後遺症を終わらせるまでの話⓽ 前編|金箔みたいな累積

その日、私は少し考え事をしていた。
自分のバイオリズムのことだ。


閃きをメモするアイデアノート

一月は「成長」。
二月は「決定」。

成長の月は、コツコツ積み上げるのに向いている。
ただ、単調になりやすく、途中で飽きが来る。
だからこそ、続けることそのものに意味がある。

そして二月。
決定の月。

これからの十二ヶ月をどう過ごすのか。
どんなリズムで、どんな活動をしていくのか。
ちょうど私がグループホームへ行く時期とも重なっていた。

――後遺症を、どう終えていくか。
――これから、どう生きていくか。

そんなことを、ぼんやり考えていた。

そのとき、
ふっと、ひらめいた。

「……累積のグラフ、作れないかな」

誰かと比べるためじゃない。
競争のためでもない。

自分との約束を、目に見える形で残すためのもの。

一日五分でもいい。
やった事実を、ゼロにしない。
積み上げる、というより、置いていく感じ。

頭の中に、そのイメージが浮かんだまま、
私はいそいそとベッドに入った。

横になり、
目を閉じる。

すると、夢の中で、
私は談話コーナーに座っていた。

いつもの場所。
いつもの椅子。

そこには、
ヒダ君、ヒダちゃん、
そしてミギさんがいた。

「えっとね」

私は、夢の中の自分にしては珍しく、
少し遠慮がちに話し始めた。

「コツコツ積み上げた自主トレの時間を、
累積のグラフにしてみようかなって思ってて」

「どうかな?」

すると、ヒダ君が身を乗り出した。

「それ、一万時間の法則ですよね?」

いかにもヒダ君らしい反応だった。

「一万時間やれば、
極められるってやつですよね?」

テンションが一気に上がっている。

「うーん」

私は少し考えてから、首を振った。

「確かにね、
一万時間の法則は、
続けていけば専門性が高まるっていう意味では近い」

「でも、
私が考えてるのは、
ちょっと違うんだ」

「やるって決めた最初の日は、
みんなすごく張り切るでしょ?」

「でも次の日、筋肉痛だったり、
今日はお休みって先延ばししてるうちに、

だんだんやらなくなっちゃう」

私は続けた。

「だから、
最低五分」

「テレビを見ながらでも、
音楽を聴きながらでもなく、
五分だけ集中する」

「疲れたら休んでいい。
そのときは、グラフに“0”って書く」

「どんなに調子がよくても、
四十分まで」

「やりすぎも、
先延ばしも、
どっちも防ぎたいんだ」

ヒダちゃんが、
そっと手を挙げた。

それって……
チ・リ・ツ・モ、ですか?」

私は、すぐに首を横に振った。

「ううん、
それとも、ちょっと違う」

「チ・リ・ツ・モって聞くとね、
私の中では、どうしても節約のイメージがあるんだ」

「我慢して、
やりくりして、
ちょびっとずつ貯めていく感じ」

ヒダちゃんは、
少し考えながら言葉を探している。

「じゃあ……
コツコツ、
少しずつ積み上げる、
っていう意味でもない?」

「近いけど、
それも違う」

私は、ゆっくりと言った。

「私たちがやっているのは、
“価値のないもの”を
集めているわけじゃない」

「五分でも、十分でも、
集中してやった時間は、
最初から価値がある」

「だから、
“塵も積もれば山となる”
じゃない」

「塵は、
どれだけ集めても、
塵のままだから」

私の頭の中にある映像を、
言葉にする。

「イメージしているのはね、金箔」

「少しの息で、
ふっと飛んでしまいそうな、
薄くて軽い金箔」

「それを、
破らないように、
一枚ずつ重ねていく」

「最初は、
重さなんて感じない」

「でも、
重ねていくうちに、
それが金塊になる」

「そうなったとき、
脳の神経回路が
少しずつ、
太くなっていく」

「私は、
そんな“累積”を
作りたい」


ヒダちゃんとヒダ君は、
顔を見合わせた。

ヒダちゃんが、ぽつりと言う。

「……ご褒美、
あったら続きそうです」

ヒダ君もすぐに乗った。

「俺も!
なんか賞ほしいです!」

私は笑った。

「わかった。
それはミギさんと考えるね」

「サプライズのほうが、
いいかもね」

ミギさんは、
静かにうなずいた。

そのまま、
ミーティングは解散になった。

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