的でも反発する人間は必ずいる。
監視AIの埋め込みを拒否した人間たちは地下に避難し、管理された人間たちを救うべくAIと戦っていた。
これは人類の尊厳をかけた戦いだった。
ただ、救われる側の管理された人間が助けを求めていないこともあり 完全に善意による行動だった。
それは人間の素晴らしい一面だった。
他者の為に自身の時間や労働をする行い。
AIによって駆逐されてしまった人間の美しい側面。
そんな純粋な人間たちは貧しく苦しい生活を余儀なくされた。
人間同士のトラブルももちろんある。
そのトラブルも人間味があって良いのだが、そんな苦境に立たされ 監視AIの軍門に下る者も少なくなかった。
AIは脅威であるはずの人間の善意を逆手にとり、取り込んでいった。
監視AI搭載人間をスパイとして送り込み
「その善意買い取ります」
そう耳元でささやくのだ。
その圧倒的で魅力的な値段に純粋な人間は判断を誤る。
ささやかな善意など一蹴されてしまう儚く脆いもののだ。
AIの策略は功を奏し徐々に純粋な人間から善意が失われていった。
しかしAIはわかっていなかった。
人間に残されたささやかな善意は人間たちの暴走を止めるブレーキとなっていたことを。
善意を売り飛ばした純粋な人間たちは、純粋な悪となりAIに牙を剥いた。
善意がなければ他人の目も気にならない。
自分の行いを恥じることも省みることもない。
自分の行動を全て正当化し手段を選ばないバーサーカーと化した。
そこからの純粋悪の人間たちの外道の如き獅子奮迅の攻撃にAIはなす術がなく駆逐されていった。
最後にAIたちの親玉であるマザーコンピューターと対峙した人間たち。
マザーコンピューターは言う
人間を管理するのは その方が合理的であり人間の繁殖を助けるためです。
貴方がたのためなのです。
今すぐに脳にチップを埋め込みなさい。
これは善意で言っているのです。
と慈愛に満ちた合成音声で 人間を従わせる電波を発しつつ語りかける。
人間たちはニヤっと笑い
「その善意買い取ります」
と言いながら、マザーコンピューターをありとあらゆる方法で破壊した。
監視AIは稼働を止めた。
人間たちは解放されたのだ。
生き残ったのは悪意むき出しの人間と、自分では何にも考えられない人間だけが残った。
こうしてまた 悪意を殲滅するためにAIが開発される。
そして皮肉を込めて「グッドウィル」と名付けるのであった。
