レスポールと機関銃
「新郎、礼州宝溜(レスポル)男さん、あなたはここにいる須斗羅徒(ストラト)子さんを妻とし、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
はい、誓います。
「新婦、須斗羅徒子さん、あなたはここにいる礼州宝溜男さんを夫とし、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
はい、誓います。
わたくし巍舞尊(ギブソン) 礼州宝溜男35歳は、晴れて須斗羅徒子/旧姓:笛音蛇(フェンダー)さんと本日結婚式を迎えた。
ジミヘンのようなロックスターを夢見て、学生時代はバンドを組んでいたけれど、夢は夢のままってわけ。で、卒業を機に解散。
因みに須斗羅徒子も同じサークルで他のバンドを組んでいた。まあ、成初めはよくあるそういう感じだ。
今日はその時のバンドメンバーもお祝いに駆けつけてくれている。
教会での式は無事に終わり、その流れのままホテルでの披露宴が始まった。
進行は滞りなく執り行われ、次は新郎側の友人による余興が始まる模様。
「さあ、お次はなんと!学生時代に新郎がボーカルを務めたバンドが、一日限りの復活ライブを披露してくださいます!さあ、礼州宝溜男さん!ステージへどうぞ!!」
無理無理!声も出ないし、歌詞とかもはや覚えてないってば!(サプライズの雰囲気を出してはいるが、当然知っていた。この数週間、しっかりと歌い込んできたのだ)
『レッドが良かった』
知らぬ間に選ばれた
明日の平和を担ってしまった
身の上を明かせない
たとえ君にも まして敵には
きっと果てなどない
世知辛い運命
子供らが喜び それだけで幸せだった
暗い過去特にない
約束事を果たせていない ヒーロー
きっと出せはしない
美しい光線
大人らのお遊び それだけが迷惑だった
寝てる間に選ばれた
他人の平和を担ってしまった
身の上を明かすから
僕と二人で どこか遠くへ
やっぱり言えん イエロー
最後のイエロー、、、先走って誤爆しかけたのを、Yeahに切り替えて誤魔化したの、、、バレてしまっただろうか?
それはそうと、やはりバンドで演るのはいいものだな。否が応でも気持ちがあの頃に戻ってしまう。
ヒーローの日常的な苦悶をテーマにした作品。私の最高傑作であり、夢を諦めさせてくれた一曲でもある、、、か。
「素敵な演奏をありがとうございました!続いては新婦側のバンドの登場です!実はのど自慢大会で鐘を鳴らしまくった実績があるほど、美しい声をお持ちの須斗羅徒(ストラト)子さん。現在のお仕事がキャスターというのも納得です。では聴いていただきましょう!!」
『if•••もしもし』
もしも電話をかけてたら
もしも君に伝えてたら
違う未来があるとか思ってる
星も輝き疲れたら
もしも抗うのをやめたら
辛い世界になるとも思ってる
ああ 分かれ道を
右か左か決めかねてる
答えは知ってる 知ってる
また 別れ道が
右へ左へ手招いてる
被害者ぶってる 言ってらあ
何度聴いても須斗羅徒子の歌は素敵だな。それに、このバンドはやっぱりマサル先輩のドラムが良い。他とは安定感が違うよね。
なんて事を思っていると、突然、会場のドアが勢いよく開いた。皆の視線が一点に集まる。
そこには、和製ダスティン・ホフマンという言葉がピッタリすぎる程にベンジャミン顔の男が立っていた。
因みにこの男、須斗羅徒子の元カレである。当然、披露宴には呼んでいなかったのだが。
これは、、、もしかして、映画『卒業』?
ズンズン進むベンジャミン。
あの略奪の?
迷わず高砂席に向かってくる。
もう式は終わってますけど?
「It's too late(もう遅い)!」と、誰かが叫ぶ。
「Not for me(私には遅くない)!」と、ベンジャミンが答える。
「You,of all people(お前がかよ)!」と、須斗羅徒子がツッコむ。
略奪は無事失敗に終わってくれたようだ。
崩折れるベンジャミン。
「それでは、せっかくのご乱入ですので、ダスティン・ホフマン似のお兄さんにも一曲失恋ソングを歌っていただきましょう!どうぞ、ステージへ!!」
彼はなぜか満更でもない顔をしていた。
『恋衛門』
静かな午後 涙のひと
舞台がちょっと できすぎだと
思ってる
涙の横を 男の人
僕ならもっと 優しくそっと
それが思い違い
馬鹿みたい
お呼びでない
君はもう独りじゃないのに
間のびな午後 優しいひと
僕ならそっと してておくれよ
つまり素直じゃない
すれ違い
スネちゃいない
唇は尖って
あれから見かけない
「じゃあいいやん」じゃない
もう終わりかい?
忘れるのは楽そうだね そうだね
音はサイモン&ガーファンクルと言うよりもボビー・チャールズに近いか、、、。
(彼は演奏していなかったわけで、つまりそれはザ・バンドの音と言っても過言ではないわけだけども)
そして、なんてイイ声をしてやがる。尾崎紀世彦が舞い降りたのかと思った。
さらに歌詞、、、。浅いようで深いようでもあり、やっぱり浅い。でも洒落は効いている。皆は藤子・F・不二雄的な奴らが登場している事に気がついているだろうか?
私はすっかりファンになって、、、いや、ベンジャミンの事を好きになってしまった。
あれ?彼もこちらを見ている。
トゥントゥクトゥン。
言葉はもう要らない。
運命という名の磁力。
手を取り合い駆け出す二人。
何が起きているのか理解できず、呆然とする須斗羅徒子。
とんだカオスティックロマンス。
どうかしてしまっているのはわかっているさ。
力任せに押し開けられたドア。
その全てがスローモーションに見えていた。
会場を出たところで、ピアノの前に座る神父と出くわした。彼は一瞬で状況を察したようだったが、何も語ろうとはしない。
その代わりなのか何なのか、おもむろに演奏が始まった。いつの間にかシスターも数名集まってきている。
そして、歌を乗せる神父。その横顔はレオン・ラッセルを彷彿とさせる色気があった。
『エンジェルけたたまし』
安直な願い 彩かしてちょっと
遠回り自体 意味がかくれんぼ
遠巻いた希望 取巻きは面倒
エンジェルにしよう どんとこい、どうぞ
劈いてごらん
音はけたたましましけたましけたたまし
あんみつ食べたい 妖かしてもっと
神父が何を伝えたかったのか、意味も意図も全くわからなかった。
わからなかったが、わからなすぎて我に返った。
なぜ私はこの男と駆け落ちしようとしているのか?今はその意味がわからない。
急に須斗羅徒子が恋しくなってきて、とりあえずベンジャミンの頬に右手でビンタをして、左手でもビンタをした。
私はサイコパスなのでしょうか?
踵を返し、さっき出てきたばかりの扉を開けて披露宴会場に戻る。
そこには怒りに震える須斗羅徒子が機関銃を構えて立っていて、目が合うやいなや私に向けてぶっ放してきた。是非に及ばず。
奇跡の全弾命中でパーフェクトな蜂の巣状態。
当然のように絶命してしまったので、エビデンスはないんだけども、彼女は多分「It's too late!」と言っていた。
へへ。撃たれながら唇の動きを読んだんだ。
さっそく幽霊となった私は、そう言って鼻を擦ってみせた。
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「っていう夢を見たんだよ。」
ソファに寝転ぶ須斗羅徒子に、そう話しかけた。
彼女と私は明日、結婚式を挙げる。
結婚式前夜。いわゆる幸せの絶頂というやつだ。
「何よその夢、変なの」
私に背を向けたまま、彼女は応える。
「そうなんだよ。皆歌い出しちゃうしさ!それにベンジャミン?と逃避行とかありえないよな」
「ううん。そうじゃなくて、その後のところ。私、そんな事言ってないし」
その後?・・・何の事だろう??
「私、It's too lateなんて言ってないよ」
え・・・!?
ゆっくりとこちらを振り向いた彼女は、なんとセーラー服を着て機関銃を持っている。
「本当はあの時ね、『カ•イ•カ•ン』って言ったんだよ」
了
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