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仲が良いチームほど、本音が言えなくなる。―「これ、お願いしていい?」が言えるチームをつくる―

師長として病棟を異動したときの話。

前の病棟とは、スタッフの年齢も、ライフステージも少し違った。

若いスタッフが多い。

時短勤務のスタッフもいる。

妊婦さんもいる。

新婚のスタッフもいる。

いろんな生活を抱えながら、みんな看護師として働いている。

それ自体は、もちろん悪いことじゃない。

むしろ、当たり前のことだと思う。

でも、異動してきてしばらくして、

「なんとなく、変だな」

と思った。

ギスギスしているわけじゃない。

仲が悪いわけでもない。

よそよそしいわけでもない。

なのに、なんとなくお互いに遠慮している。

そんな感じがした。


「仕方ないよね」の中にあるもの

たとえば、時短勤務のスタッフ。

決められた時間になったら帰る。

それは当然のこと。

でも、帰ったあとの業務を誰かが引き継ぐことになる。


妊婦のスタッフもそう。

安全のために、できる業務には制限がある。

その分、他のスタッフが担う仕事も出てくる。

もちろん、みんな分かっている。

「妊婦さんだから仕方ないよね」

「時短だから仕方ないよね」

そう言っている。

でも、その「仕方ないよね」の中に、

「正直、ちょっと大変なんだけどな」

という気持ちが混ざっていることがある。

大きな声では言わない。

言いにくいから。

だって、その人は悪くない。

もともといい人だし、一緒に働いていて助かる存在でもある。

だからこそ、言いにくい。

一方で、時短勤務や妊娠中のスタッフの側にも、

「私がみんなの負担になっているんじゃないかな」

という後ろめたさがある。

誰も悪くない。

でも、なんとなく遠慮し合う。

私は、そこに違和感を感じた。


「もっと仲良くしよう」では解決しない

こういうとき、

「みんなで助け合いましょう」

「お互い様だからね」

と言うのは簡単。

もちろん、大切なことでもある。

でも、それだけでは解決しないと思った。

なぜなら、

「お互い様」という言葉だけでは、誰が何を担っているのかが見えなくなるから。

私は、そこを明確にすることにした。

誰が何をできるのか。

何ならお願いしていいのか。

何はできないのか。

そして、できないことがある代わりに、何ができるのか。

「配慮してください」ではなく、

「この人は、ここで力を発揮できます」

という形にしていった。


時短勤務だからこそ、できること

時短勤務のスタッフには、もちろん時間で帰ってもらう。

そこは守る。

その代わり、平日日中に継続して勤務してくれているという強みを活かす。

学生さんが来る。

インターンシップがある。

職場体験がある。

そういう日中の業務をお願いすることもある。

ただし、何でもお願いするわけじゃない。

受け持ち人数は調整する。

そして、時間になったらちゃんと帰る。

「時短だから、みんなに迷惑をかけている」

ではなく、

「時短という働き方の中でも、チームに必要な役割がある」

という状態にする。

妊婦だから「何もしない」ではない

妊婦のスタッフにも同じように考えた。

身体的に負担の大きい業務はできない。

それは当然、配慮する。

でも、

「じゃあ、何をすればいいの?」

になってしまったら、その人もつらい。

そこで、書類整理や入力業務など、身体的負担の少ない仕事を見えるようにした。

「この業務はお願いしていい」

ということを、チームの中で共有する。

すると、

「これ、お願いしていい?」

と他のスタッフが声をかけられる。

妊婦のスタッフも、

「これ、私がやります」

と言える。

これは、単なる業務分担ではないと思っている。

「できないこと」ではなく、
「できること」をチームで共有すること。

それが、本人の居場所にもなる。


「これ、お願いしていい?」が言えるようになる

私は、ここがすごく大事だと思っている。

仲が良いからこそ、

「こんなこと頼んだら悪いかな」

と思うことがある。

「忙しそうだから言わないでおこう」

と自分で抱えてしまうこともある。

でも、相手が何をできるのかが分かっていれば、

「これ、お願いしていい?」

と言える。

そして、

「今ならできるよ」

「今日は難しい」

と返せる。

これだけでも、チームの空気は変わる。

頼ることが、申し訳ないことではなくなる。


誰かを守るために、誰かを犠牲にしない

ここは、管理者として大切にしている。

妊婦さんを守る。

時短勤務者を守る。

それは当然必要。

でも、

そのために、別のスタッフが黙って負担を背負い続ける状態も、
私は「仕方ない」で終わらせたくない。

誰かを守るために、誰かを犠牲にしない。

そのためには、気持ちだけではなく、仕組みが必要になる。

業務を見えるようにする。

役割を明確にする。

負担が偏っていないかを見る。

必要なら受け持ちを調整する。

そして、定期的に見直す。

管理者がやるべきことは、

「みんな仲良くやってね」

と言うことではない。

仲良くしなくても、ちゃんと仕事が回る仕組みをつくること。

その結果として、関係性が楽になる。

私は、そんな順番だと思っている。


心理的安全性って、「何でも言っていいよ」じゃない

最近、「心理的安全性」という言葉をよく聞く。

でも、

「何でも言っていいよ」

と言っただけで、本音が出てくるわけじゃない。

言っても怒られない。

言っても嫌われない。

「できない」と言っても、自分の価値まで否定されない。

「これお願いしていい?」と言っても、相手との関係が悪くならない。

そして、

「自分にも、チームの中でできることがある」

と思える。

そういう小さな経験が積み重なって、

「ここなら言っても大丈夫」

という感覚が生まれるのだと思う。

だから私は、心理的安全性を「仲の良さ」だけでつくろうとは思わない。

安心して働けるように、まず環境と役割を整える。

その上で、人と人との関係が育っていく。


本音を言えるチームは、何でも通るチームではない

ここは、勘違いしたくないところ。

本音を言ってもらうことと、

「言ったことを全部受け入れること」は違う。

スタッフから、

「私はこう思います」

と言われたら、まず聞く。

「なぜそう思ったの?」

と考える。

必要なら変える。

でも、変えられないこともある。

患者さんの安全。

病院のルール。

法律や制度。

組織として守らなければならないこと。

そこは、

「みんなが嫌だからやめよう」

にはできない。

だからこそ、

「ここは変える」

「ここは変えられない」

「変えられない理由はこれ」

と伝える。

聞くことと、受け入れることは違う。

本音を言えるチームとは、

「何を言っても通るチーム」ではない。

「言っても、ちゃんと考えてもらえる」と思えるチーム。

私は、そんなチームがいいと思っている。


明日からできる、小さな一歩

もし、あなたの職場にも、

「なんとなく頼みづらい」

「なんとなく遠慮している」

という空気があるなら。

まずは、

「もっと本音を言って」

ではなく、

「あなたは、何ができる?」

と聞いてみてほしい。

そして、

「これならお願いしてもいい?」

「これは今できる?」

と、お互いの「できる」を見えるようにしてみる。

配慮が必要な人には、

「できないこと」だけを伝えるのではなく、

「あなたには、これをお願いしたい」

を伝える。

フォローする側には、

「負担になっていることはない?」

と聞く。

そして、必要なら業務そのものを調整する。

気持ちだけで「お互い様」にしない。

「お互い様」を、ちゃんと仕組みにする。

それが、管理者の仕事の一つだと思っている。


異動してきたばかりの頃に感じた、あの「なんとなくの違和感」。

今でも、すべてが完璧になったわけじゃない。

でも、

「これ、お願いしていい?」

「今ならできます」

「今日はちょっと難しいです」

そんな言葉が自然に出てくるようになると、チームは少しずつ変わる。

私は、人間関係を無理に近づけたいわけじゃない。

みんなが親友になる必要もない。

ただ、

必要なときに頼れて、必要なときに断れて、そして自分の役割をちゃんと持てる。

そんなチームで働いてほしいと思っている。

仲が良いから、本音が言えない。

だからこそ、

「もっと本音を言って」

ではなく、

本音を言いやすくなる環境を、管理者がつくる。

私は、それも「人を管理する」ということではなく、

人が力を発揮できるように、環境を整えること

なのだと思っている。


次回は……

「あの人さえいなければ」と思ったら。

感情的になってしまうスタッフ。

何度言っても同じことを繰り返すスタッフ。

周りを疲れさせてしまうスタッフ。

管理者だって、正直、

「もう、この人さえいなければ……」

と思うことがある。

そんなとき、私は「人」ではなく、何を見るようになったのか。

次回は、そこを書きます。

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