主語は、きっと『私』——ピンカートンに会いにいく
ちょっと映画を観てみたい。
何となく、「軽めで楽しいのが良いな」と思って観たのが、この映画でした。
ピンカートンに会いにいく
かつて、ブレイク寸前で突然解散してしまった伝説の5人組アイドル「ピンカートン」。20年が過ぎ、リーダーだった優子は今も売れない女優を続けていた。
ある日、優子の元にレコード会社の松本と名乗る男からかかってきた電話。
それは「ピンカートン再結成」の誘いだったのだ。
所属事務所もクビになり、気づけば人生も半ば。崖っぷちに追い込まれた優子は、再起をかけ松本と一緒に元メンバーに会いに行くが、メンバーのうち3人はすでに芸能界を去り、返事はつれない。
さらに一番人気だった葵の行方がわからず、彼女を知る人たちを訪ねて回るのだが…。
プライドだけが肥大した“こじらせ女子”まっしぐらの優子は、過去と向き合い、20年分のわだかまりを乗り越え、「ピンカートン」を再結成させることができるのか!?
<出演>
内田慈/松本若菜/田村健太郎/山田真歩/水野小論/岩野未知
/小川あん/岡本夏美/柴田杏花/芋生悠/鈴木まはな
<スタッフ>
監督:坂下雄一郎
あらすじを読むと面白そうな。
かつての仲間との再会、そして再結成の舞台に挑む。
笑いあり、涙あり、青春を取り戻しちゃうよ!的な映画かな?と思いながら観てみました。
良かったところ
①主人公の優子(内田慈)への共感
かつてアイドルとしてチヤホヤされた頃のことを忘れらずに、芸能の仕事にこだわりを持っている。
でも、望んでいるような仕事はもらえないし、この先も何となく見えてきていて焦りも感じる。
そんなことはわかっているけど、認められない。認めたくなくて、素直に受け入れられない。
友人の成功を喜びたいけど、悔しさや寂しさが先に出てしまって、つい思いと違うことを口走ったり、素直に謝れなくなったり……。
優子ほど、わかりやすく悪態をついたり、表現したりはしないけど、心のどこかで「中学生の頃に夢見ていた自分は、こんなはずはなかったのに……」という気持ちを持っているのは私も同じです。
バンドを組んで、そのバンドが解散した時のことや解散の経緯、その後のメンバーとの関係を考えると、優子の気持ちが痛いほどわかる。
素直になれば良いんだろうけど……ね。
すごく気持ちがわかったし、私は共感できました。
②すれ違う思い出と現実の表現
大人の優子を中心に物語は描かれていますが、この映画は回想シーンの入れ方が独特で、優子の視線の先に「子ども時代の優子と葵(松本若菜)が並んで、楽しそうに事務所や他のアイドルの悪口を言い合って歩いている(そのまま、すれ違う)」とか、子ども時代の優子に「ホントに見苦しい」と言われたり、過去と現在が混在して描かれます。
「だから話がわかりにくくなっている」と感じる方いるかもしれませんが、私は「過去と現在が地続きであり、過去の行動が今を生み出している。だからこそ、今を変えることで、これから先の未来を変えることができる」ということを表現していて、より深く物語が理解できる仕掛けなのだと思いました。
例えば、「こんな仕事、二度としたくない!」と言い放った子ども時代の優子。カメラはそのまま映し続けて、楽屋に入ってきたADに声をかけられて、大人の優子がやる気なく返事をすることで、あの時の一言が、今の優子の置かれた状況に結びついていることを表現していました。
また、子ども時代に、メンバーと初めて挨拶するシーンで「神崎優子です」と言った瞬間に、大人の優子がコールセンターの仕事で電話を受けて「神崎です」と名乗る。ここも、挨拶の仕方を通じた優子の変化がわかりやすかったです。
このように、過去と現在が行き来していくことで、優子の気持ちが「芸能界で輝いてた頃に返り咲きたい。そのきっかけとしての再結成」ではなく、かつて自分が壊してしまった友人たちとの思い出や失われた夢をもう一度、取り戻したいという想いに変わっていたのだろうと思いました。
③それぞれのメンバーのキャラクターの描き方がうまい
優子だけでなく、他のメンバーのキャラ付けがうまくできていて、非常にわかりやすかったです。
子どもの頃は、そのキャラの差があまりはっきりしていないというのも、リアルでした。大人になっていく過程でそれぞれの個性が目立つようになっていくのは現実でもそうだと思います。
なお、「メンバーの優子と葵以外のメンバーの描き方が足りない」という感想もあるかもしれませんが、これは選択の結果だと思います。
もちろん、5人にはそれぞれ人生があり、想いがあり、物語があります。
でも、全員を同じ深さで描こうとすると、映画のメッセージがぼやけます。
ピンカートンは、子ども時代から2対3でした。リーダーの優子と人気があった葵にスポットを当て、解散から再会までに話を絞ることで映画としてまとめているのだと思います。
もっとも、「魅力的なメンバーだったから、もっと深く知りたかった」という意見が出るのもわかります。
3人のメンバーの想いがより描かれれば、メインの話の伝わり方も変わったかもしれませんし。
④理解してくれる人の存在の大切さ
レコード会社に勤めていて、かつて『ピンカートン』のファンだった松本(田村健太郎)は再結成の企画を打ち出して、各メンバーに声をかけていきます。
ひょろっとしていて頼りなさそうに見えますが、情熱的だし、思い込んだらやり遂げる意志の強さもある男です。
優子の態度に呆れて突き放したりもしますが、実は彼女の性格をよくわかっていて、葵に対して「優子を許してあげて欲しい」と頼んでくれたりします。
子どもの頃に、こういう存在がいてくれれば、ピンカートン解散も防げたかもしれません。
ただ、再結成に向けたプロモーションなどはあまり戦略が感じられなかったし、優子と出会うシーンでは人違いしたまま話しを続けたり、熱意はあるけど仕事はできないタイプなのかもしれません。
⑤伏線のはり方
オープニングとエンディングだけでなく、先に示していたことが後で再現されたり、つながっていることが多いので、細かい会話や描写をよく観ていると面白い作りになっています。
例えば大人になった優子が学生映画に出るシーンで「30年ぶりの再会で涙を流すってやり過ぎじゃない?緊張もしないよ、絶対」と言っていたのに、実際に葵との20年ぶりに対面する時になると、公園で話す内容を練習したり、涙ぐんだり。
気になったところ
①演技が舞台っぽい
全体的にはとても好きな作品なのですが、多少演技が舞台っぽくて大げさだったり、距離感が変だと感じました。
例えば、再結成コンサートの開演前のシーン。
舞台袖から客席を覗いてメンバーたちが話をするのですが、あの位置で、あのボリュームで話をしたら客席まで声が聞こえます。
もっとヒソヒソと話すか(映画なので、声はマイクで拾えますから)、楽屋でモニターを見て話すとかの方がリアリティがあったと思います。
あと、ドラマでよく見るのですが、長テーブルに数人で座るシーンで、カメラに後頭部が映らないように座る、あの演出。私はちょっと苦手です。
②くくり
あらすじの中では『プライドだけが肥大した“こじらせ女子”』と表現していましたが、女子に限りません。男子も、というか私だってそうです。
何となく、ここでわかりやすく『こじらせ女子』とくくることで、逆にこの映画の世界を狭めてしまうというか、ラベリングすることで単純な世界観と感じさせてしまっているような気がしました。
優子と葵の再会シーンでの葵の微妙な表情の変化は、心の動きが見事に表現されていましたし、そこでの一言が良かった。
また、それを受けての優子の対応もまた素晴らしかった。
こんな風に、実際はメンバーたちの心の動きを、ものすごく繊細に表現しているのに、もったいない。
③葉月の娘
メンバーの一人、葉月(岩野未知)の中学生の娘は不登校になっていたのですが「再結成したら学校に行く」と言い出しますが、この流れが少し唐突に感じました。
葉月は、家族にもアイドルをやっていたことを教えていなかったのですが、こっそり美紀(山田真歩)やかおり(水野小論)から映像を見せてもらっていました。
その時に「いつもイライラして、キツイ言い方の母親が、あんなにもキラキラと嬉しそうに歌っている姿を見て何かを感じたんだろう」と、推察はできますが、もう少し説明があると良かった。
④時間配分
これはやむを得ないかもしれませんが、後半がぎゅっと省略されて、一気に話が飛んでいくので、もう少し、時間を使って描いて欲しかったです。
ただ、あっさりしていたけど、あのラストはとても良かった。
すごく好きな映画でした。また観たいです。
そして、見終えて気づいたのですが、この映画のタイトルには主語がありません。
誰が、ピンカートンに会いに行くのか。
優子かもしれないし、松本かもしれない。 再結成を心待ちにしていたファンなのかもしれません。
ただ、この映画のピンカートンは、単なるアイドルグループではなくて、「叶えられなかった夢」や「すれ違ったままの友情」や「置き去りにした気持ち」などの象徴として描かれています。
だから、この映画の主語は、きっと『私』なんだと思いました。
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そんなわけで、このプロジェクターに感謝です。
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