【よっしゃ!】

(第9章)女の子らしく
よっちゃん:……さあ、今日も元気にももちゃんの特訓をはじめようかしら!
よっちゃんが気合を入れたその時、タイミングよくチャイムが鳴った。
ピンポーン。
よっちゃん:……あら、誰かしら?
ドアを開けると、そこにいたのはお隣のミミちゃんだった。
よっちゃん:……なんだ、隣のミミちゃんね!いつも可愛いわね!
そこへ、ももちゃんがドタバタとやってくる。
ももちゃん:……よっちゃん! お客さん?
よっちゃん:……お隣のミミちゃんよ!今からおやつをみんなで食べましょう!
よっちゃんがそう言って、みんなで賑やかにおやつの時間を始めようとした、その時のことだった。
おしとやかなミミちゃんは、「ニャ〜ン」と可愛らしくお行儀よく待っている。まさに「お嫁に行きたい猫ナンバーワン」の愛らしさだ。
一方のももちゃんは、自分の分を出されるや否や、目にも留まらぬ速さでペロリと完食。しかし、ももちゃんの凄まじさはここで終わらなかった。
みんなが「さあ、ミミちゃんもどうぞ」とおやつを差し出した、まさにその瞬間である。
シュバッ!!!
ももちゃんの細くてちっちゃい体が、閃光のように躍動した。あの「レタス竜巻」の修行で極めた、次元の違う身こなしか。誰も反応できない光速のスピードで、ミミちゃんの目の前にあったおやつを、横から「パッ!」と奪い去ってしまったのだ!
ミミちゃん:……ああっ!
おしとやかなミミちゃんも、これには驚いて思わず小さな手を伸ばして抗議する。
ところが、すっかり鍛え上げられたももちゃんは、ミミちゃんの可愛い反撃をフワリかわすと、
「ポン!」
と、軽い一撃で鮮やかにあしらってしまった。
よっちゃん:……ちょっと、ももちゃん! 何やってるのよ!
さすがによっちゃんも、お隣のミミちゃんの手前、慌てて声を張り上げた。
横では几帳面さんがハンカチを握りしめ、キーキーと頭を抱えている。
几帳面さん:……ほらご覧なさい! 技を鍛える前に、まずは礼儀作法よ! お隣の可愛いミミちゃんを見なさいな。おやつをいただいたら『ありがとうございます』って、ちゃんとお礼を言うもんなのよ! そんな野蛮なことじゃ、本当にお嫁に——
ももちゃん:……ちょっと待ってよ、よっちゃん!
その時、ももちゃんが小さな仁王立ちで、よっちゃんをキッと睨みつけた。その目は完全に反抗期のそれである。
ももちゃん:……今まで私に、激安スーパーの戦場で『人混みをかき分けろ!』『一瞬の隙を見て奪い取れ!』って、あれほど熱く教えてきたのは誰よ!? 天井のレタスを毟(むし)り取るまで許してくれなかったのは誰!? 散々奪い取る技術を叩き込んでおいて、今更なにを綺麗事言ってるのよ!
よっちゃん:……うっ……。
愛弟子のあまりにも正論すぎる大反論に、よっちゃんは思わず言葉を失った。
よっちゃん:……そういうのばっかり教えてごめんね。
よっちゃんは、ももちゃんの前にしゃがみ込んで優しく言った。
よっちゃん:……几帳面さんの言う通り、礼儀作法も教えなきゃね。戦う強さも、ちゃんとしたマナーも、両方あって初めて素晴らしい女の子に成長するのよ。
根が真面目なよっちゃんの本気の言葉に、ももちゃんはすぐに納得のいく顔はしなかった。
ももちゃん:……ちぇっ。今まで死ぬ気で教わってきたのになぁ。
後ろを向いて、小さな背中を丸めながらブツブツと文句を言っている。
だけど、ももちゃんはふと、お隣のミミちゃんに目をやった。
おやつを奪われて一瞬びっくりしたものの、またすぐにちょこんとお行儀よく座って、みんなに愛されているおしとやかな姿。
(……そうね。私も、もうちょっと女の子らしくしようかしら)
自分とミミちゃんを見比べて、ももちゃんは心の中でこっそりそう思ったのだった。
一部始終を見ていたあのプライド高き銀河号が、ポツリと呟いた。
銀河号:……俺様も負けるわ。こりゃあ、几帳面の言う通り、嫁に行くのはちょっと無理だな。おいおい、あいつ急に大人しくなりやがった。急に女の子ぶっちゃって、これじゃあ、おめかしを覚えたただの**『マタタビじゃん』**。
几帳面さんも、ようやくホッと胸をなでおろす。
ももちゃんの大特訓の日々は、お隣のミミちゃんのおかげで、ほんの少しだけ「お上品」な方向へと舵を切る……かもしれない。
