見出し画像

Honda FCに反Jリーグを求めるのは間違いでないだろうか〜後編:全てに「背景」があるならば〜

前編はこちら

一部の点について、定義を整理

反Jリーグの定義:「反Jリーグ」という言葉には幅がある。よって、本稿では「Jリーグを一つの対抗軸として位置づけ、その存在を否定的に語る言説」を便宜上そう呼ぶこととする。

Honda FCの行ってきた「適応」について:Honda FCは、Jリーグ発足以降も企業クラブとしての枠組みを変えなかった。
それが理念として守られたのか、環境への適応の結果だったのかは外部からは断言できない。
ただ少なくとも、形を大きく変えないまま、その枠内で競技力を高め続けてきた事実はある。
「変化はする。だが変貌はしない」。そんなように、外部からは見えている。

上記を明言した上で、続けます。

スタジアム 一長一短 光闇~世のこと、押しなべて単純にはあらず~

近年、日本各地でサッカースタジアム問題が頻出している。そしてそこにおける論調は、なにかと反Jリーグ側によって槍玉に挙げられがちである。

おそらく、ではあるが。彼らにとって、Jリーグ及びクラブ側の主張は「サッカー至上主義」に見えるのだろう。

そして彼らは、あくまで「我々こそが、地域の意志である」という姿勢を取っている、と感じる。

だが。コトはそんな単純化されるべきものではないと、筆者は思う。サッカースタジアム問題を背負う天秤の片側、地方公共団体。彼らは企業に比べて博打を打てない性質を持つ。さもありなん。今や税金の使い方は、ひどく監視されている。特にハコモノとなればよく目立つ。声の大小はともかく、住民から反対の声は出るだろう。
更に。現代はさして景気が良いわけでもない。成績如何で立場の変わるサッカーチームに投資はし辛い。そんな考えもあるだろう。これは、薄情でもなんでもない。いくつも存在する道理の、一つであると筆者は思う。

しかし。もう一方であるサッカークラブ側においても。コトは切実だ。最初からすべてが整っていた、あるいはどうにか整えた形で始まったオリジナル10と呼ばれるチームならまだしも。後から追走して来たチームの中には、その勢いに設備が間に合わなかった(間に合わない可能性が出る)例が見受けられる。
その場合に引っかかるのが、いわゆるライセンス制度だ。機構としてのJリーグは特例(という形でのシステム柔軟運用)をあの手この手で駆使しているようだが、これがかえって別の反感を買ったりなどもしている。ともあれ。老朽化したスタジアムの更新にせよ、新規大型スタジアムの建設にせよ、より多くの資金と協力を準備し、より上のライセンス基準に沿うものを作りたい。それこそが、サッカークラブ側の真意だと思う。

そして、ここまでの綱引きの一方で。「Jリーグクラブは、ホームタウンの協力がなければ成り立たない」という最大にして最低限の基準が存在する。そう。サッカークラブ側が地方公共団体に支援を仰ぐ根拠とも言える部分であり、反Jリーグ側が「公金を貪るな」と弾劾する部分である。

閑話休題。ここまで、そこそこの字数を使ってスタジアム問題を分解した。

サッカークラブ側は、より高度なライセンス基準に沿ったスタジアムを作りたい。そのためにより多くの、よりリスクの低い支援を得たい。
地方公共団体側は、サッカーにベットする金額――つまり出費、ひいては住民の税金――をなるべく少なくしたい。
反Jリーグを標榜する勢力は、「公金を貪るな」「自力で作れ」「ライセンス制度が実情に沿ってない」「身の丈で運営しろ」などとJリーグやそこに籍を置くクラブを叩くための根拠にする。

で、だ。実は、この「自力で作れ」を本当にやってのけてしまったスタジアムが、Honda FCには存在するのだ。

Honda都田サッカー場。民設民営。本田技研工業が主にサッカー部のために建設した、完全自前の天然芝・サッカー専用スタジアムである。

筆者の知る限り、現時点でこの建造物には一切浜松市の金は使われていない。実は今般そこそこの改装中であるが、これにもまた、本田技研工業の資金が投入されていると見られる。まさに「完全自前」の「身の丈に合ったスタジアム」だ。

さて、こんな「実例」を見たら反Jリーグ勢力はどう見るであろうか。その証左が、上に置いた記事において片鱗を見せている。そりゃそうだ。あまりにも「公金に頼らない運営」のモデルスタイル過ぎる。格好の的でしかない。

でもね。

これ、多分「Honda FC、そして本田技研工業にしかできないスタイル」だと筆者は思うんだ。
いや、違う。Jリーグクラブが、公金を支援に使うことを肯定したいわけじゃない。はっきりと言うなら、「Jリーグクラブとは完全にスタイルが違う。これは別の生態だ」と言いたいんだ。

そして、前編でも記した通り。Honda FCはこのスタイルになるまで、相応の代償を払っている。前編では、「アマチュアで在り続けること」そのものが、代償の一つであることも綴ってきた。今回後編でも、Honda FCが払っている代償について、また述べることをお許しいただきたい。

代償:小さい・新しくはない・天皇杯の試合を開催できない

前編で綴った通り、Honda FCが今に至ったのは「結果論」であり、かなりの「特異点」である。その特異点ぶりは、実のところスタジアムにさえ及んでいる。
Honda FCはJFLに多いジプシー開催に悩まされることもなく、自前のスタジアムで観客に試合を謳歌させている。後に述べるが、かなりの安価でだ。

だが。その自前のスタジアムは、あまりにも小さい。J3ライセンスにさえ届かない。
なにせ、収容人数2506人。天皇杯本戦の試合でさえ、相手スタジアムに道場破りを仕掛けざるを得ない。大挙してやって来るであろうJサポーターを迎え撃てる設備を、残念ながらこのスタジアムは持ち合わせていないのだ。
もっとも、Honda FCには現時点でJのライセンスは必要ない。だからこそ、この小ささが許されるのだ。

そして。決して新しくはない。近年は小まめに改装を繰り返しているが、なんと昨年までスコアボードがアナログかつ簡素なものだった。オーロラビジョンや電光掲示板が全盛のこの時代にあって、なんともレトロである。いや、これがいいという声もあったようだけど。

実は軽く築30年以上は経過しているので、耐震にもやや不安があるかもしれない。更に、代償とはまた異なるが、アクセス面が非常に弱い。駅からものすごく時間がかかる。バスが少ない。車必須。よくもまあ、こんな立地で昨年ホーム観客平均1000名を達成したものである。それだけ、Honda FCが努力を重ねているのだろうけど。それもまた、「特異点」かもしれない。

その身の丈に、「正義」はあるのか

さて。スタジアム問題というのは、ひいては運営の問題にもつながる。すなわち、「身の丈に合った経営をしろ」という言説だ。

これは地味に、下部リーグのクラブチームにすら効く。地域CL――JFL昇格を懸けた大会――に出場するクラブが、遠征資金をクラウドファンディングで募る。そんな光景を、多少目にしたことがあるからだ。「そんななら出るな」とまでは言わないが、やはり全国に打って出るというのは難しい。そんな事実を、思わせる光景だった。

そしてHonda FCの経営は、かなり身の丈で行われていると筆者は感じている。前述した通り、Honda FCホーム戦のチケット代は破格過ぎる。なんと大人で500円だ。Jのクラブチームがこんなことをやれば、赤字で破綻まっしぐらになる可能性がある。とてもオススメできない。

そして、グッズもすごく安い。マスコットのぬいぐるみでも、2000円まで行かなかった記憶がある。さすがにユニフォームを買い求めるとなると5桁するが、それでもおそらく安いだろう。

しかし。ああ、しかしである。この破格は、「本田技研工業がHonda FCを丸抱えし、従業員の福利厚生として運営している」からこそ成り立つのだ。結果論である面はあるが、上を追求せず、多くを求めないからこそ成り立ってきた実例なのだ。

そう。これはあまりにもクラブチームとは違う生態である。地域に依って立ち、スポンサーを募らざるを得ず、収益も、観客動員も求められる。そんなクラブチームには、おおよそ真似できない姿なのだ。

いや。Honda FCとて、たしかに地域を見ている。地域に向けた、活動をやってもいる。なんならアンダーカテゴリーチームだって存在する。だがその毛色は、残念ながらサッカークラブの生存を賭けたそれとは若干異なる。悪く言えば、「やってもやらなくてもいいもの」なのだ。だが、本田技研工業とHonda FCはそれをやっている。思惑はわからねど、それが事実だ。

さて。ここまでHonda FCの「身の丈運営」について語ってきた。正直、「本田技研工業の規模ならもっとやれるのでは?」とは思わなくもない。だが、現在の本田技研工業は現状を「身の丈」としている。それはある意味、非常に健全な姿だ。だが、代償はある。

まず一つ。「Honda FCは、浜松市の支援を受けていない」。「受けられない」「受け取らない」のか、「受け取ろうと思えば受け取れる状況」なのかは、筆者は外部の人間ゆえにわからない。ともかく、現在のHonda FCは浜松市とは付かず離れずの状態にある。クラブチーム側から見れば、「健全ではなく」見えるかもしれない。

そして今ひとつ。これこそが、Honda FCの取った道における、「最大の代償」とも言えるだろう。そう。「本田技研工業が方針を改めれば、Honda FCは一瞬にして消え失せる」のだ。

残念ながら。Honda FCが実業団チームである限り、この事実から目を逸らすことはできない。一昨年、ソニー仙台FCが日本サッカー界から消え去ったように。経済不況の時期に、多くの実業団スポーツチームが幕を閉じたように。Honda FCとて、その可能性は否定できない。故に、Honda FCは強さ(実績)を標榜するのかもしれない。だが、強かろうとも幕を閉じた例はある。いわば、「常に崖っぷち状態」でもあるのだ。

大企業と、地方公共団体及びスポンサー。どちらが背後にあろうとも、複雑な事情というものは背景にあるのだ。

故に、Honda FCの「身の丈運営」を「正義」とは言わない。そして、身の丈運営そのものも、正義とは断じない。

クラブチームはサポーター、スポンサーの期待を背負う。彼らの期待はまず、「チームが強いこと」「露出を増やし、スポンサーの名を広めること」だ。
よって、クラブチームは時に勝負に出なければならない時もある。「身の丈」だけでは現状維持――他チームが進む中では、衰退への選択となり得る――にしかならない。そんな恐れさえも、内包しているのだ。
過剰な放漫経営、給与に未払が出る、黒い行為に手を染めるまで行くともはや断罪の領域だが、「機会において大きな金を投資する」のは、やむを得ないことだろう。反対の声とて、きっと織り込んでいる。だが現実は往々にして想定を上回る。多分、それだけなのだ(読みが浅いという可能性もあるが)

ありとあらゆるものに、「背景」がある。ならば。

筆者はここまで、「Honda FC」という存在と歴史、払ってきた代償について語ってきた。はっきり言って、外部の人間ゆえに断言できないことは多い。だが、細心の注意は払ってきたつもりだ。

しかし。Honda FC以外のチームにも、それぞれの背景が存在する。
低評価を覆してJの構成員となり、常勝を掲げてトップをひた走るチーム。
前身からの名門たるを引き継ぎ、今なお上位層で走り続けるチーム。
お荷物から脱却し、熱狂的ファンに支えられて名門に成り上がったチーム。
一度はアマに転落するも、強力な資本と監督を得て羽ばたき出したチーム。
革新的な思想を掲げ、今なお上を目指し続けるチーム。

J1。J2。J3。計60チームだけではない。JFLの他15チームにも。地域リーグ以下のごまんといるチームたちにも。それぞれの背景が存在する。

そして。ここからが重要だ。彼らを支えるサポーターにも。地域にも。スポンサーにも。ありとあらゆるものに、「背景」は存在している。それは歴史であったり、地域の事情だったり。辿ってきた人生だったり。本当に、多岐に渡る。

恐縮ながらにHonda FCの例をまた出してしまうが、Honda FCがHonda FCたるに至ったのは、「同業他社を抱えるものづくりの街・浜松」や「Jリーグ成立前からサッカーが県内各地に根付いていたサッカー王国・静岡」という背景があったからだと筆者は思う。

前者がなければHonda FCは遅かれ早かれ浜松を背負ってJリーグにいただろうし、後者が欠けていればHonda FCはHonda FCたるを許されず、上を志すような圧力を掛けられていたかもしれない。一時期確実に存在した、「おらが街にJリーグ」という熱。それは、それなりに凄まじかったのだ。

ともあれ。この世のありとあらゆるものに、「背景」というものは確実に存在する。その背景が決断を分け、実情を生む。筆者は当初、ここに「物語」という言葉を当てようと思った。しかし改めた。それは結局、物事を矮小化し、単純化してしまうのではと感じたからだ。

そう。「単純化」。物事というのは、対立ではない。考え方が幾重にも渡って並び立ち、その中で共存の道を探っていく。合わせられるところを、擦り合わせていく。単純に二極対立、対抗軸を組み上げていくのは、ただの喧嘩腰だと、筆者は思う。

ここに、筆者は改めて書く。己の感想を、改めて書く。「Honda FCは、Jリーグの対抗軸ではない」「Honda FCは、Jリーグとは異なる生態だ」。そして願わくば。この特異点、世にも不可思議な生態が愛され、更なる隆盛を遂げることを願う。

結:全ては続く。複雑に。

Honda FCと、クラブチーム。それぞれ置かれた土壌が違う。背景が違う。資金の流れも違えば、地域に対する向き合い方も違う。
企業の内側にあるチームと、地域に対して開かれたチーム。それは背負ったものの違いと言ってもいいだろう。

これは、理念や形態の優劣ではない。背景が異なった結果、選択が変わっただけだ。

拡大を図るクラブ。収斂を図るクラブ。どちらも間違ってはいない。それぞれに背負ったものの重さが存在する。

進化とは、足し算を積み上げることだけではない。維持を続けるための変化も、また進化と言えるかもしれない。

それらの選択が正しいかどうかは、すぐにはわからない。「続いている」「複雑ながらも、続いている」。その事実だけが、今は存在している。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集