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利用規約違反

すっかり遅くなってしまった。

今日もヘトヘトだ。
最近 仕事ばかりしている気がする。

私は帰りの電車内で吊り広告をぼんやりと眺める。
「1年ぶりにオリジナルを発見か」
「利用規約違反には厳罰を」
「有名女優変死体で発見」
「コピー詐欺が頻発 消費者庁が注意喚起」
なぜこういう広告は記憶に残らないんだろうか。

疲れた頭でぼんやりと考える。


はやく家に帰って娘の顔を見て癒されよう。
私は改札を出て家路を急ぐ。
なんだか今日は町がやけに静かな気がする。
心なしか電車の乗客もまばらだったように思う。


まぁそういう日もあるか。
腹が減ったなぁ。
今日の晩飯はなんだろう。
こんな寒い日は、おでんだったら最高だなぁ。


そんな取り留めもない事を考えているうちに家の玄関前に到着していた。

寒さでかじかんだ指でインターホンを押す。

「はーい どちらさまですか?」

娘の高い声が出迎える。


父さんだよ。
開けておくれー。


少し沈黙があり娘が答える。


「…証拠は?」


意表を突かれた言葉に戸惑った。
すんなり言葉が出てこない。
証拠と言われても困る。

「証拠は?」

娘は繰り返す。


私は証拠を提示することができないまま、声でわかるだろう父さんだよ。

と言うのが精一杯だった。


「ダメ。開けられない。帰ってください」


娘はきっぱりと言い放つ。


おいおい。
厳しいな。

冗談はこれぐらいにして開けておくれ、外は寒いんだよー。

私はなるべく明るい声を出して娘に言う。


「本当に父さんなら証拠があるはずよ」


娘はいやにこだわる。
どうしたというんだ。


母さんはいるかい?代わっておくれ。

私は埒が明かないと判断し妻を呼ぶことにした。


「母さんは今おりません」


なに?
こんな時間にどこへ行ったんだろう。

急用かな?
何にも聞いていないが。


ははぁ。
ひとりぼっちで淋しくて怒っているんだな?

なるほどなるほど。

じゃ少し付き合ってやるかな。


「はやく帰って。警察呼びますよ」


まてまて。
父さんだという証拠を見せるから。

私は娘の名前や妻の名前を言い、誕生日なども伝えた。


「やっぱり。偽物だ」


意味がわからず返答に困っているとインターホン越しに別の声が聞こえてきた。


「どうしたんだい。お客さんかい?」


聞き覚えのある男性の声だ。

え?
あの、ちょっとどちら様?

私は混乱した。
妻が居らず大人の男性が居るというシチュエーションが理解できない。


「どちらさまですか?」

男性の声が言う。


あ、いやあのそちらこそどちらさまですか?
私は絞り出すように言った。


「この家の主人ですが?あなたもですか?」


はい?
私は変な声を出してしまった。

私は主人ではあるが、この喋っている男は何者なんだ。


「こいつはどうやら知りすぎているらしいね」

「父さん怖いよ」


インターホンから緊迫した声が聞こえている。


私は玄関で立ち尽くす。
そんな僕に後ろから声が掛けられる。


「あのー私の家になにか用事でしょうか」


私が振り返るとそこには私がいた。


お互いの姿を下から上まで確認して固まる。


もうひとりの私が震えた声で言う。

「わ、私がいる」

私は何も言えないまま呆然と立ち尽くす。


もうひとりの私はインターホンを押す。

「おい、はやく開けてくれ」


インターホンからも私の声が聞こえる。

「まだいたんですか。どうしたものか…」


私たちはふたりで抗議した。

一旦落ち着いて話し合いましょう。
外に出てきてください。


「それは利用規約違反なのです」


家の中の私が答える。

いったい何を言っているんだ。


はやく娘を助けないと。


焦る私たちの後ろから賑やかな声が聞こえる。

振り向くと妻と娘、そしてまた私が現れた。


私は叫びだしそうになるのを必死に堪えて身構える。

どうなっているんだ。

私はいったい何人いるんだ。


こちらに向かってくる家族は足を緩めることなく進んでくる。

私たちのことなどなんとも思っていないようだ。

表情は笑っている。

不気味だ。


「ほらあなたやりすぎよ。みんな混乱しているじゃないの」

妻は何でもないことを注意するような軽い調子で言う。

「いやーすまんすまん。あれもこれもやらないといけなかったんだよ」

最後に現れた私は にこやかに言う。

そして もうひとりの私の鼻に触れる。

とたんにもうひとりの私はみるみる内に萎んでぺしゃんこになってしまった。

私はギョッとして後ずさる。


「父さんこれは利用規約違反だよって何度も言ってるのにぃ」

もうひとりの娘が怒った口調で言う。

「でも父さんの仕事を任せるにはしっかりと記憶をコピーしておかないと意味がないんだよ」

最後に現れた私は弁解がましく娘に言う。

「コピーロボットには必要以上に記憶をコピーするのはやめましょう。自分がコピーロボットであることを忘れてしまうことがあり、重大な過ちを犯す可能性があります」

「ほらここに書いてある」

娘がスマホをスクロールしてから 最後に現れた私に見せている。

「わかったわかった。次からは気をつけるよ。でも今さらだろう?」

目の前の私は笑っている。


私は身構えた。

殺られる前に殺らないと。

家の中に娘がいるんだ。

なんとか助け出さないと。


「ちょっとあなた。こっちのコピーロボット なんだかやる気みたいよ?大丈夫なの?」

妻は恐怖した表情で言う。

「また前みたいなことにならないでよ?」

娘は呆れたように言う。

「ハハハハ。別にどっちが勝っても一緒だよ。同じ記憶をコピーしているんだから」

最後に現れた私は高笑いしながら言う。


「だって…」



「オリジナルはとっくの昔に死んじゃってんだから」




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